▽ 同じ目線で見ていたい
「あ、あれ…?」
私は窓から康太の部屋に侵入したのだが、そこでピタリと動きを止めた。
私の部屋と康太の部屋は向かい合っており、自分の部屋の窓からひょいっと入れる。これはいつものことなんだけど、康太の部屋には何故か小学生ぐらいの小さな男の子がちょこんと座っていた。しかも、康太にそっくり。
「もしかして弟ちゃんかなー?」
でも、康太には弟なんて居なかったはずなんだけど…。
康太似の男の子は『ブンブン』と首を振った。その反応は康太そのものだ。
「じゃ、親戚か。…にしても康太そっくりだな。小学生のときはこんな感じだった気がする。あんまり覚えてないけど」
昔はこんなに可愛かったのに、何処でどう間違えて変態の道へと歩み始めたのだろうか。
私の記憶が正しければ、思春期に入ったころかな。
「…………親戚の子じゃない」
「え?」
私が康太の部屋に侵入して初めて口を開いた男の子はそう言った。
親戚の子じゃない?だったら、キミは誰なの?
も、もしかして…
「く、工藤さんとの子供…!?」
それは認めたくない、認めたくないぞ…!
私はうな垂れたが、男の子は必至に否定した。あ、違うのね、安心安心。
―…てか、良く考えたら高校生にこんな大きな(?)子供が居たら大問題だわ。
「…………俺は俺」
「はい?」
「…………土屋康太」
へ、へぇー。康太と同姓同名の子が居るんだー。と私は笑った。
―…んなわけあるかぁぁあ!
「康太!?」
「…………(コクリ)」
お、驚いた…。
私の知っている土屋康太は私と同い年で高校2年生の筈なんだけど、目の前に居る土屋康太は何処をどう見ても小学生にしか見えない。
「なんで小さいの?薬でも飲まされた?某国民的アニメみたく」
「…………(フルフル)」
「じゃあ、どうして?」
「…………起きたら小さくなっていた」
「何その某国民的アニ以下略」
「…………それ略してない」
こ、このツッコミは紛れもなく康太だ。
「ホントに康太なんだね…。その辺にいる可愛い小学生に見えるよ。残念ながら」
「…………何故残念がる」
「だってそうじゃないの。康太って黙っていればまともなのに喋り出すと残念な部分が出てしまうじゃない。あ、これぞ今はやりの残念なイケメン?」
「…………酷い言われよう」
前から思っていたけど、康太ってカッコイイ?可愛い?部類に入ると思うんだ。今までずっと見てきた私が言うんだから間違いなし。
でも、康太って性に関することには変に食い付いてくるからさ、そこがちょっと勿体無いよね。女の子ってそういうの嫌がる子が多いからさ。
「にしてもさ…」
「…………何」
小学生の時は同じ目線で、高校生である今は若干康太の方が高いから目線は上になるんだけど…。
小学生と化した康太は勿論だけど、私より背が低く、目線は下。
康太は私を見上げる形になり、自然と上目遣いとなってしまう。か、可愛い。
「…………何故撫でる」
だから、頭を撫でたくなっちゃうよね。
「康太が可愛いから」
「…………」
「あ、照れてる?」
「…………て、照れてない」
やばい、可愛いぞ。頬を染めて否定するとかなんですかこれは。私に対するご褒美ですか。そうなんですか。
「ねぇ!抱きしめていい?」
「…………!!(ブシャァァ)」
やめてぇぇえ!折角可愛かったのにその鼻血で台無しだよ!何してくれてんだ!
……なるほど私のせいか。
「…………椿が悪い」
「うん、そんな気がしてきたよ」
だから、私は康太の頭の上にポンと手を置いた。
「…………背が縮む」
「大丈夫。元に戻れば関係ないから」
「…………」
「え?康太?」
「…………元に戻す方法が分からない」
元に戻れば、と私は言ったが康太は黙り込んでしまった。って、え…?今なんと仰いましたか?
「ど、どういうこと?」
「…………だから、戻す方法が」
「なんで分からないの?」
「…………最初に言った。気付いたら小さくなっていた、と」
……そういえば言っていた気がする。私としたことが、ミニマムな康太があまりにも可愛かったから忘れていたよ。
じゃあ、どうするの、と私は尋ねる。
「…………どうすると言われても」
「もしも、もしもさ。ずっとそのままだったら」
「…………その時考える」
なんて呑気な。
「…………それにこれはこれで楽しむ方法はいくらでもある」
「例えば?」
「…………この容姿を活かして色んな写真を撮る」
「…………」
どうしよう。小学生だから許されそうだけど、中身は変態高校生だ。
被害が拡大する前にこれはどうにかしてでも食い止めなくては。
「全力で元に戻そう」
「…………」
「何でそんなに残念がるの!?」
露骨にイヤがり、そして残念そうな顔をする康太。
でもね、康太。そのままでも可愛いことは可愛いけれど…、ずっとそのまんまだったら一緒に登校することが出来ないんだよ?
「…………椿?」
「―…ずっとこのままなんてイヤだ」
「…………」
「確かに今の方が可愛い。でも、それだったらいつまでたっても目線は同じになれない」
昔は康太の方が背が高くなって嫌な時だってあった。でも、今は逆で、ずっと低いままかもしれない、と思うとなんだか寂しくなってきた。
康太は私の言葉に黙ったままで聞いている。
「康太は…私と一緒に学校行ったり、一緒に試召戦争やったり、みんなと一緒に笑ったりすることが出来なくなっても…いいの?」
「…………椿」
「そんなの絶対に嫌だよ…」
お、おかしいな……。
私は気付いたら涙が零れていて、そんな私を康太は困ったような表情で見る。
「…………すまない」
そして、康太は小さい身体で私を抱きしめてくれた。
「…………大丈夫。絶対に元に戻る」
「そんな根拠…どこにあるの」
「…………ない。でも、絶対に大丈夫」
康太が『大丈夫』と言って大丈夫じゃなかったことは今までになかったから、私は安心して頷いた。
気付いたら私は寝ていて、起きた時には元に戻った康太が居た。
どうやって元に戻ったのかは分からないけど…今はそんなことはどうでもいい。
私は康太を強く抱きしめた―…。『おかえり』って。
同じ目線で見ていたい…………やっぱり元の身体が一番。
++++++++++++++++++++++++++
後書き
1万hit企画でチョコ様からのリクエストでした。
康太が何故かショタ化(小学生ぐらい)で中身はいつものまま。と言う内容でした。
最初はギャグでいくつもりだったのですが、最後は甘い感じに仕上がりました。
予定通りに書けないのが管理人です←
チョコ様のみ持ち帰りOKです。
リクエストありがとうございました!
(2011.12.04)
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