×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

お茶をどうぞ

Step.3 約束の日

翌日、前に約束をしていたリニューアルオープンしたカフェでなっちゃんとランチを食べた。なっちゃんから昨日のプリクラの事を聞けば、ドヤ顔を浮かべながらのピースサインが向けられた。どうやら彼氏さんに一泡吹かせたことが出来たみたいで、ご満悦の様子。私も親友の恋路が上手くいっていることに嬉しくて、ついピースサインを向けたほどだった。
そして、文麿さんからのお誘いのこともつい話をした。

「ディナーねぇ……。いったい何の話をするのやら…」
「祝ってくれるだけだと思うけど…。って、え、話をするって、まさか別れ話とかじゃ……」
「あの人に限ってそんなはずないでしょーが!なに不安そうになってんのよ!」
「痛いっ」

バシンと頭を叩かれて痛みに声を上げるけど、なっちゃんは謝ることなんてしてくれなかった。むしろざまぁみろ、と言わんばかりに鼻で笑うくらいだ。酷い親友だなぁ、もう。

「金曜日っていったら明後日かあ…。楽しみじゃない」
「うん。久しぶりに文麿さんと夕飯を一緒に食べるから、すごく楽しみなの」
「良かったね。綾小路警部からのご褒美ってことだよね」
「だと思うなぁ。褒められただけでもすごく嬉しいんだけどね」
「欲が無いわよね、雫玖って」

私だった自分から高いお店で食べたいって彼氏に言うわ、と言い切るなっちゃんに私が苦笑い。遠慮を知らない分、正直者な彼女を彼氏さんは気に入ったのかもしれない。彼氏がどんな人かは分からないけど、なっちゃんに翻弄されているとなると少々同情を抱いてしまった。
でも、私は欲が無いというわけではないと思う。

「そういう高価な場所に連れて行ってくれるよりか、私は、やっぱり一緒に居られる時間がもっと欲しいっていうほうに欲張りになっちゃうかなぁ…」

アイスコーヒーをストローでかき混ぜながらそう言えば、なっちゃんは「確かに」と同意してくれた。なんだかんだいってなっちゃんは彼氏さんとなかなか会えていないのだから、なっちゃんも寂しいも思ってしまうみたい。
お互い寂しい思いを抱いていたんだと思うと、苦笑を漏らすだけだった。


**


そして当日。

「雫玖」

学校が終わってすぐ私は帰宅した。もちろん、今から文麿さんとディナーに出掛けるからだ!朝からずっとにやける顔を必死に抑えて少ない授業を受けたり卒論を少しだけ勧めたりゼミで研究の途中報告をしたりと頑張ったけど!
ちなみになっちゃんには会って早々「顔きもい」と言われた。いいもん!分かってるけど抑えきれないんだから仕方ないじゃん!口に言わず目で言えば、ほっぺを引っ張られるだけだった。痛い。
それなりにおめかしをして、文麿さんが来るのを待っていると約束の時間ぴったりに文麿さんは家に来てくれた。

「準備は出来てはるな」
「はいっ」
「……ほんまに、かいらしいなぁ」

目を細めて見つめる文麿さんにきゅうんと胸が痛いくらいに締め付ける。
それを言うなら、文麿さんは恰好いいです!
そう言いたいけど今口を開けると好き、とか、無理、とかしか出ない気がした私はコクコクと無言で縦に首を振った。そんな私に首を傾げる文麿さんにまた好きぃ…って延々とループしそうなので、文麿さんの腕に寄り添って終わらせた。

「ほな、行こか」

嫌がる素振りではなく、微笑ましげにそう言った文麿さんにコクリと頷く。車に乗せられて、私たちは本日のディナー会場へと向かった。
向かった先は、京都でも有名な格式の高い料亭だった。
待って?え?此処、完全紹介制のお店じゃなかったっけ??

