短編(男日) | ナノ


▽ Air Breaker


「げほっげほっ」

私は風邪を引いて寝込んで居た。
外から帰ったら手洗いうがいを欠かさずやっていたのだが、昨日、それを怠ってしまったために風邪をひいてしまった。
なんともまあ、情けない話である。
つーか、1回やらなかっただけで風邪を引くとかどんだけひ弱なんだ私はっ!と自分でツッコミを入れたくなるところ。

ピンポーン―…

そんな時、インターフォンが鳴り響いた。
買いものに出かけた母親が帰って来たのだろう。インターフォン鳴らさなくても鍵持っているんだから開ければいいものの、なんて思いながら私は部屋から出る。

ピンポーン―…

「もー…ちょっと待ってよ」

こっちは病人なんだぞ。
そんなに早く玄関に迎えるわけがないでしょ。

「はいはい、今でますよーっと」

ガチャリ、と鍵を開けて扉を開く。

「…柿本?」

そこには驚く唐沢君の姿があった。

「わっ、えっ?ななななんで唐沢君が!?…げほげほっ!」

母親だと思って開けたら扉の向こうには近所に住む唐沢君。
小学校は同じとこに通っていたが中学と高校は別の所に通っているため、最近では全然付き合いはなかった。

「騒ぐと熱が上がるぞ」

「だ、だって…唐沢君がいると思わなかったから…げほ」

思わなかったからこの格好だ。
頭はボサボサ、パジャマを身にまとい、おまけにオデコには冷ピタを貼っている。
友達にでも見せるのを躊躇うというのに、よりによって久々に会う唐沢君に見られるなんて…!

「これ、プリント」

しかし唐沢君はそんな私を気にする様子もなくプリントを差し出した。

「あ、ありがと…」

どうやら唐沢君は私にプリントを届けに来てくれたみたいだ。
ご親切にどうも、と頭を下げたが、私は「あれ?」と思った。

「届けてくれるのは嬉しいけど、何で唐沢君が?」

私と唐沢君が通っている高校は別の高校だ。しかも、唐沢君は男子高で私は女子高。
だから、唐沢君が私にプリントを届けに来るなんておかしい。
も、もしかして…

「…唐沢君、いつから女子高に?」

「どうしてそうなる」

私としたことが気付かなかった…!

「そんなに女子高に憧れていたんだね!」

「熱で頭おかしくなったのか?」

どうして頭の心配をしてくるんだろう。
だってそうでしょ?
唐沢君が女子高に来ない限り私にプリントを渡すなんてイベントは発生しないのだから。

「さっき生島にあってプリントを渡された。柿本に渡してくれって」

「あ、ああ、そう…」

「あからさまに残念がるな。俺にどうして欲しいんだ」

生島に会ってプリント渡すように頼まれるとか普通のことじゃない。
どうせなら面白いことになってくれたらよかったのに。私が楽しいから。

「まあいいや。立ち話もなんだから上がってよ」

「いや、遠慮しておく」

「どうして?」

「風邪うつされたら困るから」

「おい」

「冗談だ」

フッと唐沢君は笑った。
てか唐沢君とこうやって話するの久しぶりだな。
なんだか小学校の頃に戻った気分だよ、なんて思うと自然と頬が緩んだ。

「…またの機会にとっておく」

「え?」

「その時までに風邪、治しとけよ」

ポン、と温かいものが頭に触れた。
女子高に通ってからか男子というものがどんな生き物だったか忘れつつあるけど、唐沢君ってこんなにカッコいい人だったっけ?
それとも、小学校の時のイメージが強過ぎているから?

「唐沢君…」

なんだか胸がドキドキする。
熱のせいもあるかもしれないけど身体が火照ってくる。
この気持ちってなんて言うんだろう…もしかして恋?
私はそんなことを思いながら彼の姿が見えなくなるまで見送った。

「…って、渡すプリント違うじゃねーか!」

唐沢君が見えなくなってから渡されたプリントに目を落とすと
「70時間断食のおしらせ」と書いてあった。



Air Breaker

恋したなんて気のせいだ。



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後書き
久々の唐沢夢更新。
真面目な話を書こうとしたら何故かギャグチックになってしまった。
(2013.01.02)
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