短編(男日) | ナノ


▽ お前に訊ねたい


「……」


学校から帰宅した俺は自分の部屋に入ると動きがピタリと止まった。
別に、部屋に虫が居たわけでもなく、親が部屋を勝手に掃除して腹を立てたわけでもない。いや、むしろ、親が掃除する前に自分で掃除するから掃除される心配はない。


「やほ、としゆきー。遅かったね」

「忍…」


何で俺の部屋に居るんだ。そしてどうして俺のベッドの上で勝手にくつろいでいるんだ。まるで自分の部屋のように。


「何で居る。帰れ」

「何で居ちゃ駄目なの?私ととしゆきの仲でしょ?」

「知らん」

「冷たいなあ。良いじゃん、ちょっとぐらい」


ケチッと言いながら頬を膨らませる忍。
何がちょっとぐらいだ。勝手に人の部屋に入って居るし、しかも、自分の漫画を持参してまで俺の部屋で読む意味が分からん。自分の部屋で読め。そして、お菓子をこぼすな。


「としゆきもお菓子食べる?」

「要らん。帰れ」

「としゆきは私に帰れしか言えないの?可愛い幼馴染に向かってさ」

「誰が可愛い幼馴染だ。本当に可愛い奴は自分では可愛いなんて言わん」

「むきー!」


何が、むきー!だ。まったく。
ふう、と小さくため息を吐き、机の傍にカバンを置いた。


「お前、どっから入った?」

「どっからって言いますと?」

「玄関は鍵がかかっていたから入れる筈がない」

「ああ、それね」


家族の中では俺が一番帰りが早く、玄関のカギを開けるのは自然に俺になる。今日も例外なく俺がカギを開けた。だから、忍が玄関から入って来れるわけがない。なのに、コイツはどっから家に上がり込んだ?


「ベランダの窓」

「…は?」


今、コイツはなんて言った?ベラ…いや、きっと俺の聞き間違いだ。そうに違いない。
確かに俺の家と忍の家は隣同士で部屋も向かい合っている。しかし、間は5m以上はあるぞ。


「は?じゃないよ。だから、そこのベランダから入ったんだって」


…聞き間違いではなかった。コイツ何やってんだ。不法侵入罪で捕まるぞ。いや、そうじゃないな。どうやってこっちの部屋に来たんだ。飛び越えたのか…?それともよじ登って…?どっちにしろ不審者として捕まるな。


「としゆきだって知っているでしょ?私の体育の成績」

「知らん」


何で俺が知ってて当然みたいな感じで話を進めようとするんだ。
幼馴染でも流石に成績までは知らんぞ。


「あれ?私、小学生んときは体育の授業でいつもお手本やっていたじゃん」

「昔のことは覚えてない」


と、言うよりも、いくら体育の成績が良いからと言ってベランダに飛び移れるわけないだろ。失敗すると怪我じゃ済まないぞ。仮にも女なんだからもう少し気にかけろ、と、俺は心の中で言っておく。口に出しても効果は無いから。


「ふうん…。ま、体育の成績はどうでもいいけど」

「どうでも良いのか」


自分で言っておきながらどうでも良いと来た忍。


「とりあえず、嘘だから」

「どの辺りが」

「ベランダから入ったって話」

「そうか、帰れ」


まあ、そうだろうとは思ったが。本当でも嘘でも何でもいいから早く帰ってくれ。


「そうか、じゃないよ!だから何で帰れしか言えないの!?」

「帰ってほしいから」

「そもそも、私がどっから家に入ったって話、まだ終わってないでしょ!?」

「どうでもいい」

「どうでも良いんかい!もっと私に興味を持ってよ!」

「どうせ母親から貰ったんだろ」

「……」

「ほら、当たりだ。さ、帰った帰った」

「ぶうー」


また頬を膨らませて見せる忍。その顔は見飽きた、と思いながら俺は無言で忍の両頬を両手で挟むようにした。
忍の頬にためられていた空気は見事外に吐き出されてしまったのだが、俺が勢いよく両頬を押さえてしまったために、忍のツバが綺麗に俺の顔にかかった。
無言になる俺。


「何その顔。お前のせいでツバかかったじゃねーかみたいな顔」

「みたい、じゃなくてまさしくその通り」

「だって、としゆきが頬を潰すから仕方ないでしょ」

「お前が膨らませるのが悪い」


いや、これは俺が悪い気はする。が、どうも忍の膨れっ面を見ていると潰したくなってしまう気持ちにかられる。反応が面白いから。


「そんなこと言うんなら仕返しするぞ!」

「何のだ」


何に対する仕返しなのか全く分からないが忍は自分の両頬にあった俺の手を勢いよく払いのけると、さっき俺がしていたように忍は俺の両頬に自分の両手を添えた。


「俺は膨れんぞ」


同じことをさせるつもりなのだろうか良く分からないが、俺は忍みたいに頬に空気はためない。そんなことできるか。
しかし、忍は俺に膨れてほしいわけではないみたいで、ニヤリと笑った。


「ふっふーん、私がそんなことさせるとでも思う?これだからとしゆきは甘いんだよ」

「何が」


そろそろ忍の言っている意味が本気で理解出来なくなってきた。いや、昔からだが。
そして、もう一度ニヤリと笑うと、忍は俺の顔に近づき、


「……!?」


何故かキスをした。
離れようとしても、忍の両手で固定されているため離れることは出来ない。
何考えているんだ、忍の奴は。
お前、今、何しているのか分かっているのか?
幼馴染の俺とは言えど、男とキスしているんだぞ。それがどういうことか分かっているのか?
仕返しなのかなんなのか分からんが。

暫くしてからようやく俺は解放された。


「「……」」


そしてお互い、無言のままだ。
なんて言ったらいいのか分からん。自分の気持ちの整理がつかない。
とりあえず、身体が火照って暑いことだけ分かる。


「とっ、としゆきはモテそうだから何度も何度もやったことあるだろうけど、わっ、私は初めてだったんだからっ!」


先に沈黙を破ったのは忍だったが、言っている意味がまるで分らなかった。
俺がモテる…?男子高だからそんな話には全く縁がないんだが。


「言っている意味が分からん」


だから俺はそう言ってやった。
が、忍も俺が言っている意味が分からないようで、「へ?」と間抜けな声を出した。


「俺だって初めてだ」

「えええ!?」

「何故そんなに驚く」

「だ、だって、いつも羽原や生島や柳と一緒に居る所見かけるよ!?キスとかしているんじゃないの!?」

「怖いことを言うな」


どうして一緒に居るだけでキスしたことがあると勝手に決め付けられなければならんのだ。今時の小中学生でもそう考える奴は居ないだろ。
ふう、とため息を吐いて、


「それより、何故こんな真似をする」


仕返し、のつもりかしらないが、こんな真似をするのはよくない。初めてなら尚更だ。


「い、イヤだった…?」


そんな泣きそうな声で言われるとイヤなんて言えるわけがない。……イヤなんて思ってはいないが。


「俺だって男だ。何も思わないわけない」

「え?」

「今度から気をつけろ。色々と」

「背後にですか!?」

「どうしてそうなる」


何故刺される話になるんだ。
昔から思っていたが、忍の発想が理解できない。
ま、理解出来ないが、そんな忍に惚れている方が理解できないな、と思いながら、忍が持ってきたお菓子を口の中に放り込んだ。





お前に訊ねたい

キスの意味はなんだったんだ。





++++++++++++++++++++++++++
後書き

話の展開が(笑)
と、いうよりコレ。なんて話ですか←
ヒロインちゃんが意味不明な感じになってしまいました…。
(2012.03.15)
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