短編(男日) | ナノ


▽ 形勢逆転


「ミツオ君…何やってんの?」


ミツオ君の家にお邪魔して彼の部屋で雑談をしていた。
で、お手洗いを借りに部屋を出て戻ってきたらミツオ君が悶えていた。何だ、エロ本でも見たのか?


「見て分かるだろ…?」


声を絞り出して言ったミツオ君。
見て分かるだろって…やっぱミツオ君はエロ本見て悶えているのか。
私はポンッとミツオ君の肩に手を置く。


「ミツオ君…。あまりこういうことは言いたくないのだけれど、私が来ている時ぐらいはエロ本見るの我慢してよ」

「そうじゃねぇえー!」


え、違うの?じゃあ何なの?
もう一度彼を観察してみると足を気にしながら悶えていることが分かった。


「足が痺れたの!だからこうやって耐えてんの俺は!」


そういうことらしいです。
私としたことが観察力が足りなかったみたいです。
ほほう…ミツオ君は足が痺れてそれに耐えていたわけですね。


「ちなみに、さ。ミツオ君。右足を気にしているってことは…痺れている足は右足だよね?」

「まあそうだけど…。ってお前、まさか」

「ふふふ」


じり、じり、と一歩ずつミツオ君に近づく。ミツオ君が一歩ずつ後ろへと下がる。もちろん、痺れている方の足を気にしながら。
私はそんな彼をニヤリと笑みを浮かべながら見つめる。
さあて、問題です。
私は今から何をしようとしているのでしょうか?
答えはいたって簡単。ミツオ君をいじめてみようと試みているわけです。


「ちょ、おま…やらないよな?まさか痺れている足の方を…」

「まっさかまさか!私がそんな女に見える?」

「そ、そうだよな…!忍はそんなことをする奴では―…ぬあぁぁあああ!!」


あはは、とミツオ君が笑っている隙にちょん、と足をつついてみると声にならない声が発せられた。
これは面白いぞ。


「ミツオ君、そんなに嬉しいの?私に苛められて」

「んなわけねーだろ!」

「え?だってさっき声をあげたじゃん」

「どう聞いたって嬉しい声じゃなかったよね!?」


暫く私の攻撃から逃れるため抵抗していたミツオ君。だが、再び痺れがきたみたいで言葉が減った。
ああ、きっと今痺れの波が来ているだね。この時って一番辛いんだよね〜。うんうん。でも、そこで私はあえてやるよ?


「もう、ミツオ君ったらそんなに喜んで」

「だから喜んでなんて…ぐわぁぁああ!!」

「まったまた〜。照れなくてもいいのに」

「照れてねーわ!」


足が痺れて大変なのにツッコミはちゃんとするんだね。


「ってちょっと逃げないでよ!私が追いかけないといけないでしょ」

「そんなの知らないよ!」


頼むから止めてくれとミツオ君は私に懇願するがそんなの知らない。
私はミツオ君をいじめて反応を楽しむんだから。


「まあまあ。ここは私にツンツンされなさいよ」

「いや、意味分からんから」

「意味分からんって言うミツオ君が意味分からん」

「俺の言っている意味が分からんって言う忍の意味が分からん」

「ミツオ君の言っている意味が分からんって言う私の意味が分からんって言うミツオ君が分からん」

「俺の言っている意味が分からんっていう俺の意味が分からん…?あ、あれ?」


あら不思議っ!最初と最後だけくっついたらミツオ君が意味分からんってことになりました!
ミツオ君はミツオ君で私が言った言葉がよく分からなくなって頭を悩ませている。はっはっは、混乱しとるな少年。


「つまり、ミツオ君が意味分からんってことで落ち着いたってことですな」

「いや違うから!」

「何がどう違うの?」


にっこり笑ってツン、とミツオ君の足をつつく。


「ぐあっ!?だ、だから…!あ、あれ?何の話だっけ?」

「やっぱミツオ君はバカだって話」


もうね、元の話を忘れているのに否定するところがミツオ君らしいよね。意味を理解してないのにとりあえず否定しとこうかみたいな。


「しっかしまあ、随分長い間足痺れてない?そろそろ治っても良いころだと思うけど」

「どっかの誰かが苛めるから治るものも治らないんだよ」

「へー誰かね?可哀想に!」

「お前だよ!」


いやーやっぱミツオ君をいじめるのって楽しいね。ボケてもくれるし、ツッコミもしてくれる。まあ、ボケにいたっては無自覚だけど。
おや、ミツオ君の様子が変わったぞ。


「どうしたのミツオ君?」


私はとりあえず、ベッドに腰を落ち着かせて訊ねた。


「ふっふっふ。この時を待っていたぞ!」

「どうした頭でもイカれたか」

「いつも俺がやられっぱなしだと思うなよ!」

「は、はい?」


何言ってんだコイツ。さては、さっきの仕返しでもする気か?そんなことが私に出来ると思うか?ミツオ君ごときが。
つーか、足の痺れは治ったのか?…さっきと違ってイキイキとしているから治ったんだろうな。


「忍、横腹が弱いよね?」

「え、ま、まさか……」


ニヤリといたずらっ子のような笑みを浮かべるミツオ君。
た、確かに私は横腹が弱い。こちょこちょされると暴れ出すぐらい。いつも女友達の間ではこれでイジられるけど…。
ミツオ君、それを私にしようとしているというの?な、なんて奴だ…!


