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お茶をどうぞ

Step.2 恋バナと

翌日、学校に行った私を待っていたのはなっちゃんからの熱ーい抱擁でした。

「おめでとう」
「…あはは、ありがとう」

何に対してのお祝いの言葉なのか聞くなんてこと愚問だった。まるで自分のように喜んでくれているなっちゃんの背中にそっと手を置いた。昨日のうちになっちゃんに合格の報告をしたけれど、まさかここまで喜んでくれるとは思わなかった。
私を応援してくれた親友に少しだけ涙が出そうになった。
周りの学生たちがあたし達のことを不思議そうに見ているけど、そんな事を気にはならなかった。

「これで、あの人に一歩近付けたね」
「うん。でも、これからが本当に頑張らないといけないから、諦めない」
「その意気や良し」
「武将ですか?」

なっちゃんの言葉に思わずツッコミを入れれば、二人して同時に吹いた。
今日は特に授業は無く、私はお世話になった教授に合格をした事を報告した。自分が今まで努力してきた事や、経緯を知っているからか、大層喜んでもらえて、また此処で周りの人が応援してくれていた事に涙が出そうになった。思わず、あれ?私って涙もろい子だったっけ?って言いたくなるくらい。

「それで?」
「ん?」
「これからは?私らサークルも引退したし、卒論も順調。そこまで急ぐ事はないから、少しくらい息抜きできるんじゃないの?」

お昼、大学の食堂で昼食を取っているとなっちゃんがそんな事を言った。
ちなみに、なっちゃんも無事就職活動は終えています。もともと就職したい会社に一年生くらいから通っては交流をしていたから、ほぼ合格するってことは分かってたみたい。
そういう計算高いところも嫌いじゃないです。
学食の安くて美味しいうどんを食べながら、私はなっちゃんに聞かれた事に対してうーん、と悩む。

「ゆっくりしたいけど、そうもいられないかな」
「え、そうなの?」
「うん」

目を丸くしたなっちゃんに私は以前文麿さんから教えてもらった事を話した。

「合格が採用決定じゃないみたい」
「マジ?じゃあ何か問題があったら取り消されたりしちゃうの?」
「大きな問題を起こさなかったらね?合格して、何ごともなく過ごせば採用日の三ヵ月後くらいに採用通知と警察学校入校案内が受け取れるみたい」
「へぇ…。じゃあ事件起こしちゃったりしたら…」
「うん、なっちゃんの言う通りそういう可能性も無いわけではないみたい」
「わぁ……」

就活だったら特に会社から課題などが出されない限り、卒論に集中したり自由になれる。でも、警察学校に入るまでの数か月は見極めみたいなもので、民事的トラブルの当事者になると採用見送りになることもあるみたいだって、文麿さんは言っていた。あと、これはネットで調べたことなんだけど、採用通知に同封される入校案内や手紙にはその期間の注意点が書かれてると、掲示板に書いてあった。
そんな問題事を起こすなんてことはしない、と豪語していたとしても、ふとした時に当事者になってしまうこともあるから、気をつけなくちゃいけない。

「他には?ていうか、綾小路警部色んな事を教えてるけど、怒られたりしないの?」
「文麿さんが私に教えてくれた話、けっこうネットでも流れている事だからいいみたい。あ!もちろん、流出することは話してないからね!?」
「当たり前だわ。でも、そうやって身近に本職の人もいるからそれなりに知る事があるから良かったじゃん」

食後のコーヒーを飲みながら笑っていうなっちゃんに私はうん、と頬を赤らめて頷くしかなかった。
もともと警察を目指すようになったのは幼い頃だ。でも、やっぱりこうやって近くで活躍している警察の人を見るとああなりたいって思ってしまう。
それも、好きな人だと尚更。

「盛大に惚気られた気がするわ…」
「え!?なっちゃん、なに言ってんの!?」
「べーつに。あーあ!私もいちゃいちゃできる彼氏欲しい……」
「あれ?なっちゃん、彼氏いたんじゃ……」

なっちゃんの言葉に今度は私が驚く番だった。

「いるわよ。でも愛想悪いし、なーに考えてんのか分からないし、機嫌が悪いのかも分からないし、一緒にいてあっちは楽しいのか分っかんないのよ」
「ずっと様子を伺わなくちゃならないんだ……」

