▽ 第12話
翌日の放課後。
私は昨日の事があって北高の生徒会室に向かっている。
唐沢さんと会話したのが楽しかったので、また会話をしたいな、と思って。
まあ、居なかったら居なかったでモトハルとか副会長、あと、金髪もいるから退屈しないだろうし。
そんなことを思いながら生徒会室のドアノブに手をかけようとした。
『そんなぁ…!ちょっと勘弁して下さいよ。こんなの頼めるの唐沢さんしか居ないんですから…』
生徒会室の中からそんなのが聞こえてきて、私はドアノブを握ることを躊躇った。
唐沢さんしかいない、だと?
てか、この声誰だ。女の子のようだけど…。少なくとも東高の生徒会メンバーではない。他の生徒会の人か?いや、でも、北高は東高以外の生徒会と交流はないはずだ。前にモトハルと会話したときにそう言っていた気がする。
『―…わかりました。失礼します』
そんなことを思っていると、女の子が椅子から立ち上がる音が聞こえてきた。
っと、いかんいかん。そろそろ出てくる!
でも、ど、何処に隠ればいいんだろ。辺りを見渡すと隠れれるような場所ないし。
あ、そうだ。隣の教室に行こう。ドアを閉めてしゃがんでおけば廊下からは見えないだろうし。
私は瞬時に頭の中で判断して隣の教室へと避難した。
そして、少しだけ扉を開けてその隙間から様子をうかがう。声の主をこの目で見てやろうじゃないの。
(あの制服…中央高校か)
私は、この近辺の学校の制服は一応は把握しているため、彼女が何処の高校の人か分かった。
ツインテール女子。彼女は唐沢さんの何なんだろうか…。
いや、待て待て。
この考えはおかしくないか?別に唐沢さんの彼女であろうとガールフレンドであろうと私にとってはどうでもいいじゃないの。
(ん、生徒会室の扉が開いたぞ)
そして暫くして歩いて来たのは唐沢さん。
(もしかして…あの子の後を追うのかな…)
そういえば、頼めるのは唐沢さんしかいない、って言っていたけど、最後の彼女の反応からするに唐沢さんは断ったんだろうな。
でも、こうして唐沢さんが出てきた、っていうことは…あの子を助けるってことだよね。唐沢さん、彼女のことが好きなのかな。
―…いやいや、だからおかしいってば!
私は、ブンブン、と首を左右に振った。変な思考にいたる自分をリセットするかのように。
(ん、まだ誰か居るようだ)
生徒会室のドアがパタン、と閉まる音が聞こえてきたので私はそう判断した。
誰だろう、と教室のドアの隙間から廊下を見ていると、どうやら出てきたのはモトハルのようだった。
え、モトハルも居たの?
てことは、あのツインテールの子はモトハルも居るっていうのに"唐沢さんにしか頼めるのが居ない"って言ったってわけか。
……。
「何かむしゃくしゃする」
何だろう。この気持ちは。
良く分からないけど、胸の辺りがモヤモヤする。気持ちが悪い。
昨日、冗談を言っていた唐沢さんの顔を思い出すと余計に苦しくなってきた。
「何が」
そして何故か私の独り言に対して返事が返ってきた。え、もしかして、私ってば自分で言ったことに対して自分で答えている?いや、そんなまさか。あはは。
「って、も、モトハル!?どうしてここへ!?」
良く見たら目の前が少し暗くなっていて、私の前に人が立っていた。視線を上の方に移動させてみると、先ほど生徒会室から出てきたモトハルだった。あれ、モトハルの歩くコース的にはさっきの女の子、そして唐沢さんを追ったと思ったのに。戻ってきた、てこと?
「いや、それはこっちのセリフだし」
そう言いながら教室のドアを開けた。
ま、まあ、確かにモトハルからしてみれば、他校の私が居る方がおかしいよね。
そ、そうですよねえ、あはは、と私は頭をかいた。
「い、いやあ…!それにしても今日は夕日がきれいですね!」
「……」
「あ、あはは…」
誤魔化そうと思ったけど、誤魔化すことが出来なかったようだ。
場の空気が3、重くなった。
「ったく…何やってんだか」
「い、いや。別に立ち聞きするつもりは無かったんだよ!かかかk、唐沢さんの…、あ、ああああ」
「とりあえず落ち着け」
全てバレたのでモトハルに説明しようとしたら、自分でも何を言っているのか分からなかった。
そして、モトハルに言われて私は深呼吸をした。
お、大分落ち着いたぞ。深呼吸すげえ、と勝手に感心する私。
「唐沢さん、彼女居たんだ」
落ち着いたお陰で、さっき、言いたかったことを言うことが出来た。
しかし、何故だかそれを口にしたら、心のモヤモヤが大きくなった。
「んや、違う」
モトハルは首を振った。
え、彼女居ないの?と、私は少し首を前に出した。
「アイツは…ダチの妹だよ」
「い、妹ォ!?」
あ、ああ、だから、"唐沢さんしか居ない"って言ったんだ。ちょっと納得。
「相談があったんだとよ。ま、俺はアウトオブ眼中みたいだったけど」
「……」
そういえばそうだったね。モトハルが居るのにも関わらず、"唐沢さんしか"って言っていたし。
好き、なんかな。
「もしかして、柿本ってさ」
いや、でも、別に好きでも私には関係ないし。うん、と、思って私はモトハルに『なに?』と言った。
「唐沢のこと、好きなのか?」
……。
まばたきを何度も繰り返す。パチパチ、と。
「え?」
モトハルは私になんて聞いた?え?
いやいや、きっと私の聞き間違いだ。そんなことをモトハルが聞くわけがない。そもそも、今の話の流れからして聞くのはおかしいよ。うん。
私は自信持って頷いた。心の中で。
「だから、柿本は唐沢のことが好きなのか?」
聞き間違いではなかった。
私はそれが分かって、
「ええええええええ!?」
驚きましたよ。ええ。
私はパクパクと口を開いたり閉じたりした。金魚のように。
私が、唐沢さんのことを?
「いやいやいやいやいや、それはないね!」
なんだか、"いや"と言う回数が多かった気がするけど、それは気にしないで頂きたい。それほど私も、パニックになっているということです。
「何で」
私とは違っていたって普通に聞くモトハル。
「だ、だって、私、唐沢さんとそんなに話していないし(モトハルが知ってる範囲では)、関わってもいないし…。モトハルの方が親しいような気もするし」
「親しいような気もするって…」
「親しいの度合いを言えば金髪がトップだけど…」
「そりゃ、いとこだからな」
親しいのも当然だ、と言うと、いやあ、と言葉を続けた。
「柿本って、やっぱり女子だな」
「どういうことだ」
「いや、反応が。ちょっと安心した」
「だからどういうことだ」
そういうこった、とモトハルは言うと歩き始めた。
前の唐沢さんの"嫉妬"発言といい今回のモトハルの"好きなのか"発言といい、男子高校生は女子高校生をからかうのが好きなのか?私の反応を楽しんでいただけでしょ…!
「何処へ行くの?」
「野暮用」
「ふーん…そっか」
私はそれ以上聞くこと無く、モトハルの背中を見送った。
「……」
一人になったところでさっきのモトハルとの会話を思い出した。
私が唐沢さんのことを好き、だと?
いや、ありえないね。
確かに彼は有能だし、素敵だし、昨日、話していて楽しいなって思ったけど―…
「……」
きっと、これは好きっていうことじゃないんだと思う。
…でも、あのツインテール女子を見たときのモヤモヤはなんだったんだろ。ま、いっか。
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