▽ 何十年経ったとしても
「おーい!としゆきくーん!唐沢君ちのとしゆきくーん!」
「うるさい、隣にいるだろ」
だから大声出すな、と怒られた
でも私は気にしないよ
「今日は夕日が綺麗ですねー」
「そうだな」
「今日は風が煌めいてますねー」
「そうだな」
「やだ、としゆきってロマンチストだったの?意外」
「張り倒すぞ」
「さーせん、でも煌めいて見えるのはほんとだよー」
「随分と幸せな頭をしてるな」
「だってとしゆきとこうして一緒に帰れてるんだもーん。風だって煌めいて見えるけどね」
「‥頭だけじゃなくて目までおかしくなったのか、眼科に行け」
「お、照れてる」
私ととしゆきは河原を歩いていた。途中でとしゆきの同級生と私の友達のやっさんを見掛けたことが気になるが、まあ‥邪魔はしないでおこう
「うん、あんな嬉しそうなやっさんは初めて見るよ」
「あんな辛そうなヒデノリは初めて見るな」
「え?辛そうだった?」
「かなりな」
「へえ、私から見れば河原で一人黄昏れる少年の前に少女が現れる非現実的なボーイミーツガール的場面かと思ってたけど違ったんだー‥ん?」
談笑をしながら歩いていると、前方に河原を散歩しているのであろう老夫婦を見付けた。
老夫婦は手を繋ぎながら寄り添ってゆっくりと歩いている
とても仲が良さそうで、見ていて心が温まる光景だ。私はしばらくその老夫婦を眺めていた
「おお〜‥!」
(‥なんか、いいなぁ‥歳をとっても手を繋いで一緒に散歩か‥)
そこで私はチラッと横にいるとしゆきを見た。だが、目元が帽子で隠れていて見えない
(私も、としゆきと‥)
ああいう風に歳をとっても、手を繋いで歩きたい。
「な、なんちゃってー!!未来のことなんてまだわかんないし!」
「なにがだ」
恥ずかしくなって大声を出して誤魔化したが、としゆきからは怪訝そうな顔をされた。
「別に!未来予想図してたワケじゃないし!」
「‥凛子の話はよくわからん」
「でしょうね」
「‥‥‥」
としゆきは前を向いたままで、相変わらず何処を見ているかわからない。
私は再び、老夫婦に視線を向ける
(‥‥うん、やっぱりうらやましい‥凄くうらやましい‥!)
あの老夫婦こそ、私の最終的の理想の夫婦像だ。
(なんか、私ととしゆきの距離‥遠くない?若いうちからこんな離れてて、あの理想の老夫婦になれるの私たち!?いや、結婚すらしてないけどさ‥)
私ととしゆきの間は人一人分くらい空いている。あの老夫婦はピッタリと寄り添っているのに!
「‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
(‥ち、ちょっとくらい、近付いたっていいよね?わ、私たちは一応、恋人なんだし!)
そしてパッヘルベルのカノンを口笛で奏でながらさりげなさを装いとしゆきに寄り添った‥と同時に、としゆきに手を握られた
「「!?」」
私もとしゆきも驚いている。
いや、でも、どうしたとしゆき
「‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
なんとなく気まずい雰囲気が流れた。なんでだよ、ここは普通、甘い雰囲気になるとこでしょうが
「‥‥よ、寄り添ったっていいじゃない、恋人だもの。‥凛子」
「‥‥‥‥‥」
「‥‥スベった、か‥」
「いや‥どう反応していいか‥わからなかった‥すまん、」
「‥てか、どうしたの‥急に?」
「‥‥‥前、」
「前?」
「‥前方にいる、あの老夫婦が‥手を繋いで歩いてたから‥、」
「!」
としゆきも、あの老夫婦を見ていたんだ。それで‥まあ、後は私と一緒で羨ましくなったんだろう
「‥‥な‥なんか照れるね、」
「‥そうだな、」
私ととしゆきの距離はほぼ0で、そして手は繋いでいる状態
お互いがお互いに仕掛けたくせに私たちは二人共、顔が真っ赤で。
「‥‥‥‥‥」
「凛子。」
「どうなさった」
「俺も凛子もまだ若い」
「ティーンエージャーだもんね」
「先のことだってわからない」
「高校も卒業してないしね」
「でも、」
「‥‥‥‥」
「‥俺たちも、いつか‥」
「‥うん、ああいう風になれたらいいね」
手を繋ぎながら歩く私たちの歩調は自然とゆっくりになっていた
何十年経ったとしても
こうして二人、手を繋いで
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