そう言って文句を言っているけど、なっちゃんとその彼氏さんの付き合いは私と文麿さん以上に長い付き合いであることを知っている。なんだかんだ言って、なっちゃんもその彼氏さんもお互い好き合ってないとずっと一緒にいられない。
私はその人と会った事ないけど、話を聞いている限り大事に想っていると思うんだけどなぁ。
そんな事を言えば、全否定されるから言わないけど。

「ま、慣れたから別にいーけどね!……ちょっとは連絡あっちから寄越せっての」
「………」

不満を口にしたなっちゃんが珍しくて、そして、一人の女の子なんだと改めて思ってしまった。私から見たら、高坂夏希という女性はしっかり者で堂々としているのだから。

「ねぇなっちゃん」
「ん?」
「今日は、私とデートしよ!」
「え、どうしたの。唐突に」

驚くなっちゃんをよそに、私はおぼんを片付け始める。

「なっちゃんの彼氏さんに自慢してやりたいの。寂しい思いをさせていると、私がなっちゃんを奪っちゃいますよーって」

含み笑いを浮かべて言えば、さらに目を見開く彼女。でもそれは一瞬。面白そうだと言わんばかりに、ニヤリと笑ったなっちゃん。私の策略に乗ってくれるみたいだ。

「いいね。あの男が慌てるなんて想像は出来ないけど、ちょっとくらいは悪戯してやろう」
「わぁ、見事な悪人面」
「よし、雫玖!今から出掛けるわよ!」
「!…うんっ!」

食事も終え、午後から授業は無い私達は市内へと繰り出すことに決まったのだった。


**


その日の夜。
夜まで目一杯遊んだ私となっちゃんはそれぞれ帰路に立った。久しぶりにプリクラを撮ったんだけど、これがなかなかの傑作で、なっちゃんはすぐさまそれを彼氏さんに送ったみたい。どんな反応が来るかは明日報告してくれると言ってくれた。
そして私は、時間帯を見て文麿さんに電話をしていた。

≪今日はえらい楽しんだみたいやな、雫玖≫
「久しぶりだったのもあるからだと思います!プリクラ、けっこう撮っちゃって、今度文麿さんにも見せますね!」
≪えぇ。それは楽しみにさせてもらいますわ≫

クスクスと電話越しに聞こえる笑い声に私もつられて笑う。
この時、少しだけ、自分の中に余裕が出来たのだと改めて思った。まだこれからが頑張らなければならないけれど、それでも、第一歩踏みだせたことは本当に嬉しいこと。
もっと頑張って、早く文麿さんの隣に立てるようにならないと。

≪ああ、そや。雫玖≫
「?はい」
≪今週の金曜日、何か予定は入ってはるんか?≫
「予定…ですか……?」

ちょっと待って下さい、と鞄の中からスケジュール帳を取り出して、文麿さんが言う今週の金曜日の予定を確認した。授業も特にないし、バイトも入ってなかった。

「何も無いですけど」
≪ほな、雫玖。その日の夜、私とディナーにでも行こか≫
「ディナー、ですか……?」
≪えぇ≫

突然のお誘い。でも、嬉しいのは確かだった。

「行きます!その日、必ず何が何でも空けておきます!!」
≪そない必死にならへんでもええんやけどなぁ…≫
「だって、久しぶりに文麿さんと夕食を一緒に出来るんですよ!?必死になりますもん!」

ただでさえ学生と社会人。そして市民のために働く警察の人。
そんな文麿さんの貴重な時間を一緒に過ごすことができるのだから、そりゃあ必死になっちゃう。

≪おおきにな。ほな、金曜日の夜の七時、迎えに行くから大人しゅうしとるんやで≫
「はいっ。大人しゅうしておきます!」
≪ふっ…。ほな、おやすみ≫

おやすみなさい、と一言告げて電話を終えた。
今度、文麿さんとディナー。
その言葉だけで喜びを抑えきる事なんでできるはずがなかった。ベッドの上でバタバタと足を動かして、ギュッと枕を抱きしめる。ニヤけが治まらず、頬をムニムニ解すほどの嬉しさと喜びは、今からディナーに着ていく服を考えようかとしまうほどだった。
何処に行くのかな。どんな所だろ。
あんまり高いところじゃないといいけど、そこらへんは文麿さんは配慮してくれるはず。
まだ少し先の事だというのに、私は楽しみで楽しみで仕方なかった。