▽ 頼りになる背中
ふんふふふーん。と私は呑気に鼻歌を歌ってスキップをしている。
何でこんなに上機嫌なのかと言うと、今日の授業が終わったから。それに加え、明日から休みだから!
土日はどう過ごそうかなぁー。やっぱりゴロゴロが一番かな?あ、そいやあ今日ってCDの発売日じゃないか。さっさと買って帰ろう。
そういえば康太は何処に行ったのだろう?ま、今日ぐらい一緒に帰らなくてもいいか。
私は下駄箱で靴を履き替えて、そして相変わらずのスキップ。ふんふふふーん。じゃーんぷ!と私は2、3段の段差の上から飛んだ。
が、私が着地しようとしたところには毛虫が居た。ちょ、なんでこんなところに居るんだ。
私は咄嗟に足を移動させたが―…
「っ―…!」
着地失敗しました。あいたたた。
立ち上がろうとすると、足首に激痛が走る。私としたことがどうやら足をくじいてしまったらしい。
「…………椿?」
そして何というタイミングで康太は現れるのでしょうか。絶対に陰から見ていただろ、と思えるくらい。
「…………足、どうした?」
「あ、いや。別に……」
「…………ちょっと見せてみろ」
「あ、いや、だ、大丈夫って」
「…………良いから」
「…………」
恥ずかしいから遠慮したというのに、康太は私の靴下をずらして足首を見た。
紫色になっている。うわぁ…結構腫れてるな。
「…………保健室まで送る」
「1人で行けるから」
「…………だめ」
「う……」
そんなのさせない、といったように康太に言われてしまい私は渋々頷いた。
が、康太は何故私の前でしゃがんだのだろうか。それは何か?新手のギャグか?
私がいつまでたっても動かないのを見て、康太は不思議に思ったみたい。
「…………何をしている」
「や、それは私が聞きたいんだけど」
「…………何って、おんぶ」
「へー…おんぶねぇ…って、はぁあ!?」
私は思わず後ろへと下がり、同時に足首に激痛が走った。
「――っ!」
「…………騒ぐと悪化する。だから、早く」
「だ、誰のせいでこんなことになっていると…!」
「…………」
「……はぁ」
私は分かったよ、とため息混じりで言うと康太の背中へと乗った。
ひょいっと簡単に私を乗せると康太は歩き始めた。
…小柄でもやっぱり男の子なんだね。なんか見直したかも。
「…………どうして足を挫いた」
「どうしてって…」
「…………言えないことか?」
「そ、そんなことは…」
私は康太の背中でゆらゆら揺れながら口をつぐんだ。
挫いた理由を言ったら絶対に馬鹿にされるのが目に見えている。
「…………じゃあ、なに」
「う……」
「…………早く」
「ってなんで急かすの!?」
別に早く言わないとどうにかなるってわけではないのに、康太は私を急かす。
「い、言うけど…笑わない?」
「…………笑わない」
「…………っ」
「…………なに、聞こえない」
「…………ジャンプして、着地しようとしたところに…毛虫が居て…よけようとしたら挫いた」
「…………」
私が足を挫いた理由を言うと康太は黙ったまま歩き続けているが、かすかに肩がふるえている気がする。
お前、絶対に笑っているだろ。笑うなよって言ったのに笑っているだろ。
「約束破った!」
「…………破ってない」
「だって、笑っている」
「…………だから笑ってなど…フッ」
「いま!今笑った!くそー!約束破ったから降ろせ降ろせー!!」
「…………あ、暴れるな…!」
下駄箱に戻ったところで私が暴れ出したため康太はぐらぐらとバランスを崩しそうになる。
でも、私がこんなに暴れているのにびくともしない。意外に力あるんだな、と思ったり。
「…………上履き、何処」
「そこ」
「…………履けるか?」
「……頑張る」
とりあえず、背中から降ろしてくれた康太は私の前に上履きをキレイに並べる。
でも、挫いた方は痛くて履けなかったので、手に持つことにした。
「…………じゃ、続き」
「乗らないと駄目なの?」
「…………(コクリ)」
「はぁ……もう分かったよ」
と、私はもう一度康太の背中に乗った。
「ねぇ、重くないの?」
「…………全然」
「やせ我慢とかしてない?」
「…………し、してない」
「ちょっと待て。私にはしんどそうに見えるんだけど」
「…………これは冗談」
「…………」
私、もしかして康太に遊ばれている?く、くそう…!足治ったら覚えてろよ!
* * *
保健室に入ると先生は何故か不在だった。
「そういえば、先生らの会議があるって言ってなかったっけ」
今朝、鉄人がそんなことを言っていた気がする。終わるのは部活が終了する時間ぐらいで…あと1時間。
そこまで待てないよ!どうしよう…このまま帰ろうかな…。
そんなことを思っていると、康太は私を降ろした。
「…………そこに座ってろ」
「え、康太?」
丸椅子に座れと言われ、私はとりあえず座ることにしたけど…。
すると康太は引き出しを引いては戻してを繰り返し、何かを探しているみたい。
「…………」
ガチャガチャ、という音が無くなると康太はこちらを向いた。手に包帯やテープやらを持って。
「ま、まさかと思うけど…」
康太が応急処置する、わけないよね?と恐る恐る聞いた。
迷いもなく頷く康太。あぁ、やっぱり。
「い、いや!いいって!悪いしさ!」
「…………放置していた方が悪化する」
「う……」
「…………準備するからそれまでの間、これで冷やして」
と、渡されたのは氷だった。
どうしよう、変に緊張する。保健室には誰も居ないし。
「…………準備完了。足をこっちに乗せて」
「……うん」
もう一つの丸椅子を持って来て、私はその上に足を乗せる。
康太はテキパキと捻挫した部分を固定、そして再び氷を乗せた。なんか医者みたい。
「……すごいね。応急手当が出来るなんて」
「…………こんなの朝飯前」
「そっか…。一応保健体育だし」
足を捻って熱を持っているのに、康太が触れたせいで更に熱くなった気がする。
「…………一応、医者に診てもらった方がいい」
「う、うん…」
「…………駆け付けの病院は?」
「え、そ、そこまでは……!」
「…………」
「………お、お願いします」
私は康太の目を見ると、NOと言えなくて頷いてしまった。
病院まで徒歩10分ぐらいの距離だったけど、私の心臓はいつもより倍の速度で動いていた、というのは秘密。
頼りになる背中…………背中になにやら柔ら―…いやなんでもない。
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後書き
1万hit企画で壱檎様からのリクエストでした。
連載番外編でほのぼの甘という内容で。
とりあえず、おんぶしてもらう、というネタで書かせて頂きました。
正直管理人は捻挫とかの応急処置は良く分からないので違ってたらすみません!←
壱檎様のみ持ち帰りOKです。
リクエストありがとうございました!
(2011.12.05)
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