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お茶をどうぞ

Step.6 返品不可の贈り物

夢。夢なのだろうか。夢であるに違いない。
でも。
認知した金属特有の冷たさ。触れた手から伝わる彼の温もり。
僅かに震える指先。
夢、で終わらせることはできなかった。
できるはずがなかった。

「これから雫玖は忙しゅうなる。辛いこともある。そんな君の傍に寄り添わせて欲しいんや」
「っ……」
「これは予約。きちんとしたものは、また改めて贈らせてくれへんか?」

ああ。どうしよう。
形容しがたい感情が胸の奥底からこみ上げてくる。鼻の奥がツンと痛くなって、じわりと目頭が熱くなった。
止まったはずの涙が、また頬を伝う。

「……私、死ぬんでしょうか」
「死なへんよ。死なさへん」
「こんなにも、私…幸せ過ぎて……怖いくらいです…」
「……それは困りはったな」

さっきみたいにまた涙を拭ってくれて、文麿さんは目尻を和らげて笑う。どうしようもないくらいに愛おしいと声が、表情が私に訴えかける。

「雫玖にはこれからもっと幸せになってもらわなあかんのや」
「……文麿さんも、一緒…?」
「当たり前やないか。……君の隣を、私だけのものにさせてくれるんやったらな」
「文麿さんにしか、あげません」
「そら嬉しいことや」

嬉しそうに言う文麿さんに、私は一歩後ろに下がった。どうしたのかと不思議そうに見る文麿さんを真っ直ぐ見つめて、ゆっくりと頭を垂らした。

「…不束者ですが、宜しくお願い致します」
「こらこら、それはまだとっておかなあきまへんよ。今はまだ、予約なんやから」
「……返品不可、だよ?」
「安心しい。一生大事にするつもりや」

空いた距離を埋めるように文麿さんは私に手を伸ばした。腰に腕を通され、あっという間に距離は再びなくなった。
改めて、思ってしまった。
私はこの人が愛おしい、と。こんなにも心から好きだと、そう言えるのは文麿さんしかいない。
心で思うだけじゃ足りなくて、羞恥心とかそういうのは全然湧かなくて、自分の想いを言葉にして伝えたくなった。
そっと、文麿さんの服を掴む。

「………文麿さん」
「ん?」
「…好き。大好きです。貴方が、好きなんです……」

足りない。何度も言っても足りないくらい、私は貴方が好きなの。
他にもこの想いを伝える術はあるのだろうか。
こんなにも私は愛しているのだと、告げる言葉は他にないのだろうか。己の不甲斐なさに涙がこみ上げてくる。そんな私に文麿さんは愛おしそうに目を細めた。頬に手を添え、上を向けられる。
嗚呼。気付いている。分かっている。
文麿さんは、私がどれだけ貴方を好きなのか、分かっている。
そしてこの満ちることのない想いを受け止めてくれている。

「……私も。雫玖のこと、好きや。どうしようもないくらい、雫玖を愛してる」

嬉しくて。文麿さんも同じなんだって思ったら、堪らず笑みがこぼれた。
何も言わないまま、お互いに顔を近づけた。触れ合うだけのキス。でもそれだけじゃ物足りなくて、何度も、何度も口付けを交わす。文麿さんの首に手を回せば、支えてくれるように抱きしめられた。もっと、と強請れば、啄むようなキスや、唇を甘噛みするようなキスをされ、変に感情が昂っていく。
気持ちい。好き。欲しい。止めないで。
もっと、欲しい。
己の欲望のまま、文麿さんの下唇を食んだ。
瞬間。

「んッ、……っあ」

腰にまわされた文麿さんの手の動きが変わった。背中をなぞり、腰を触れるか触れないか、掠めるように触れられた。服の擦れと柔らかい触り方に、変に体が反応してしまった。
まって。と、口付けの最中に声を出そうとした私を彼は待っていた。

「んんっ!っ、ふっ……」

ぬるり、と厚い舌が私の口内に入ってきた。びっくりして思わず目を開くと、こちらを見ていた文麿さんと目が合った。いつから見ていたの、と驚く間もなく、文麿さんの舌が私の舌を捕え、絡ませる。ぐちゅ、と聞こえた水音に身体が大きく反応してしまった。気持ち良くなってる私の背中に、とん、と床柱が当たった。
声が出る。気持ちいい。恥ずかしい。もっと。
支えができたことに安堵するも、上手く息ができなくなって、弱々しく震える手で文麿さんのスーツを掴めば、ようやく舌が離れていった。

「はぁ、っ…ふ、みま…さっ……」
「…っは、……雫玖…」
「は、はぅ……」

ちゅ、ちゅ、と短いキスを繰り返される。そのまま文麿さんは頬を、首筋にキスをする。すると、されるがままに目を閉じて声を抑えようとする私に不満を感じたのか、文麿さんが行動に出た。

「っ、ふみまろさっ、まってぇ……!」

足の間にスラックスを入れられた。ぐいぐいと足を上げ下げする動きに、心臓が激しく脈を打ち始める。スカートがめくれ、私の下腹部に文麿さんの脚が当たり始める。
あ、当たっちゃう。だめ。だめ。
胸板に手を当て押し返そうとするも、ダメだった。
くちゅりと粘着質の水音が、感覚が、耳を、肌を刺激した。

「ひっ、ぁあっ…!」

耐え切れず声が上がった。それをよく思った文麿さんが、さらに脚を揺すってくる。だめ、だめ、と首を振って嫌がった。なのに、文麿さんは止めてくれない。追い込みをかけてくる文麿さんの動きに反応して、だんだんと熱を帯びてくる下腹部に、我慢してと自分に言い聞かせた。
必死に声を抑え込む私に、彼はずるいことをする。

「選びや、雫玖」

耳元で囁かれる。

「っあ…」
「このまま私に据え膳をさせたいか、それと私に御褒美を与えるか……どっちがええ?」
「っ…、ゃ…ふみまろ、さっ…!」
「雫玖」
「ぁ、あっ…だめ、やっ」

腰にまわされた手がお尻に触れる。

「……どっちや?」
「…ぁ、…っ…」

ずるい。本当に、文麿さんはずるい。
燻るこの熱を自力で抑えれるほど、私の理性は持ち合わせてなんていない。
震える手を文麿さんの腕に添えると、察した文麿さんは動きを止めてくれた。瞬間、腰が抜けそうになった私を支えてくれるのだから、もうダメだった。
文麿さんにもたれかかり、蚊のような細い声で私は答えた。

「かえ、る……」

頭上でくすりと文麿さんが笑ったのが聞こえた。ゆっくりと床に座らせてくれた文麿さんを見ると、熱を孕んだ眸と目があってしまう。無意識に体が反応してしまい、それに気付いた文麿さんは私を落ち着かせるように、こめかみにキスを送る。

「車を用意してくるさかい、じっとしておくんやで」
「っ……は、い……」
「ん。ええ子や」

そう言って文麿さんは部屋を後にする。
残された私は熱い吐息を漏らす。誰かに聞こえているんじゃないのかって思うくらい、激しく脈打つ心臓をなんとか落ち着かせようとする。でも、無理だった。あんなにも、あんなにも甘い声で囁かれ、さらにはそういう気分にさせられてしまえば、落ち着くことなんてできやしなかった。

「……むりぃ…」

真っ赤な顔を手で覆い、死にそうな声で零すことしかできなかった。



この後どうなったかはご想像におまかせします。
わたしの!!言葉からは!!言えない!!!!