▽ 第13話
翌日の放課後。
私はまた、北高の正門に居る。
何故かって言うと、今日、私はいつも通りに東高の生徒会室に行ったんだけどそこには何故か会長以外のメンバーは居た。
いつもなら皆揃っているはずなのに、生徒の代表である会長、北高の生徒会では"りんごちゃん"と呼ばれている彼女が居なかった。
理由を聞けば、どうやら北高の生徒会室に向かったらしいとか。
「しっかし、友達にチビって言われたから北高の生徒会に意見を聞こうとか…」
口に出してしまうとため息が出て来た。
まったく、なにやってんだか。
別に小さくても会長は会長ですし、今のままで十分魅力的だと思うけどなあ。同級生だったら愛でる自信がある。見た目だけなら。
っと、また失礼な発言をしてしまった。私としたことが…!てことで、ここの部分はカットの方向で―…って、このやりとり前にもやったな。
「とりあえず、迷惑をかける前に引き取らなくては」
そう思って私は生徒会室に向かった。
頼むから何もしないでくれるなよ、と、心の中で祈りながら。
「か、唐沢さん…!?」
生徒会室の扉の所で倒れている唐沢さんを発見してしまった。
…私の願いが儚く散った瞬間だった。
「大丈夫ですか!?」
声をかけてみると唐沢さんから"あ、ああ…"と苦しそうな声が返ってきた。
「すみません。ウチの生徒会長がご迷惑をかけたみたいで…!殴られたんですか?」
「だ、大丈夫だ」
「大丈夫だったらこんなところで伸びないですよ!手を貸します。起きれますか?」
「す、すまん…」
私は唐沢さんに手を差し伸べ、もう片方の手で彼の背中に手をやりゆっくりと起こした。
何がどうなったら唐沢さんが殴られる、という結果が生まれるのだろうか。不思議で仕方がない。
「とりあえず、生徒会室に入って座りましょう」
「迷惑かけたな…」
「いえいえ、迷惑だなんてとんでもない。むしろウチの生徒会長が悪いんですから…」
ああもう。申し訳なさ過ぎる。
相手があの金髪ならまだしも唐沢さんを殴るだなんて…!あとで強く言い聞かせておかないと…!
私は唐沢さんに手を貸して彼は立ち上がり、生徒会室のイスに座らせた。
私はというと、彼の向かい側に腰を落ち着かせた。
「…ウチの生徒会長が自分が小さいかどうかを訊ねに来られたんですよね?」
「よく知っているな」
「ええ、ウチの生徒会メンバーから聞きました」
そうか、と唐沢さん。
「私の想像からするに、皆さんは彼女の事を"小さい"なんて言わなかったと思うんですけど…」
「ああ、言っていない。副会長にいたっては"男は身長なんか気にしない"とまで言った」
「じゃあ、どうして唐沢さんが殴られる羽目になったのですか?」
今の話からすると、唐沢さんが殴られる要素は全くと言っていい程ないというのに、彼は現に殴られて、そしてさっきまで伸びていた。
「俺らは気を遣うから参考にならないと言われてな。そして会長の居場所を聞かれた」
「その場に居なかったのですか?」
「隣の教室でゲームやってて」
「……」
あの野郎、仮にも北高生徒の代表なのに学校になんてモノを持って来てやっているんだ…!
「会長の所に行こうとしたから俺ら3人は止めにかかった」
「どうしてですか?」
「会長が殴られるから」
「……」
確かに、奴はノリだけで生きている。そして、空気を読まない発言もよくする。
…つまり、だ。
金髪が殴られないようにと唐沢さんたちはウチの生徒会長の前に立ちはだかった、というわけか。
「最初は俺やモトハルがクイズを出して時間は稼げたんだが」
「クイズ?」
「副会長は何歳か、日本は上り坂と下り坂どちらが多いか」
「…2つ目はともかく、1つ目は…なんて答えたんですか」
私の予想では、上り坂と下り坂の問題では会長は即答できなかった筈。まあ、それはそれで良いんだけど…。
問題は1つ目だ。
副会長に失礼なことを言っていないだろうか。頼むから高校生の年齢である15〜18歳の間にしてくれ。
「28歳」
「……」
ごめんなさい副会長。
私、あとで全力で土下座をしに伺います。なんならジャンピング土下座の練習をしときますよ…!
「そんなに気に病むことない」
「いや、そうはいきませんよ…!ああもう、どうして色々とやっちゃってくれるのかなあ、生徒会長は!」
あああああ!と私は頭を抱えた。
頼むから私の仕事を増やさないでくれよ。
「―…で、クイズが終わった後…どうしたんですか?」
問題はここ、だ。
きっとここで唐沢さんは殴られたに違いない。
「会長の元へと行こうとしたから俺が足止めをしようと思って」
「ま、まさか…」
唐沢さんが足止めをする。
それで私は読めてしまった。彼が何をしたのかを。
「ネコの鳴き声をした」
やっぱり。
文化祭の時に披露してくれたアレだった。
「それでバレて殴られたんですね」
「ご名答」
確かに生徒会長は私以上にネコ好きだ。そしてバカだ。
大方察するに、最初、唐沢さんがネコの声真似をしているのを気付かずにネコ自体を探し始めて、ネコの声の正体が唐沢さんと分かった時点で"お前かよ!"とかなんとか言って殴ったんだろう。
「申し訳ございませんでした…!」
「お、おい」
私は勢いよく床に両手をつけ、その間に額をつけた。
俗に言う土下座である。
「ウチの生徒会長がとんだご迷惑をおかけして…!なんてお詫びしたらよいのか」
「大丈夫だから顔を上げてくれ」
「いいえ、そうはいきません!上司がしでかしたことは部下である私の責任でもあります!」
「普通は逆だ」
「ですからこの柿本忍。此処で自害をさせていただきます」
「させていただくとこちらは非常に困る」
じゃあ、どうしたらいいんですか!と私は顔を上げて唐沢さんの方を見た。
そうだな、と唐沢さんは私に手を差し出した。
「今から一緒に隣の教室に来てくれるか?」
「…はい?」
「多分、会長は殴られている。前に俺らに手当してくれたように会長にも手当してくれないか?」
「……」
私が、金髪に手当をする、だと…?
「無理、か?」
「いえいえいえいえ!無理なんかじゃないです!是非とも手当させて下さい…!」
「それは良かった。手当が終わったら東高の生徒会長を連れて帰ってくれ。そしたら今回の事はチャラだ」
「チャラ?」
「ほら、さっき柿本が言っていた"責任"とやらだ」
「ええ!?そ、そんなの駄目ですよ!もっと何かをお申し付けて下さい!」
「ほう、今さっき言ったことが出来ないのか?」
「喜んでさせていただきます!」
私、何だかんだ言って唐沢さんに思うように持って行かれたような気がするな。
私と唐沢さんは隣の教室に行くと、彼の予想通り、金髪は平手打ちを食らった後で口を切っており、私はそれの手当てをした。
北高であまり金髪と関わりたくなかった(金髪のせいでいとこってのがバレたら困るし)が、金髪は私の気持ちをくみ取ってか、他人のフリをしてくれて「わざわざすみませんね。ありがとうございます」と謝罪とお礼の言葉をくれた。
そして、私は東高校の生徒会長を連れて北高を後にした。
帰り道に私が彼女に説教したのは言うまでもない。
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