▽ 噛み合っていない!
「こんにちはー!」
「忍か」
勢いよく北高の生徒会室のドアを開くと、モトハルしか居なかった。あれ、おかしいな。いつもなら副会長ととしゆきが居るはずなんだけど。あと会長。
「他の人は?」
「まだ来てねーな」
「そっかー…」
そんな会話をして私は勝手に椅子に座る。けど、モトハルは何も言わずに教科書を読んでいる。
「ねえ、それ何の教科?」
「古典」
「へー、ヤンキーなのに古典読むんだ」
「ヤンキーは余計だ。勉強くらい誰だってするだろ」
「意外に真面目なんだね、モトハルって」
「意外も余計」
モトハルはまた視線を教科書へと移し会話は止まる。
折角私が遊びに来ているというのに何なのこの男は。よおし、それならやってやろうじゃないの。
私は何かないかと思ってモトハルをじろじろ見た。そこで気になったのはボタン全開のシャツ。
「あーもう、そんなにボタン開けてから!生徒会って北高生徒の顔でしょ?ちゃんとしないと!」
「ちょ、おま、止めろよ」
私は席から立ち上がりモトハルに近づく。ボタン全開なため中に着ている黒色のTシャツが見える。ったく、ホント何処のヤンキーだよ。生徒会がそんなんじゃ他の生徒に示しが付かないでしょ!モトハルは『生徒会室ぐらい気抜いたっていいだろ』って言うけど、生徒会室以外でもそんな格好でしょ?私、きちんと制服を着ているモトハルなんて見たことないよ。
私はモトハルのシャツのボタンを上から順々にきっちりと止めていこうとした。
ガチャ―…
モトハルのシャツに手をかけたところで生徒会室のドアが開いた。
「……」
扉の向こう側に居た人―…としゆきと目が合う私たち。
「悪い。邪魔した」
「「うわぁぁああ!?」」
慌てて私たちは言い訳をしようとするがとしゆきはそのまま閉めた。
ど、どうしよう…としゆきに変なところを見られた。これ、絶対に誤解しているよね?見方によれば私がモトハルの服を脱がそうとしていたよね?……いや、でも、モトハルはもともとボタン開けているから脱がそうなんて見えないか。
でもどっちにしろ、私たちの間には何かあるってことは思ったに違いない。
「バカァァア!モトハルのバカァァア!!」
ホント、何てことをしてくれたんだ。
私は頭を抱えて叫ぶ。
「俺だけのせいじゃねーだろ!つーかお前がボタン閉めるなんて言わなきゃよかった話で」
「モトハルがボタン全開なのが悪い!ああぁあ!としゆきに誤解されちゃったよ!」
「いや、その心配はないだろ」
あんな状態を見て誤解をしない、だと?この男は何を言っているんだ。
私は首を傾げて『何で?』と言った。
「唐沢は忍と俺が一緒に居る所を見て…」
「一緒に居る所を見て…?」
真剣な面持ちで言うモトハルをじいっと見て私はゴクリとツバを飲み込んだ。
「出来ていると思った」
「死ねぇぇえ!!」
「――…ら面白いのになぁ」
「願望かよ!」
面白いってどういうことだ!
「大丈夫だ。俺はお前に興味はない」
「大丈夫。私もだ」
キリッと言うもんだから私も同じようにキッパリと言ってやった。
ガチャ―…
ドアが開く音がして私たちの視線がドアに集まる。としゆきが帰って来たんだ…!
「なんだ?二人揃ってこっち見て」
と、思ったら副会長だった。
「お前かよ!」
「え?何?」
状況が分からない副会長は頭上に疑問符を浮かべてながらドアを閉めた。
「そういえば、隣の教室で唐沢が机に突っ伏していたけど…何かあったのか?」
「え?」
「何やら落ち込んでいるようだったが」
「「………」」
副会長が親指で隣の教室の方を指し私とモトハルはお互いの目を合わした。
……さっき冗談でモトハルが言っていたことが現実となってしまった瞬間だった。
マジでとしゆきは私たちが出来ていると思ったの?てか、なんで落ち込むの?……ああ、そうか分かったぞ。
「も、もしかしてとしゆきって…」
「わ、悪い忍…」
私が言おうとしていたことが分かったのか、モトハルは先に謝罪してきた。
「としゆきってモトハルの事が好きだったのね!」
「そうじゃねぇーだろ!」
「え?ちがうの?」
だったらなんでとしゆきは落ち込んだ?
「(唐沢が忍のことを好きだからだろ…そしてお前もそうだろうが!)」
「モトハル?」
「自分で考えろよ…」
「ええっ!?」
なんだか呆れられている気がするけど気のせいか?
「ま、なんでも良いから隣の教室に行ってこい」
「モトハルは?」
「は?なんで俺まで行かないといけないんだよ」
「だって、私がとしゆきのモトハルを取ったから」
「何でまだその話が続いてるんだよ!?」
どうでも良いから早く行け、と言われて私は渋々生徒会室から出て行った。
「としゆきー…」
申し訳ない気持ちで教室のドアを開ける。副会長の言う通りとしゆきは机に突っ伏しており反応なし。
私はとしゆきが座っている窓側の席の隣の席に腰を落ち着かせた。
「ご、ごめね…」
「何故謝る」
としゆきはこっちを向こうとしない。
「だって…私がとしゆきのモトハルを取ったから」
「は?」
ま、待て、ととしゆきはこちらを向いた。
「話が読めない。お前は何を言っているんだ」
「だから、私がとしゆきのモトハルを、」
「意味が分からん」
「え、としゆきはさっきの光景を見て落ち込んでいるんだよね?副会長が言っていた」
「………」
としゆきは私の方を見たままで頬を染めたかと思うとまた机に突っ伏した。顔は窓側に向けて。
「その反応はやっぱそうじゃん!」
ああ、失恋かー…。でも、相手がモトハルじゃあ勝ち目ないな。私と違って万能だし。
「だから―…!」
少し落ち込んでいたらガタッととしゆきは立ち上がり私は驚いた。
「だ、だから…何?」
「………」
聞き直すととしゆきは帽子のツバをクイッと深く下ろした。
「忘れろ」
「へ?」
「今のは忘れろ」
「頬を染めてモトハルの事が好きだって言ったこと?」
「誰もそんなことは言っとらん」
良く分からないけどとしゆきが少し元気になって良かった。
噛み合っていない!忍の思考が理解出来ん。
++++++++++++++++++++++++++
後書き
あからさまにヤキモチを焼く唐沢を書きたかったのですが事故ってヘタレな唐沢になりました(笑)そして鈍感なヒロインちゃん。
今度こそ違うネタでヤキモチ焼く話を書く…!
(2012.02.23)
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