胡蝶の夢 | ナノ


▽ 第15話

「…いいのかな」

ある日。
北高の廊下を歩いていてふと思った。
最近、当たり前のように北高の生徒会室を出入りしているけど、これってどうなんだろ。
私、東高の生徒会だよね?下手したら北高の生徒会室の方が滞在時間が長いかもしれない。

「ま、いいか」

運良くか運悪くか良く分からないけど、今、東高の生徒会では仕事がない。いや、あるにはあるんだけど、直ぐに終わってしまうような仕事ばかりだ。生徒会長が来る前に完了してしまう。…だから、生徒会長も北高生徒会室にやたらと出入りしているのだと思う。…多分、今日も居るだろう。私の生徒会長レーダーが反応している。

「生徒会室についた、と」

もう慣れてしまったものだ。
最初はビクビクしながら歩いていたのに、今ではスイスイと生徒会室にたどり着いていしまう。まあ、あの時は初めての男子高校だったし、入ったら入ったでヤンキーの溜まり場かと思ったから仕方ないと言えば仕方がないかな。

「今日はそっと覗いてみようかな」

いつもはちゃんとノックをして中から"どうぞ"っていう声が聞こえるまでドアを開けないけど、今日はこっそりと覗いてみようかな。黙々と仕事をこなしてそうな気もするけど、こう…不意打ちの方がありのままの北高生徒会を見れるかもしれないし。たまにはいいよね、たまには。
中の人に気付かれないように、そーっと、そーっと…
私は音を立てないようのにと生徒会室のドアを開けた。よし、音は響いていない。

「……」

そーっと中を覗いてみると中には金髪、副会長、モトハルが居た。奴らも私と同じようにそーっと覗いていた。
東高生徒会長のパンツを。

(…私、何も見てない)

私は気付かれないようにとドアを閉めた。
…あいつら、何やってんの?
生徒会長も生徒会長で何でハシゴに乗ってケーブルを繋ごうとしているんだ。そこは一番身長の高い副会長が繋ぐべきでしょうに。…まあ、副会長じゃなくても、金髪もモトハルも居るんだからどっちかが繋げよ。自分らの生徒会室でしょ。

(……)

まあ、とりあえず、私は何も見なかったことにして此処から立ち去った方がいいね。
下手に気付かれたらマズいし。生徒会長が自分のパンツを見られているってのを知ったら、生徒会の人らはタダでは済まないだろうし。北高生徒会室を血の海にしたくはない。生徒会長が帰った後に事情を話を聞くとしよう。

「柿本?」

「はう!?」

背後からいきなり私を呼ぶ声が聞こえてきて、私はビクリと肩を震わす。
って…思わず変な声が出てしまったじゃないか。

「か、唐沢さん!?」

「どうした。入らないのか?」

振り向くと帽子をかぶった北高の生徒会、唐沢さんがそこに居て、彼は私が明らかに挙動不審なのを見て不思議そうに首を傾げて居た。
いや、あのですね?入りたいのは山々なんですけどね?今、入るわけにはいかないんですよ。大切な何かを守るために。
私が色々と考えているなんて知るよしもしない唐沢さんは疑問符を浮かべながらも扉を開けようとする。ってちょっと待てぇえい!

「は、入るのちょっと待ちましょう!」

「何故だ」

「ああああのですね!?」

「……?」

怪訝そうに見る唐沢さん。
私は汗が止まらない。どうしよう。って、どうして私が此処まで頑張る必要があるんだ。よくよく考えてみれば、スカートの中を覗いて見ているアイツらが悪いんじゃないの。
ガチャ―…

「あら、忍。あんたも来てたの?」

そんなことを思っていると、私の後ろにあった生徒会室のドアが開いて、生徒会長の声が聞こえてきた。

「あ、は、はい」

どうやら終わったみたいだ。色々と。
生徒会長の様子からするとスカートの中を覗かれたことに気づいてないみたいだ。いや、知らない方がいいと思うけど。知ったら知ったで血祭りになるぞ。

「か、唐沢さんのいれる紅茶が飲みたいと思って。ね?唐沢さん!」

「…は?」

「ね!?」

「あ、ああ…」

ごめんなさいね唐沢さん。嘘に付き合わせてしまって。
最初は"何言ってんだコイツ"見たいな目で見られたけど、私が強く言ったお陰か、唐沢さんは察して話を合わせてくれた。ありがたいです。
とりあえず、紅茶が飲みたい、と適当に理由をつけていれば不審に思わないだろうしね。いや、別に今までも用事が無くて生徒会室に居ても特に問題は無かったけど、今は誤魔化しておきたかった。…アイツらのせいで、ね。

