▽ 拾い食い厳禁
「ど、どうして私が…?」
「どうして僕が…?」
「「目の前に居るんだ!」」
おかしい、おかしいぞ。
私は何故か尻もちついており目の前に私が居る。そいつも私と同じように尻もちついて私を指差して驚いている。
自分の服装に目線を落としてみると、何故か男子の制服を身に付けており頭を触ってみると髪も短い。首元がスースーする。髪型からして察するに多分吉井だろう、これは。
―…ちょっと待てよ。
てことは、私は吉井と入れ替わった?
私は恐る恐る口を開いて、
「アンタ…もしかして吉井?」
と、聞いてみる。頼むから首を立てに振らないでくれ、と心の中で願ったが、その願いは儚く散った。
「そ、そうだけど?」
「うわぁぁぁああ!!」
私は頭を抱えて叫び始めると、目の前に居る私(吉井)はビクッと肩を震わせた。
「なに?え、なに?てか、僕は何で女装しているの!?」
「吉井、おおお落ち着いて聞いて」
「うわぁぁあ!?何か胸に膨らみ――ぐふあっ!」
「私に何してんだぁぁあ!」
落ち着けと言ったのに(私も落ち着いてなかったけど)私の姿をした吉井は慌てふためき、しまいには私の胸にまで触ろうとした。
勿論私はそれを阻止するために咄嗟の判断でアッパーを食らわせてしまった。ごめんね、私。元に戻ったら痛いかも。
「―…落ち着いた?」
「うん、ものすごく」
よし、これで安心して話が出来る。
「私、如月と吉井は何故か中身が入れ替わっている」
「―…え?」
「だから、吉井は女装しているわけじゃないんだよ」
あぁ、だからか!とアホ面でなっとくする私、もとい吉井。頼むからそんな顔をしないでくれ。
「でもなんで如月さんと入れ替わってるんだろ?」
「それは私も聞きたいよ」
よし、少し前のことを思い出してみようか。
私は確かちょっと前までFクラスの教室に居た。そこで、坂本のちゃぶ台の上に何やら美味しそうなクッキーが置いてあって、私は一つ拝借した。むしゃむしゃ、うん美味しい。
そして、フラリと教室からでて廊下をブラブラ歩いていたら―…。
「吉井にぶつかった」
そうか、私は吉井とぶつかったから入れ替わったの?いやぁ、でもそんな漫画みたいな展開があるわけがない。それだったら、どうして?
「も、もしかして…吉井」
「ん、なに?」
アンタも坂本のクッキー、食べた?と聞いてみる。
「それってちゃぶ台の上に置いてあった…」
「お前もかぁぁぁああ!!」
どうやら私たちは坂本のクッキーを食べて、そしてぶつかったから入れ替わったらしい。どっちにしろ漫画みたいな展開。
「え、てことは如月さんも食べたの?駄目じゃないか!拾い食いしたら」
「その言葉そっくりそのままお前に返してやるわ」
はぁ…疲れる。
と、とりあえず…この状態をあまり人に見せないようにしないとな。騒動になっても面倒だし―…
「…………明久に、椿?」
思った傍から無理でした。
「ムッツリーニィィイー!」
「…………!?(ブシャァァァ)」
「ちょっとぉぉお!何抱き着いてんだぁぁあ!!」
中身が吉井と知らない康太は抱き着かれた瞬間、鼻血を噴出した。
わ、私まだ自分の意思で抱き着いたことないんだけど…!てか、普段の私はそんなことしないからやめてぇえ!