「ミツオ君、まず話合おう!話せば分かる!」

「問答無用っ!」


聞く耳を持たずに私に近づくと手をワキワキしてそれを私の横腹へ。


「ちょ、ミ、ミツオ君…!っははははっ!」

「まいったか!」

「まいったまいった。だから、もう…っははは!」

「止めないよ。さっきのお返しだ!」


私は暴れるもののミツオ君はずっと私のわき腹をくすぐっていると、ミツオ君は本気になって私の上にまで乗ってわき腹をくすぐり続ける。私はというと相変わらず抵抗している。が、その抵抗も虚しいく散っている。


「……あ、」

「ミツオ君?」


何を思ったのかミツオ君は急にこちょこちょする手を止めて頬を染めた。どうした?と思って訊ねるが私はすぐにミツオ君が恥ずかしがった意味が分かり私まで顔が赤くなってしまった。
これ、マズくない?ベッドの上に私が下で上にミツオ君が馬乗りになっている。


「わ、悪いっ!べ、別にそういうつもりではなくて…!」


慌てて私の上から退けるミツオ君。


「わ、分かってるよ!そんなの…」


フイッと視線を逸らす。なんか気まずい。
ミツオ君は私の横腹をくすぐっていただけでやましいことなんて考えていないのは分かっている。


「ミ、ミツオ君はそんなこと出来るとは思えないし」


それにミツオ君はヘタレだし。そんなの出来るわけない。


「…俺が出来ると思えない?」

「だってそうじゃん。ミツオ君だし」

「……」

「ミツオ君?」

「俺だって男だよ?」


トンッ、と私は押し倒された。


「え、ちょ、え?」


ミツオ君の顔の横に天井が見える。押し倒されているのだからそうなんだけど。
って待て待て。コレはどういう状況?
心臓が速くなっていくのが分かる。
あ、相手はミツオ君だよ?なんでこんなにドキドキするの…!


「忍…」


少しずつ彼の顔が近づいてくる。あばばば…!こ、これってキスされるってことですか!?


「するときは俺だってやる」


いつものアホ面と違って真剣なミツオ君にドキドキする。
ミツオ君ってこんな顔するんだ。なんだかカッコ良く見える。


「ちょ、ちょ…た、たんま!」

「待たない」


ストップをかけるもののミツオ君に断られた。
ミツオ君の顔がさっきよりも近づいて鼻と鼻がぶつかる手前までになった。
お互いの息が交わる。
も、もう恥ずかしくて死にそう…!


「…忍の顔、赤い」

「ミツオ君だって赤―…」


ミツオ君だって赤いよ、と言おうとしたが言葉が続かなかった。
私の唇に柔らかいものが触れ、それに塞がれたせいで。つまり、ミツオ君のと私のが重なりあった。


「「……」」


時が止まったようだった。が、


ガタッ―…


隣の部屋から物音が聞こえてきてハッとしたミツオ君は急いで私から離れた。


「わ、悪いっ…!」


本日二回目の謝罪。


「……」

「……忍?お、怒ってる?」


恐る恐る聞くミツオ君。そりゃあ怒るよ。いきなり押し倒すしキスもするし。
でもね、不思議と嫌じゃなかったんだよね。どういうわけか分からないけど。
怒っている、というのなら、


「謝るぐらいならやらないでよ」


これだ。ホント、謝るぐらいならやらないでほしい。
ミツオ君は私の答えが意外だったみたいで目を丸くしている。


「だからミツオ君はヘタレなんだよ」

「へ、ヘタ…!?」

「あ、ミツオ君ってば顔まっかー!」

「う、うるせーっ!」


本当は私だって顔が真っ赤な筈だけどミツオ君は自分のことで精一杯だったみたい。





形勢逆転

忍が嫌がっていなかったってことは…?あ、あれ?





++++++++++++++++++++++++++
後書き

なんか最後甘いぞ!
ミツオ君とイチャコラしたいと思ったらこんな感じになりました。

とりあえず、ミツオ君はヘタレだと思っています。
(2012.03.03)
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