胡蝶の夢 | ナノ


▽ 第9話

『忍ー、待ってよー…!』

『ほら、手貸すから』

『う、うん…!』

私は公園のある木に登っていたが一緒に居た男の子は上手に登れなくて、私は彼に手を貸した。そのお陰で登ることが出来て、男の子は私の隣に腰を落ち着かせた。太めの枝の上に。

『私、ここから見る夕日って結構好きなんだ』

『……』

『ん、どうかした?』

返答が返ってこないのを不思議に思って、私は男の子の顔を覗き込んだ。
もしかして高いところが苦手だったとか?それだったら無理矢理登らせたみたいで悪かったなあ…。

『ねえ、突然居なくなったりしないよね?』

私の心配は不要だったみたいだが、突然のこと過ぎて私は良く分からなかった。

『急にどうしたの?』

『……』

『黙っていたら分からないよ』

『う、うん…そう、だよね…』

男の子は俯いたまま言葉を続ける。

『なんだか夕日見てたら寂しくなって』

『寂しい?』

『傍に居た子が急に居なくなるんじゃないかなって思えてきて』

『それ、私のこと?』

『うん』

もー、何言ってんのよ!と私は元気づけるように言う。

『私は大丈夫だよ。帰るときは帰るって言うし』

『ホント?』

『うん』

そんなに私を必要としてくれているなんて、なんだかこっぱずかしいな。
男の子は『あーあ』と言葉を続ける。

『忍みたいに一緒に居て安全な女の子が居たら良いのに』

『それどういう意味』

私の返答に安心したのか、男の子はそんなことを言い出した。
何だそれは。
私って安全なの?と笑う。

『それじゃまるでそっちの学校には危ない女の子が沢山いるみたいじゃないの』

『あはは…そ、そうだよね』

『ホントどうしたの?』

『うん、実はね―…』

私は男の子が続ける言葉を待ったが一向に声は聞こえてこなかった。
あれ、どうしたの?ともう一度訊ねようとしたが、

「……そういうことね」

夢から覚めたようです。
はあ、まったく。
どうせなら"実はね―…"の後を聞いてからにしたかったよ。気になるじゃないの。
私は眠気なまこをこすりながら布団から出てリビングへと向かった。

「…何でお前が居る」

リビングに入ったら家族ではない男が居た。

「居ちゃ悪いかよ」

いとこの金髪である。
なんで金髪が居るんだ。学校はどうした。

「その顔を見るからに"金髪、学校は?"って思っているな」

「何故分かる。気持ち悪いな。エスパーか?」

「…気持ち悪いはともかく、今日は祝日で休みだ」

「…へ?」

ほら、と、金髪は壁にかけてあったカレンダーを指して言う。
ホントだ。
今日の日付は赤い色で書かれている。

「納得してくれましたか?」

「うん、納得した」

「納得したところでその目やにをどうにかして来たら?」

「そうする」

私は金髪にそう言われトイレに行き、洗面所へと行った。
顔を洗って歯を磨いて、クシで髪をといて、シャキっとしてから再び金髪の元へ。

「目覚めた?」

「お陰さまで」

そして、金髪の前に腰を下ろす。
そういえば、金髪はずっとここに住んでいるよな。いや、別に私の家にってわけではなく。
もしかしたら、私の夢に出てくる男の子について知っているかも。

「あのさ、聞きたいことがあるんだけど」

「俺のスリーサイズ?」

「死ね」

「じ、冗談!冗談です!」

私は拳を握り今にでも殴りかかりそうな勢いだったが、金髪が必死に"タンマタンマ!"と言うもんだからギリギリのところで止まった。

「小学校んときさ、私、よくアンタの家に遊びに行っていたよね?」

「ああ」

「その時、私、ある男の子と知り合っているんだけど…誰か知らない?」

「男の子…」

金髪は思い出そうとする素振りを見せ、うーんと唸った。
男の子か、うむむむ。
そして、口を開くと、

「そんなの俺が知るわけないじゃん」

キッパリ言った。

「何で!?」

「いや、何でって言われても。忍がこっちに来ていても四六時中一緒に居たってわけじゃないし」

「使えんな金髪は」

「酷っ!」

ああもう。コイツに期待した私がバカだったよ全く。
つーか、知らないんなら思い出そうとする素振りを見せるなよ。私に淡い期待を抱かすな。

「ちなみにその男の子って同級か?」

「うん、その筈」

「何処で出会った?」

「公園」

「公園かー…。この近辺、小学校って一つじゃないからなあ…。特定はしづらいな」

あ、確かにそうだよね。

「何か特徴とかないわけ?」

「そうだねえ…。黒髪、かな」

「そりゃそうでしょ」

「ですよね」

小学生の時点で黒髪じゃない奴は滅多に居ない。まあ、遺伝の関係で髪が少し茶色がかっている人はいたけど。
さて、他に、他に、っと。
そう言えば、今朝の夢では"安全な"って言っていたよなあ。これ、なんか手掛かりになるんじゃないのかな。

「今日、夢で見たんだけどさ。その頃の」

「うん」

「その男の子…私の事を"安全な女の子"って言っていたんだよ」

「安全?何処が?」

「とりあえず、いっぺん死にたいようだね」

「心の底からごめんなさい」

と、土下座をする金髪。
この似たようなやり取り、少し前にでもやったぞ。土下座はしてないけど。

「一緒に居て安全な女の子が居たら良いのにって言われてさ…」

「うーん…。あ、もしかしてあの子のことかも?」

「あの子?」

あの子って誰だ、と私は金髪に訊ねる。

「ここらではアークデーモンってのが居てさ」

「何そのゲームのボスキャラみたいな名前の奴」

「そう呼ばれているいじめっ子の女の子が居たんだよ。ま、俺の小学校じゃないけど」

「で、その女の子が?」

「もしかしたらアークデーモンと一緒の小学校の奴だったかもしれんな」

ほほう。
てことは、その小学校出身の奴らを片っ端から探して行けば、あの夢の子に会えるかもしれないってことか!

「ねえ、その小学校出身の子、皆に連絡取れるよね?」

「取れるわけないでしょ」

私は当然のように言うが金髪はキッパリと無理だと言った。

「なんで!?会長でしょ!?」

「いや、会長だからって言って個人情報を知っているわけじゃないから」

「……」

「まあ…その小学校出身のモトハルと唐沢と…あと何人か居るから聞いとくよ」

「え、本当に?ありがとう!」

モトハルと唐沢さんは同じ小学校だったのか。なんか納得かも。
そんなことを思いながら私は金髪の両手を握り上下にブンブンさせて喜びを示した。
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