「ふ、文麿さん……?」

若干震えた声で彼の名前を呼べば、私が此処を知っている事に気付いたようで安心させる笑みを浮かべた。

「ああ、そないに緊張せんでええ。固くならんでも、大丈夫や」
「い、いや。でも、ここ……」
「ええから、ええから」

私の手を取って、文麿さんは遠慮なくお店へ。
中に入ると、私達を待ってましたといわんばかりに、女将さんであろう品のある女性が「いらっしゃいませ」と丁寧にお辞儀をされた。
こ、こんな高級料亭に行くならもっとおめかししてくれば良かった…!!!
震える私を余所に文麿さんは女将さんに「お久しぶりです」と挨拶をされていた。女将さんも文麿さんに他人礼儀ではなく、久しぶりに親戚に会う女性のように朗らかな笑みを浮かべて「文麿くん、久しいなぁ」と挨拶を返していた。

「お知り合い、ですか……?」
「えぇ。私の両親の友人や。長い付き合いでな、今日もその伝手を使うて来たんや」
「文麿くんから連絡なんて、吃驚したんやから。警察んなったって聞いてはったから、私ら何や悪さでもしてもうたかと思うてな〜!」
「客として予約させてほしかっただけやったんやけどなぁ…。驚かせてもうたとは…」
「ええよええよ。今日はあんさんらだけやさかい、ゆっくりしてってな」
「おおきに」

んん??リズムよく話をされる二人に茫然としていると、なんか聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ。
あんさんらだけ?あなた達だけ?
つまり、その言葉の意味は?

「…かっ、貸し切り!?」
「そういうことや」
「ひぇっ……」

もう私の語彙力は乏しいです。未知の世界過ぎた…。なっちゃんタスケテ…。
私学生なのに、たかが一市民なのに、こんな敷居の高いところ来ていいの…?
何を言えばいいのかも、どう返したらいいのかも分からない私はてんやわんやしてしまう。文麿さんは女将さんに案内してもらうつもりで、女将さんに「部屋は?」と聞いていた。
あー、うー…もう!
女は度胸!!

「(ぜ、絶対文麿さんに幻滅されないように頑張ろう…!)」

前に読んだ雑誌で食べ方が酷い女性は嫌だって書いてあったんだから。
今まで一緒にご飯してきたけど今日は今までとは別格、全く違う気がしている私は少しずれたやる気をみせたのだった。
だから気付かなかった。
こちらを見て、若干強張った表情をしている文麿さんに。

「こちらですぇ」

女将さんに案内された場所は、ちょうどいい広さの部屋だった。部屋に入って、目を瞬かせたのはまるで旅館のような大きく開けた窓だった。窓、といっても、壁いっぱいのガラス張りではなく、和装に合った障子。
この部屋から一望できるのは、古い街並みの祇園だった。

「綺麗…!」
「この部屋は他とは違うてなぁ。昼と夜、それぞれで違う景色が見れる、特別な部屋なんどす」
「うわぁ…!文麿さんっ、見てください!すっごく綺麗ですよ!」
「そやなぁ」

この料亭が少し平地より高い理由が分かった気がした。古い街並みが残る祇園を眺めるように考えたのかもしれない。昼は活気ある光景、夜は静かに灯りだけが浮かぶ光景と、愉しめるのは格別だ。
子供のようにはしゃいでしまう私を女将さんは微笑ましげに見ていたことに気付いて、今更恥ずかしくなってきた。

「それでは料理を持ってくるさかい、ゆっくりしてな」
「は、はい…」
「分かりました」

静かに閉まった襖。赤くなって俯く私に気付いた文麿さんはクスリと笑って席へ促す。これ以上子供っぽいところを見せたくなくて、素直に席に座る。

「ご、ごめんなさい。子供みたいにはしゃいじゃって…」
「構へんて。女将さんも気にしてへんかったやろ」
「で、でも……」
「今日は私ら二人しかおらへん。気楽にしまひょやないか、雫玖」
「う、はい……」

さっきのこともあって、ただただ恥ずかしかった。
でも、文麿さんが用意してくれたディナー。楽しまないわけにはいかなかった。