▽ 異性交遊解禁
授業が終わり、私はいつも通りに下校しようと正門を通り抜けた。
周りを見ると、何組かの男女が肩を並べて楽しそうに下校していた。
この年で男女で帰るなんて…いけませんいけません。高校生には早過ぎます!
まったく、最近の若い者は色気づいてから…。そういうのは大学生からです。高校生まではしっかりと勉強して、大学で大いに遊ぶべきなのです!
私はそう考えているので、毎日勉強を欠かさずやっている。その努力のおかげで私はAクラス、そして上位の成績を取っている。流石に次席の久保君には敵わないけど。
とりあえず、私は異性交遊なんてしない。なのに―…
「…………如月」
Fクラスの土屋康太は何故か私にかまう。
彼の存在を知ったのは試召戦争の時、私のクラスの工藤さんと対戦した相手が土屋君だった。
Fクラスなのに土屋君は保健体育だけはずば抜けているみたいで、400点オーバー。召喚獣の腕には腕輪をしていた。結果は土屋君の勝ちだった。
―…あのときは、『凄い人もいるんだ』と思っていただけで、まさか自分が土屋君と話をする日がくるなんて思ってもいなかった。どうして話をするようになったのかは覚えていないけど…、きっとしょうもないことだったと思う。
「なにか用ですか?あ、盗撮はお断りですので」
「…………盗撮はしない」
「そうですか」
「…………一緒に帰ろう」
毎日毎日断っているのに、今日も懲りずに『一緒に帰ろう』と言いだして。私はため息混じりで口を開いた。
「だから、私は一緒に帰るつもりはありません」
「…………どうして」
「どうしてって……小学生ならまだしも私たちは高校生ですよ?男女が肩を並べて帰るなんて…そんなの駄目です!」
「…………」
「だから、諦めて1人で帰って下さい」
毎回同じことを言っているのに懲りない人だ。
私は歩くスピードを上げて、土屋君の横を通り過ぎた。
今日はどうやら追ってこないみたいで、私はほっとして帰宅した。
* * *
「あの…確かに私は『男女が肩を並べるなんて』と言いましたが―…」
次の日の放課後。
土屋君はまた私の前に姿を現した。が、目の前に居る土屋君は女子制服を身にまとい、ウィッグまでかぶっている。俗にいう女装。恥ずかしいのかほのかに頬をピンク色に染めている。可愛い―…じゃなくて!
「…………一緒に帰ろう」
「なんでそこまでするんですか」
「…………如月と一緒に帰りたいから」
「なっ……!」
私と一緒に帰りたい、とストレートに言われて私の頬は火が付いたように赤くなった。
今までにそんなことを言われたことがないから耐性がない。
「…………返事」
「―…み、見た目の問題じゃないんですよ!」
「…………?」
「じょ、女装しても土屋君は土屋君です!」
すると土屋君は少し眉をひそめた。
「…………気に入らなかった?」
「そ、そういうことじゃないですよ!」
「…………気に入ったのか」
「う……」
やっぱり私は土屋君が苦手だ。どうして『気に入る気に入らない』って話になるんだ。そうじゃなくて、なんで女装をしているんですか。見た目を女の子にしたからって解決する話じゃないんですよ。
私は気まずいので視線をそらすと、その先には優子の双子の弟さんの木下君が居た。
「如月よ。一緒に帰ってくれんかのう」
「き、木下君…」
「女装までしてお主と一緒に帰りたいという気持ちを汲んでやってはくれんか」
「………」
「男が女装するなんてよっぽどのことだと思うんじゃが…」
木下君を見てるとなんだか優子に言われている気分になる。口調や雰囲気は全然違うけど。
私、優子には弱いんだよね。
「……わ、わかりました!い、一回だけですよ…」
結局、私は首を立てに振った。
まったく、どうして私が男の人と一緒に帰らないといけないの。まだ高校生なのに……!木下君ならまだしも…。って、あれ、やっぱ見かけの問題だったのかな?いやいや、そんなことはない。
ちなみに木下君は同じ部活の子と下校していった。
木下君が居なくなって二人キリになった私はチラッと隣の土屋君、いや、土屋さん?に目を向ける。ウィッグの色は土屋君と同じ色でロング。肌も白く、小柄なせいか本当に女の子にしか見えない。