「…………明久、嫉妬はよくない」
「いや、吉井じゃないから」
「…………?何処をどう見ても明久」
中身が吉井の私に抱き着かれたまま康太は眉間にシワを寄せて言う。
あぁ、上から見る康太もなんだか新鮮だな、なんだかそんな表情されると撫でたくなるよ、小学生みたいで。
「…………明久、気持ち悪い」
「だから吉井じゃないってば!」
「って、何頭撫でてんの!?」
「吉井が康太を離してくれないから」
「…………さっきから何言ってるのか理解不能」
私はとりあえず康太の頭を撫でる手を止めて、吉井と康太を無理矢理引き剥がした。
康太には凄くイヤそうな顔されたけど。
「あのね、康太。私、見た目は吉井だけど、如月椿なの」
「で、僕は吉井明久」
「…………冗談?」
「「ホントだ」」
「…………」
私と吉井がハモるところを見て本当だと思った康太は、暫く思考回路が停止したかと思うと急にうな垂れた。
あぁ、吉井に抱き着かれたと理解したんだね。可哀想に。
「理解出来た?」
「…………残念ながら」
ホント残念そう。
「でもさ、中身は僕だけど感触は如月さ―…」
「吉井はとりあえず黙ってくれないかな」
「…………そ、そうか…!(ダラダラ)」
あぁ、吉井が変なことを言うから康太は鼻血を出し始め、そしてガッツポーズ。
ちょっとこのバカをどうにかしてよ。
「…………明久、もう一度頼む」
「なにちゃっかりリクエストしてんだ!」
と、私は軽くチョップをお見舞いすると、康太は少し痛そうに頭を抱えた。
「…………明久が死ぬほど羨ましい」
「へ?」
「…………椿と入れ替わったと言うことはあんなことやこんなことやそんなことまで…!(ダラダラ)」
「もうツッコミ切れない…」
私は額を手で覆った。
「あ、そうだ。坂本知らない?」
「…………雄二?」
「うん、私たちさ、アイツのクッキー食べた後にぶつかったら入れ替わってさ」
「…………なるほど」
「で、もしかしたら奴ならどうにか出来るんじゃないかと」
ふむ、と考え込んでいると探していた坂本が姿を現す。
「ん、なんだ?珍しいメンバーじゃねーか」
「雄二貴様ァァア!」
「は、如月?ちょ、お前どうしたんだよ」
「どうもこうもないよ!お前のせいで!」
胸倉を掴んで今にでも殴りかかりそうな私、もとい吉井。なんだかその図はある意味面白い。
「一体俺が何をしたと言うんだ」
「……いや、それ吉井だから」
「は?明久??」
「で、私が如月」
この説明は2度目だな。坂本は康太のようにはうな垂れなかった。
「面白いことになってんじゃねーか」
「「面白くないっ!」」
まったくこの男は。自分は関係ないとなるとこんなだよ!
「…………原因は雄二にあるらしい」
「は?」
と、康太がボソっと呟くと、坂本は何で俺なんだよ、と首を傾げた。いいぞ、もっと言ってやれ!
「…………雄二のクッキーを食べたらしい」
「クッキー?―…あ、あれか」
「なに、その顔は。何か問題でも?」
「あのクッキー…翔子からもらったモノだ」
どうやら私たちは霧島さんの手作りクッキーを食べてしまったらしい。
―…でも霧島さんはどうして入れ替わるクッキーなんて作ったんだろ?てか、なんで作れたんだろ。
あ、もしかして…
「自分が坂本になってあんなことやこんなことを言わせるツモリだったのかな」
私がそう言うと、あぁ、なるほど。と言ったように吉井と康太が頷いた。
「お前らのお陰で助かった…」
「とんだとばっちりだけど」
「つーか、お前らが人のモン勝手に食うからだろ?」
「「うぅっ…」」
それを言われてしまったら言い返す言葉がない。
だって、お腹がすいていたんだものなんて言ったら絶対に呆れられる。
ちなみに霧島さんは家の用事で先に帰ったみたいで私たちは仕方なく、そのまま下校することになった。
「あぁ…今日は吉井の家で過ごすのか」
私は吉井になってしまった姿を見て嘆いた。
どうしてこんなことになったのだろうか…。まぁ、人のモノを勝手に食べた私がいけないんだけどさ。
「…………だったら、家へ泊りに来る?」
「…は?」
私はピタリと足を止めた。コイツは今なんて言った?
「…………だから、家」
「い、いやぁ。待て待て待て。話の流れからして色々とおかしいんだけど」
「…………全然」
あ、あれ?もしかして、吉井と入れ替わったから頭脳までおかしくなったのか私は。
―…いやいやいや。そんなことはないだろ。
「いや、待てよ…?」
泊り、か…。
「…………椿?」
「そうよ、泊りよ!みんなで吉井の家に泊ればいいんじゃん!吉井も私も同じところに居たらいつ戻っても心配ないし、吉井の家は玲さんしかいないし!」
「…………」
「ってなんで嫌そうな顔をするの」
良い案だと思ったんだけど、康太にはお気に召さなかったみたい。
そのあと、私は携帯で吉井と連絡を取り、3人(?)で吉井の家に泊まることになった。
ちなみに、風呂に入る前に元に戻れたため最悪の事態はまぬがれた。良かったぁ…。
拾い食い厳禁…………戻るタイミング悪い
++++++++++++++++++++++++++
後書き
1万hit企画でキキ様からのリクエストでした。
連載番外編で吉井とヒロインが入れ替わる。そしてギャグ甘という内容で。
なんだかいつもよりも長くなってしまいました(汗)
が、凄く楽しく書かせて頂きました!←
この夢小説はキキ様のみお持ち帰りOKです。
リクエストありがとうございました!
(2011.11.29)
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