▽ 第11話
「金髪、携帯鳴ってるよ」
「ん、ホントだ」
暫く歩いた所で、金髪のポケットの中から携帯のバイブレーションの音が聞こえてきた。
直ぐに鳴り止まないところからすると電話がかかって来たのだろう。誰だろう?まあ、誰でもいいけど。
金髪はポケットに手を突っ込んで電話に出た。
「もしもし?うん…うん…え?ああ、分かった」
と、隣に居るだけだとどんな会話をしているのか全く分からないような反応をする金髪。
何が分かったんだ、と、気になっていると、金髪は携帯を耳から離して電源を切った。
「悪い。友達から呼び出し食らった」
ポケットに携帯を戻してから手を合わして謝罪された。
「うん。全然悪くない。むしろさっさと友達の所なり女の所なり行って」
別に約束して外出しているわけでもなく、勝手について来たのだから別に謝る必要はない。
だから、私は今の素直な気持ちを言ったというのに金髪は、
「……なあ、俺のこと嫌い?」
と、探りを入れるように訊ねてきた。
前にも聞かれた気がするのは気のせいだろうか。
「嫌いだったら一緒に居たりしないよ。私は金髪に対してSになるのが好きなんだから」
「俺、どんな反応したらいいんだ」
流石に苛め過ぎるのも悪いかな、と思って、そう答えた。
まあ、後半は言わなくても別に良かったけど、前半部分で終わってしまうと私が金髪のことを好きって勘違いされても困るんで。
私の変わりに金髪が困ってくれました。
金髪は、じゃ、と軽く手を上げると軽く走って行った。
「ふう…」
私は金髪が去っていく後ろ姿を見ながらため息を吐いた。
休日に何やって居るんだろ私。
金髪は友人に呼び出しを食らったけど、私の携帯は鳴る様子は全くない。
いや、別に友人が居ないってわけではないよ。一緒に遊びに行きたいってわけでもないし。
ただ、金髪の段々小さくなって行く背中を見ていると、なんだか少し寂しいな、なんて思ってしまって。
「…柿本?」
そんなことを思っていると私の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
あれ、以前にもこんなことなかったっけ?確かあれは文化祭の時で。
今回も、前回同様に私の知らない男の人の声。とりあえず、モトハルではないな。
くるり、と振り向く私。
「あ、唐沢さん」
北高生徒会の唐沢さんだった。
道理で声だけで判断出来なかったわけだ。
「さっき一緒に居たのは生徒会長か?」
「え!?」
な、なんてこった…!
唐沢さんに金髪と一緒に居たところを目撃されていたとは…!私と金髪の関係を知っているモトハルならまだしも。
と、とりあえず、これ以上知れ渡るわけにはいかない。慌てず、そして、バレないように誤魔化さなければ…!
「あ、ああ、偶然会っただけですよ!決してただならぬ関係ってわけではなくて」
「誰もそこまでは言っとらん」
「あ、あはは…そうですよね」
ダメだった。私はどうやら隠し事をすることは苦手らしい。思いっきり慌ててしまった。
そういえばモトハルが言っていたっけ。口には気をつけろって。
私、口開くと余計なことばっかり言ってしまうから本当に気をつけないと駄目だな。…気をつけてもどうにもならない気もするけど。
とりあえず、笑ってごまかす私。
「親しそうだったな」
「え、そうですか?ふ、普通ですよ!唐沢さんや副会長、モトハルと同じです」
「……」
「か、唐沢さん?」
「俺にはそうは見えなかった」
「ど、どうしたんですか急に…」
いつもと違う様子の唐沢さん。
普段なら"そうか"と納得する、または無言なのに。
「…すまん。今のは忘れてくれ」
「え?え?」
帽子のツバをグイっと下げると唐沢さんは踵を返して私に背中を向けて一歩、そして一歩と歩き出す。
え、そのままどっか行くつもりなの?
「ちょ、ちょっと待って下さいよ!」
声をかけておきながら良く分からないことを言ってそのまま何事も無かったかのように行くだなんて納得いかない。
私は思わず唐沢さんの腕を掴んでぐいっと引っ張った。
唐沢さんは驚いた顔を向けた。
「忘れろと言われて忘れれることが出来るほど私の頭は単純に出来ていませんよ」
「……」
そして唐沢さんは無言になった。
「説明してくれるまでこの手は離しませんから」
「……フッ」
「ふ?」
なに?と首を傾げると唐沢さんは私に掴まれていない手で口に手を添えた。
……笑っている?
「面白い」
そして顔を逸らして静かに笑っている。
え、私、何か面白いこと言った?ただ、唐沢さんの態度の理由を説明して欲しいと言っただけなのに。お陰で頭には疑問符が浮かぶ。
「いいだろう。教えてやる」
唐沢さんは視線を私の方に向けてそう言ったので、私は彼の手を離した。
「柿本が生徒会長と一緒に居る所を見て嫉妬した」
「…へ?」
今、なんて言った…?
生徒会長と一緒に居る所を見て…
「し、しししし…!?」
嫉妬…!?
唐沢さんが言った意味を理解した私は火が着いたようにボッと赤くなった。
「か、唐沢さん。あああああ、あのですね!?」
パニック状態になってしまい私は上手く言葉を喋ることが出来ず、顔の前で手をあわわあわわと、謎の動きをさせる。何やってんだ私。
そんな私を見てなのか、唐沢さんは再び、フッ、と笑った。
「柿本は面白いな」
「おおお面白くもなんともないですよ!」
女子高はそういうのを言われることに慣れてないんです、と。
共学の子は慣れているかもしれないけど、私には言うのを止めて頂きたい。どうしていいのか分からなくなる。
唐沢さんは、私の発言に対して、そうか、と言って言葉を続けた。
「すまん、冗談だ」
と。
「……へ?」
一瞬、唐沢さんの言っていることがよく分からなくて私は間抜けな声を出し、首を傾げた。
じょう、だん?上段?冗談?
「柿本の反応が面白いから、つい」
「はぃぃいい!?」
唐沢さんの言った"じょうだん"という単語が頭の中で"冗談"となった瞬間、私は声をあげた。
私、からかわれた!?
「ひ、酷いですよ、唐沢さん!純情な女子高校生になんてことを…!」
「純情って」
「唐沢さんまでそんなことを言うんですか!?お前は純情でもなんでもないだろって!」
「"も"ってことは誰かにも言われたのか?」
「いや、はっきりとは言われたことは無いんですが、似たようなことを良く言われるんです。自分で言うなよ、とか、何言ってるのか分からん、とか」
「なるほど」
「って、なんか笑ってません?唐沢さん?」
「笑ってない」
「だったら私の方を見て言って下さいよ!って、唐沢さん何処に行くんですか!?」
私が喋っている途中で唐沢さんはスタスタと歩いて行ってしまって、私は追いかけた。
唐沢さん、やっぱり読めない人だな、と改めて思い、同時に、彼と距離がまた少し縮まったと思える休日でした。
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