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▽ ブルーローズは可能性



「はい、これ吉井君の分!」

「わぁー氷室さん!いつもありがとう!」

ほら、まただ。

「こっちが木下君の分で」

「いつもすまんのう、氷室」

いつもの光景。

「これが坂本君の分でしょう」

「あぁ、助かる氷室」

何度も見ている。体ん中にぐちゃぐちゃしたものが生まれていく感覚。悔しいと悲しいを足して割ったような感情。

「で、これが土屋君の分だよ!はい!」

俺に花が咲き誇るような満面の笑顔でマカロンを差し出す氷室。彼女の小さな手に乗るマカロンをジッと見つめる。そのマカロンに何も不思議な所は無い。

「土屋君?」

どうして。どうしていつもその笑顔をフリーペーパーの如く誰にでも振る舞う?俺だけのものにしたいと思うのはわがまま?
…わがままだ。何故なら氷室は俺の彼女でもなんでもないのだから。
一人占めしたいのに、欲を言うなら誰にも見せたくないと思うのに。

「土屋くーん?どうしたのー?」

好きでもない奴に優しさを見せる?だから、勘違いされる。その勘違いをしているのは俺。誰と接しても態度が変わらない氷室との可能性はどれくらいなんだろう。なんて途方も無い事を考えてみた。

「もしかしてどこか具合悪いの?」

氷室があまりにも優しいから、優しすぎるから。好きになってしまった気持ちを抑える事が出来ない。

「………何でも無い」

「そう?具合悪かったら言ってね?」

「………(コクリ)」

「はい!じゃあ、これ土屋君の分だよ!」

俺の手に軽く触れた氷室の手の暖かさは俺だけが知るものじゃなくて。心臓が掴まれたみたいに痛い。

「………どうも」

「いいえ、どういたしまして!あのね、まだあるから食べたくなったら言ってね?」

「………(コクリ)」

俺の事好きになって

なんて事も思ってしまった。これを伝えたらきっと彼女は困るから、優しい彼女を困らせたくないと言う俺の嘘。
ただ、言えない気持ちを嘘で固めただけ。
すぐ出てくるのはやっぱり可能性。ため息を飲み込んだ。

「あのね、私−−」

「………ん?」

「えっと、土屋君は何が良いかな?」

「………??」

「やっぱり今あげようと思って。何味が良い?この中から選んで!」

氷室が持っている袋の中には色とりどりのマカロン。ピンクに緑、青に茶色。お菓子なのに何でこんなに色とりどりなんだろう。まるで花みたいに色鮮やかだ。

「悩む?」

「………まぁ」

味に大きな差があるとも思えない。目移りしそうな色だ。

「だったら、好きな色を選べば良いよ」

好きな色……なんだろ、考えた事が無い。目の前では目をキラキラさせている氷室。氷室を色にしたら何色だろうか。無難にピンク?いや、淡い黄色?…どれも違う気がする。
明るいけれど、淡い色じゃなくて。だけど、どこか優しい雰囲気が漂っている、そうだ。

「………青」

「…あ、やっぱり?土屋君なら青を選ぶと思ってたんだ!はい」

「………何故?」

「だって、土屋君のイメージは青だから」

あぁ、やっぱり好きだ。
嬉しいのは確かだけれど、どうして嬉しいかと聞かれると難しい。一緒とか同じとかそんな類じゃなくて、近い感じ。
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