「…………あんまりジロジロ見るな」
「え、あ…ごめんなさい。似合っているもので、つい……」
「…………嬉しくない」
私が似合っている、なて言うものだから土屋君は不機嫌そうな顔になった。
でも、似合っているというのは本音。下手したらその辺にいる女の子よりも可愛いかもしれない。
「あ、脚、細いですね!美脚です!」
「…………」
「肌も白くて本当に女装が―…って、ごめんなさい。黙ります」
段々空気がピリピリしていくのがひしひしと伝わって来て私は口を閉じた。
話題のチョイスに失敗してしまった。
―…だって、男の人と一緒に帰るなんて小学生ぶりでどんな会話をしていいのか分からないんだもの。
勉強の話をしてもきっと土屋君はつまらない、といった顔をするだろうし。
って…なんで私がこんなに気を使わないといけないの。よくよく考えたら、私が一緒に帰りたくて帰っているわけじゃないから、土屋君に会話権を譲ればいいんじゃないの。
私はさっきの言葉通り黙ることにすると今度は土屋君が口を開いた。
「…………意外に喋る」
「え、私が、ですか?」
「…………(コクリ)」
「い、意外かなぁ…。って、私はどんなイメージだったんですか」
「…………生真面目」
生真面目、か。
確かに土屋君からしてみればそう見えるかもしれない。高校生の男女が一緒に帰るなんていけません!なんて言っているのは全国を探しても私ぐらいしかいないだろう。
「生真面目だと一緒に帰っていても楽しくないでしょう?やっぱり木下君とかと帰った方が良かったのじゃないですか?」
「…………そんなことはない」
「―…なんで私、なんですか?」
他にも沢山女子が居るというのに、土屋君はどうして私にかまうのか。
「…………なんでって」
「工藤さんじゃダメなんですか?」
AクラスとFクラスの試召戦争以来、土屋君は工藤さんと話しているところを良く見かけるようになった。だから、工藤さんは駄目なのかなと前から疑問に思っていた。
「…………どうして工藤が出てくる」
「だって、仲良いじゃないですか」
「…………どこが」
何処がって言われてもどっから見ても、だと思うんですが。
「…………さっきも言ったが、俺は如月と一緒に帰りたい」
「だから、それが理解出来ないんです。工藤さんとだったら保健体育の話で盛り上がれるのに…私とじゃ彼女みたいにはならない」
「…………ヤキモチ?」
「ど、どうしてそうなるんですか!私はただ事実を述べただけです!」
「…………そう」
「って、あからさまにガッカリしないで下さい!反応に困るから……」
彼と会話をするとホント調子が狂う。
「…………一緒に帰りたい。それだけでは理由にならないか?」
「っ……」
「…………出来れば明日も、明後日も…。これからもずっと―…」
土屋君がそんなことを言うものだから私はまた火が付いたようにボッと赤くなった。
「…………反応が面白い」
いたずらっ子のような笑みを浮かべる土屋君を見て私は更に身体が熱くなった。
「お、面白くないですっ!」
身体の火照りが治まらなくて焦る私。
どうやら私は、土屋君に恋をしてしまったようです。
土屋君が男子の制服で一緒に帰ることになるのは、もうちょっと先の話。
異性交遊解禁…………初めて会ったときから惹かれていた。
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後書き
1万hit企画で朝日様からのリクエストでした。
FFF団とは違った意味で異性交遊禁止!のような生真面目系ヒロインとのギャグ甘という内容でしたが…
ギャグの要素があんまりなかった気がします(苦笑)
女装させて一緒に帰るところと会話が微妙にかみ合っていないところぐらいですかね(汗)
それにしても土屋君は女装のままで帰宅したのでしょうか…その辺が気になりますね←
この夢小説は朝日様のみお持ち帰りOKです。
リクエストありがとうございました!
(2011.12.10)
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