▽ モーニングコール
「誰よ…もう」
布団の中で気持ち良く寝ていたのに枕元に置いてあった携帯が鳴った。ちくしょう、私の貴重な睡眠時間を返せ。
眠気なまこをこすりながら私は携帯を手に取り、電話に出た。
「もしもし…」
寝起きだからうまく声が出せない。ああ、いつもより声が低いかも。なんて頭の隅に置きながら電話をかけてきた主の声を待つ。
『酷い声だな』
「うるさい」
電話の主はとしゆきだった。酷い声だなんて発している本人も自覚しているんだからわざわざ言わないでよ。あーテンション下がるわー。
『……』
……あれ、としゆきから返答が返って来ないぞ。まさか電話かけておきながら寝た?
『―…誰だっけな。朝起きれないから電話かけてくれって言った奴』
「ごめんなさい私です」
としゆきに限ってそんなわけないよね。ホントごめんなさい。私が悪かったです。
私は朝に弱い。目覚ましをかけていてもご丁寧に止めているし。気付いた時は出ないといけない5分前とかで。
流石にこのままではマズイと思ってとしゆきにモーニングコールしてもらうよう頼んだ。お陰で此処最近は以前に比べてちゃんと起きれるようになった。けど、未だ携帯が鳴ることに慣れない。だって、私の眠りをさまたげているわけだし。あ、でも、起こしてくれないと困るわけであって。
「としゆきって朝強いよね。なんか秘訣でもあるの?」
不思議だよね。同じ人間だとは思えない。男子高と女子高の違いか?いや、そんな大差はない筈。
『無い。普通にしていれば起きれる』
「私、起きれないんだけど」
『それは忍が夜更かしをているからだ』
「えぇ!?な、なんで知ってんの!?夜遅くまでニコニ○動画見ているっていうことを!」
『誰もそこまでは言っとらん』
「……確かに」
し、しまった…!私がニコ○コ動画を見ているってことが知られてた…!まあ、だからどうしたって話だけど。別にどんな動画を見ているのかバレたわけではないし。…バレたらおそらくバカにされるな。または呆れられるか。
『それより時間、大丈夫か?』
「あ、まずいっ!」
部屋の時計に目をやると8時をまわっていた。あと15分したら出ないといけないのに。
てか、私の心配するよりとしゆきも自分の心配した方がいいんじゃないの?
「なんか余裕そうだけどとしゆきは大丈夫なの?」
『問題ない。支度はすでに済ませている』
「そ、そうですよねぇー…」
苦笑いする私。
どうしよう。支度どころか時間割りすら終わってないんだけど。昨日の夜のうちに済ませておけばよかった…!昨日の私を恨むわ。ニ○ニコ動画見ていた私を恨むわ。
『時間割りもやってないのか』
「何故分かる!?読心術でも心得ているのか!?」
『とうとう頭がイカれたか』
なんかバカにされた。まあ、いつものことだけどさ…!
としゆきは相変わらず冷静に対応する。安定のとしゆき。
「っと、こんなこと言ってるから無駄に時間が経っていくんだよ!じゃ、電話切るよ!」
『自分が無駄に喋っている癖に』
「……何か言った?」
『いえ何も』
「じゃ、明日も電話よろしく!いつもありがとう」
『どういたしまして』
プツッ。
ここで会話は終了。
さてさて、本気で頑張らないと間に合わないぞ…!
私は時間割表を見ながら必要な教科書をカバンにぶちこみ、パジャマを脱ぎ散らかし制服に着替える。…いや、これはみっともないから、多少キレイに畳んでおくか。
リビングに足を運び、母親から朝ごはんと弁当を受け取り慌ただしく出て行った。
* * *
そして放課後。
え、ショートカットし過ぎ?いやあ、だって私の学校内の生活を事細かに言っても面白くもなんともないし。……自分で言っていて悲しくなんて無いんだからね!すいませんそろそろ黙ります。
「あ、としゆき」
そんなことを思っていると前方に北高の制服で白いキャップ帽をかぶった男、としゆきが居た。
いやー会うなんて奇遇だね、なんて言いながら駆けて行った。
「今日は間に合ったのか?」
「今日は…っていつも間に合っているよ!」
「そうか」
そうか、ってそれだけ?何処となく残念そうな気がするのは気のせいでしょうか。
コイツ、私が遅刻しなくてそんなに残念なのか?だったら電話するなよ!
……そもそも、なんで毎日モーニングコールしてくれるんだろ。確かに私が頼んだけどさ。
「ねえ、ふと疑問に思ったんだけどさ」
「何だ」
「なんでとしゆきは毎日電話かけてくれるの?面倒じゃない?」
「それをお前が言うか?」
「だって、私なら3日ぐらいでイヤになるよ」
普通に考えて面倒じゃない?なんで人のために早く起きてそれまでに準備しないといけないんだよ。
…私って性格悪いなぁ。今に始まったことじゃないけど。
私と肩を並べて歩いているとしゆきはキャップ帽のツバをクイッと下げた。
「俺は嫌じゃないからな」
そしてそんなことを言い出した。
「へ?それってどういう―…」
「自分で考えろ」
即答だった。分からないから聞き返そうと思ったのにその隙すら与えてくれなかった。
むう…と私は唸る。
一体どういうことだ。イヤじゃない…つまりそれは…としゆきが…
「私にかまってほしいからだね!」
「どうしてそうなる」
としゆきに深いため息を吐かれた。あれーおかしいな?絶対にコレだと思ったのに。
「じゃあ何なの?」
「だから自分で考えろ」
「えー、気になるじゃん。教えてよー!」
何度聞いてもとしゆきは口を閉じたままでスタスタ歩いて行った。
そんなに教えたくなければ言わなきゃよかったのに。そしたら私もこんなに悶々する必要もない。あ〜もやもやする。
結局、としゆきは教えてくれなかった。
モーニングコール好きな奴じゃないと電話かけない。
++++++++++++++++++++++++++
後書き
唐沢にモーニングコールしてほしいなと思って書いた作品。
もうちょい甘くしたかったのに私が書くとサッパリもどかしい感じになる。
……どっちだよ。
(2012.03.02)
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