「じゃあ、忍が飲み終わるまで待つわ」

「い、いえ!私、猫舌で飲むのに時間かかるので会長は先に帰って下さい。待たせるのも悪いので」

私はまだ任務が残っている。あの三人に何故生徒会長のスカートを覗いたのか聞かねばならない…!だから、被害者である生徒会長を此処に残しておくわけにはいかない。だから私はキッパリと言った。

「そ、そう?じゃぁ帰るわ。また明日ね」

「はい、さようなら」

手を振りながら去っていく生徒会長の姿が見えなくなるまで、私も手を振り続けた。
ふう、と私は額の汗を拭った。いや、実際には拭く程出てはいないが。

「…どういうつもりだ?」

生徒会長が完全に帰った、ということが分かると今まで黙って居た唐沢さんが口を開いた。

「すみません…中に居る人たちの話が聞きたかったので、唐沢さんの紅茶を理由にさせていただきました」

「話?何かあったのか?」

「見てれば分かると思います」

「?」

唐沢さんににっこりと笑ってから私はキリッと表情を変え、生徒会室のドアを開けた。それはもう乱暴に。
中に居た三人は音に驚いてビクっと肩を震わせていた。

「げっ、忍―…じゃなくて。柿本さん。どうかされましたか?」

いつもの癖で私の下の名前で呼ぼうとした金髪だったが、直ぐに私の苗字を呼んだ。
今は大目に見てあげよう。それよりも言うべきことは他にあるからね…!

「どうかされましたか?ねぇ…。それはあなたが一番よく分かっているんじゃないんですか?北高の生徒会長さん」

「ま、待て!これには訳が!」


ニヤリと笑みを浮かべる私を見て分かったのか、金髪は慌てながら言い訳をしようとした。
相変わらず唐沢さんは状況を理解できていないので小首をかしげている。


「副会長もモトハルもです!何一緒にバカなことやっているんですか!?」

「柿本。話が読めないんだが」

「唐沢さん。つまりですね?この三人はウチのバカな生徒会長をダマしてパンツ覗いていたんです!」

「…お前ら」

「唐沢!そんな憐れむような目で見るんじゃない!」

事情が分かった唐沢さんは、はあ、と大きなため息を吐いた。
北高の生徒会とあろう者がなんてことをしているんだ、と言わんばかりに。
金髪が憐れむような目で見るな、と言うがそれは無理な相談だ。

「大方、そこのバカな会長が言い出したことでしょう」

「お、俺じゃない!モトハルが―…」

「モトハルだったとしたらこんなに落ち込まないでしょ!?」

「うっ…」

ほら、私の言うことがあっているんでしょ?その証拠に北高の生徒会長さんこと金髪は言葉に詰まっていらっしゃる。
金髪は悔しそうに私の顔を見る。悔しかったら何か言い返して見なさいよ。

「まあまあ落ち着いて下さい柿本さん」

「ってあなたも覗いてましたよね!?私見てたんですから!」

なだめるように言う副会長だが、副会長も当事者なんですからね。
私がそう言ったため、副会長の方からギクッという効果音が聞こえてきそうだった。

「…も、申し訳ない」

「申し訳ないで済んだら生徒会は要りませんよ!」

「は、はあ…」

「…ほんと、どう収拾を付けましょうかしら」

と、私は少し考え込んだ。
私がどうにかするのもなんか違う気もするし。別にパンツ見られたわけではないし。…あ、そうだ。

「…ここは唐沢さんに委ねます」

私よりも同じ北高の生徒会である唐沢さんに託した方が無難でしょう。

「俺?」

「唐沢さんは信頼に値しますから」

本来ならば副会長も信頼できる人だったのだが、今回のでランクが下がってしまった。残念なことに。

「…ちなみに柿本さんの中での順位ってどうなんですか?」

「唐沢さん>副会長、モトハル>>会長」

「俺、信頼されてない!?」

「当たり前でしょう!今回の騒ぎの張本人なんですから」

むしろ、スカートを覗いたのに信頼ランクが上の方だとおかしいでしょ。
あ、唐沢さん、嬉しいのかな?ちょっと照れているようにも見える。

「唐沢さん。どうします?」

「そ、そうだな…」

唐沢さんは少し考え込んでから再び口を開いた。

「俺と柿本の飲み物を買ってこい」

「え?」

「それだけで…いいのか?」

「ただし、学校内の自販機じゃなくて近くのスーパーまで行って、だ」

「はあ!?」

「…なんだ、文句あるのか?なんならりんごちゃんさんにチクっても良いんだぞ」

「「「行ってきます」」」

ビシッと三人は敬礼すると走って生徒会室を出て行った。
……もしかして、生徒会メンバーの中では唐沢さんが強いのではないのか、と思った瞬間だった。
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