短編(男日) | ナノ


▽ イタズラの標的


「今日はバレンタインか」


いつも通りの時間に目を覚ましてリビングに向かうとテレビでそう言ってた。
今日は2月14日。バレンタイン。世の中の女子が好きな男子にチョコをあげるという一大イベント。だが、男子高に通っている俺には関係ない。


俺は朝食を取ってから時間に余裕を持たせて家を出た。


「…うむ。今日も時間通りだ」


真田北高校の正門をくぐり、学校の時計に目をやる。
HR開始30分前。問題ない。そしていつも通りに下駄箱へと向かう。


「……何故こんなものが」


…問題なかったのにここで問題が発生した。
最初に言ったように俺が通っている高校は共学ではなく、男子しかいない男子高校。それなのに、俺の下駄箱に小さな箱が置いてある。何故。


「それ…チョコじゃねーか」

「……モトハル」


自分の下駄箱をじいっと見つめたままで立ち止まって居るとモトハルが声をかけてきた。


「やはりチョコに見えるか」

「今日、バレンタインだろ?下駄箱に入っている箱と言えば十中八九チョコだ」

「………」


とりあえず、スリッパに履き替えて靴を収める。そして謎の箱を手に取って見る。
この重みはチョコ、だろうな。しかし、此処は男子高。


「……心中察するぜ」

「ま、待て。まだそうと決まったわけでは」


ポンと憐れみを含んだように手を置くモトハル。


「心配するな。俺は口硬いから」

「そういう問題ではない」

「まあ、開けてみろよ」

「…あ、ああ」


モトハルの奴。絶対に面白半分に思っているな。……あとで覚えていろ。
正方形の箱を手に取りリボンをほどいてフタを開けた。中身は想像通りのチョコレート。ちなみに生チョコ。


「なんだ、メッセージカードもあるじゃねーか」

「……そうだな」

「嬉しくないのか?」

「当たり前だ!」


何度も言うが此処は男子高。嬉しいわけがない。


「なんて書いてあるんだ?」

「……」

「唐沢?」


メッセージカードの字を見て分かった。


「アイツ…」

「アイツ?」


目を手のひらで覆い、カードをモトハルに渡した。


「なになに?
"としゆきへ
ハハハ、男子からのチョコだとビックリしたか?
ザマァw
忍より"」

「……アイツって、柿本のことか」

「ああ」


呆れて言葉も出ない。
この紛らわしいチョコレートをくれた柿本忍は幼馴染。昔っからいたずらが好きで俺はよく標的とされいた。最近は、高校が別々になってしまい関わる機会は一気に減ってしまったが、たまにこうやっていたずらされる。…流石に今回ばかりは油断していた。


「柿本も変わってねーな」

「イヤな意味でな」

「いたずらのために北高に来たってことだよな。コレ」

「そうなるな。忍ならやりかねん」

「お前らホント仲良いな。昔っから」

「は?誰と誰が?」


俺は思わず聞き返した。気のせい出なければ今、モトハルは俺と忍が仲が良いって言わなかったか?


「誰と誰がって…勿論、お前と柿本に決まってんじゃねーか」

「どこをどう見たら」

「もしかして柿本の奴。お前のこと好きなんじゃ」

「は?」

「いや、"は?"じゃなくて。だってそうだろ?普通に考えたらわざわざ北高までチョコ置きに来ねーよ。好きじゃなかったら」

「お前は忍という奴をちゃんと分かっていない」

「…は?

「放課後、生徒会室に呼ぶから見てろ」


携帯を取り出して忍に放課後に北高の生徒会室に来るようにとメールを送った。


* * *


そして早いもので放課後。


「お、としゆき。よっ!」

「……忍」


ガチャリ、と生徒会室のドアを開けるとそこにはもう忍が居た。
しかもちゃっかり紅茶を飲んでいる。多分、副会長あたりが出したのだろう。


「呼んでおきながら来るのが遅いっ!」

「仕方ないだろ。HRが長引いたんだから」

「でもモトハルはもう居るけど?」


もう居る、といっても到着の差は数分だけだと思うんだが。


「あ、分かった!あれだな?今日、バレンタインだから女の子たちが帰してくれなかったんでしょ?隅に置けないなぁ〜!」

「お前はバカか。此処は男子高だぞ」

「じゃあアレだ。可愛い男の子かが帰してくれなかったんだ!あ、いや。としゆきの場合はカッコイイ系の男子が―…」

「誰かコイツの口を塞げ」

「つーか、聞いたよ?下駄箱にチョコがあったんだってね?やっぱりとしゆきは―…」

「お前がやったんだろ」


ご丁寧にメッセージカードまで添えて自分の名前書いていただろ。それすらも忘れたのか?


「え、私やってないよ?」

「……コイツ、バカだ」

「一度ならぬ二度も人をバカ呼ばわりして!バカって言った方がバカなんです〜!」

「はいはい。そうだな」

「くっそー!人をバカにして…!だったらチョコ返せっ!」

「やっぱりお前じゃねーか」


とぼけた癖に今、自分があげたことを認めたぞ。やはりバカだなコイツ。


「……っ!ああ、そうですよ!私がやりました!これで良いんでしょこれで!」


いたずらではなく、普通に渡せばいいものの…。色々面倒だろうが。
まぁ、でも…


「チョコ、美味かった」

「え、もう食べたの!?」

「食べたらマズイのか?」

「そ、そんなことないけど……」


渡す形はどうであれ、美味しかったことには変わりがない。



「一応礼を言う。ありがとう」

「〜〜〜〜!」

「忍。顔真っ赤だぞ。どうした?」

「としゆきのバカっ!分かっている癖に!」

「は?」


何が分かっているというんだ。俺にはさっぱりだぞ。
忍は荷物を置いたまま生徒会室を出て行った。……まあ、直ぐ帰ってくるだろうけど。


「よーく分かった。柿本がどんな奴か」


シン―…として最初に口を開いたのはモトハルだった。


「それは良かった。どうみても俺に気があるようには見えんだろ?」

「……」

「モトハル?」

「(誰が見たって柿本はお前のことが好きだろっ!)」


忍といいモトハルといい、何を思っているのかよく分からんな。





イタズラの標的

ちなみにチョコは忍からしか貰っていない。





++++++++++++++++++++++++++
後書き

遅くなりましたがバレンタインネタです。
男子高だけど、下駄箱とか机とかロッカーの中にチョコレートが入っていたら面白いなと思って書いてみました。
それ以外は勢いです←

鈍感な唐沢さん好きです。
(2012.02.20)
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