▽ 反則的な付属品
「唐沢君、劇見たよ」
文化祭の後片付けをするのに邪魔になるネコの手を取ろうとすると、そう声をかけられた。俺のことを"唐沢君"なんて呼ぶ女子は1人しか居ないため、声の主が誰だか一瞬で分かった。
「…忍」
俺が名前を呼ぶとえへへと笑う忍。
こいつは東高に通っている柿本忍。小学校からの知り合い。小学校から、といってもこいつは羽原たちと絡みが全くない。まあ、俺としては助かっているんだが。色んな意味で。
「つまらんかっただろ?」
「え、そんなことないよ!」
俺が言うのもなんだが、あの劇は意味不明だ。東高の生徒会長もなんともいえない表情を浮かべていたぐらいなのに、忍はそんなことないと言う。何処をどう見て面白かったと言えるのか。
「唐沢君とてもよかったよ!……ネコ耳のあたりとか!」
「……」
ネコ耳と言われて思わず動きが止まった。
それは良かった、と言えるのだろうか。
「耳だけじゃなくてネコの手も可愛かったよ!」
俺の反応に慌てて忍が必死に言うものだから思わずため息をついてしまう。
何を必死に言っているんだ。必死に言う必要はないと思うが忍の顔は真剣だった。
「……唐沢君?」
どうかしたの、と尋ねられ俺は無言で忍の頭をポンポンとなでた。
俺の行動に不思議に思った忍は首を傾げて疑問符を浮かべる。
「男に可愛いなんて言うもんじゃない」
「え、でも、本当に……」
「俺は忍の方が充分に可愛いと思う」
自分でも何を言っているんだ、と思った。が、俺よりは可愛いという形容詞は合っている。あ、忍の頬が赤くなっていく。見ていると面白い。
「わ、私は別に可愛くなんか……」
否定をするものの恥ずかしいのか語尾が段々小さくなっていく忍。
……羽原たちも忍みたいなら良かったのに、と少し思った。
「忍にこれをやる」
「え、ちょ、わわっ……!」
撫でる手を止めネコの手をパイプ椅子の上に置き、帽子につけていたネコ耳を忍の頭につけてあげた。
……想像以上に似合っていて俺はどうしていいのか分からなく、
「…おまけにこれも」
と、ネコの手もあげた。
忍は少しためらったが、ネコの手を自分の手にはめて俺の方を見てくる。
「ど、どうかな……?」
どうかな、と頬を染めながら聞いてくる忍。直視できない。これは狙ってやっているのか?
「……」
そして、かけてやる言葉が見つからない。
「あっ……に、似合わないよね……。ご、ごめんね……!」
無理に笑いながら忍はネコの手を外して、自分の頭についているネコ耳を取ろうとした。
「…取るな」
とっさに出た言葉がそれで忍の手はぴたりと止まった。
……取るなって俺は何言ってんだ。
「え、でも……」
「……片付けが終わったら迎えに行く。それまでそのままで居ろ」
「え、ちょ、ちょっと……!」
本当は他の奴に見せたくない、なんて言いたかったが、ストレートな言葉を言ったら忍は困惑してしまうだろう。……それか、深く考えないか。
忍が呼び止めたが俺はそのまま片付けに取りかかった。
反則的な付属品……しっぽも付けてやれば良かった。
++++++++++++++++++++++++++
後書き
初の唐沢夢です。
ただ単に猫の手を付けたままポンポンするシーンを書きたかっただけです(笑
唐沢好きなんだけど、キャラがイマイチ分からぬ。
(2012.02.19)
[
← ]