×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

お茶をどうぞ

Step.24 彼の正体は

文麿さんの言葉に嬉しくてにまにましそうになる口元を手で隠す。すると、ずっと気になっていたのか和葉ちゃんが私に歩み寄ってきた。

「なぁ、雫玖先輩」
「んー?」
「雫玖先輩って、その警部さんと付き合うとるん?」
「!」

まさか、此処でそう聞かれるなんて思いもしなくて、一瞬で赤面した。隣に居た文麿さんは真っ赤になった私を見て「りんごみたいやなぁ」とか呑気に言っったけど、そうじゃない。
私の態度ですぐ分かった和葉ちゃん、そしてその様子を見ていた蘭ちゃんと園子ちゃんがすかさず話に入ってきた。
待って、怖い。女子高生怖い!勢いがなんか違う!

「え、いつからですか?!」
「え、えっと…」
「…もう三年になるんやないか?」
「きゃー!!そうなん?!」
「ちょ、ふ、文麿さん、なんで勝手に…!」
「文麿さんだってー!!」
「いやーん、ラブラブ〜!!」
「ちょ、こ、っ〜〜〜!!」

惚気るのは好きだけど、冷やかしには慣れてなくて、もう耳まで真っ赤なのは分かっていた。何を話そうにしても、目敏く、拾うからもう、穴があったら入りたいくらい…!
ていうか文麿さん!なんでそんな余裕綽々なんですか!!

「そ、そんな…柳さんまでも…」
「(おいおい、狙ってたのかよ…)」
「ど、同期にも負けた…だと…!?」
「(オメーもかよ)」

毛利さんと白鳥さんが肩を落としていたけど、そんな事を気にする余裕は私には持ち合わせていなかった。私の態度のせいもあり、皆に文麿さんとの関係がおおっぴらになってしまった事に戸惑う。でも分かる人には分かる関係なんだけど、少なくとも此処に居る人達は分かってなかったみたいだった。
それが嬉しいのやら悲しいのやら微妙だった。
これ以上話さなくていいでしょ、と思う私とは裏腹に、かなり興奮気味になっているのは女子高生三人。私と文麿さんの馴れ初めとか、どこが好きになったのかとか色々根掘り葉掘り聞いてくるけれど、一度に聞かれて答えれるわけがないでしょう。でも、いつも私がなっちゃんに言うばかりだから逆に聞かれる事なんてなくて、うん、はっきり言って全く慣れてません。

「なぁなぁ、雫玖先輩!あの警部さんの何処に惚れたん?」
「惚気話教えてくださいよ!」
「惚れた…!?の、惚気…!?」

押しが強くて戸惑う私。文麿さんに助けを請うが、女子高生の力に文麿さんもたじたじ。でも私ほどじゃないのはどうして。
誰か事態を収集して欲しい…!
そう思っていると、気になっていたのか服部くんが私の名前を呼んだ。
た、助けてくれるの…?!
藁にも縋る目を服部くんに向けたけれど、どうやら彼は私の味方ではなかったようだ。

「結婚はせぇへんの?」
「………へ?」

けっこん?ケッコン?KEKKONN?

「けっ?!けけけけ…けこ…?!」

ボフッと顔から湯気が出た気がした。
鶏の鳴き声を真似しているのかって誰かからのツッコミを貰ったけど、それどころじゃあない。なんで恋愛に疎いお前が、服部くんが、そんな事を聞くの。
なに言ってるんだと、真っ赤になって口をパクパクする私を余所に、文麿さんは目を丸くしたけどそれ一瞬、顔色一つ変えずに服部くんにあっさり答えて言った。

「せやなぁ。もちろん、する予定やで」

数秒の無言が生まれた。

「…ふぁ?!」

待って思わぬ不意打ちを食らったんですけど?!
文麿さんの言葉に女子高校生三人は互いに手を取り合い、頬を赤らめていた。服部くんと江戸川くんは「ごちそうさん」とか言って半目に。そして文麿さんを見れば、とぼけた様子で「何や?どないした?」と言ってくる。いやいや、そんなの私のセリフなんだけど、と言いたいのに、もうなにがなんだか分からなくて、キャパオーバーになった私はとにかく周りの視線が嫌になって、

「っ〜〜〜!!」

逃げるように、文麿さんの背中に隠れたのだった。

「(かわええなぁ、ほんまに)」
「(はは、この人確信犯じゃねーか)」

私へのからかいが落ち着いた所で、東京行きの新幹線が到着する放送が駅内に響いた。
名残惜しそうにする毛利さん達。和葉ちゃんと園子ちゃんが何か話していたけど、気にしない事にした。服部くんは江戸川くんと話していて、毛利さんはよほど千賀鈴さんの事がショックだったのか項垂れていた。なんというか、烏合の衆というか、見ていて飽きない。

「それじゃあ、また」
「さようなら〜!」
「また京都にいらしてくださいね!」
「はい!」
「何か目出度い事があったら教えてくださいよ!」
「任せとき!ウチが連絡するで!」
「か、和葉ちゃん!?」

力強く言う和葉ちゃんに声を上げる。文麿さんはフッと微笑ましそうに見ているけど、なんでそんなに余裕なんだ。
皆が新幹線に乗る様子を見る。けれど、私はふと思い出した事があった。

「江戸川くん!」
「?」

乗った彼に慌てて駆け寄る。そしてしゃがみ込み、彼の耳元で囁くようにして言った。
さっき何もしてくれなかったお返しもかねて。

「次京都に来た時は、元の姿に戻って、蘭ちゃんと一緒に来てね」
「……え?」

にこり、と笑って言った私の言葉に江戸川くんは身体をピタリ、と止めた。ギギギ、と錆びかけたブリキのようにこちらへ首を回す彼に、手を振り静かに離れた。私に何か言いかけたけど、新幹線の扉が閉まったことで聞こえなくなった。
うーん、あの様子からして、どうやら当たりのようかもしれない。

「(なーるほどね…)」

そんな摩訶不思議な事があるとは思わないけど、どうやらそうなのだろう。
最後に江戸川くんと話していた事が気になったのか、服部くんが私に声を掛けた。

「雫玖先輩、工藤と何話したんや?」
「あ、やっぱり彼、工藤新一なんだ」
「……し、しもうた!!」

あんな子供いないとは思っていたけど、本当にそうだとは思わなかった。でも、あの子の言動や、周りの人の対応、蘭ちゃんの寝起きの言葉や服部くんのあの子に対しての呼び方とか色々思い出せば、分かってしまう事。

「(子供になった、工藤新一…か)」
「雫玖、行くで」
「はい」

後で色々と服部くんから聞かれそうだな、と思いながら私は文麿さんとホームをあとにしたのだった。

「なにしとったんや?」
「あ、いえ。…ちゃんと保護者の言うことを聞きましょうねって」
「ああ、服部平次くんと仲がええ小さい探偵にか?」
「(小さい探偵…)はい」

最初に比べて少しだけ服部くんを認めたのか、キツ言い方をしなくなった文麿さん。微かに、笑みを溢すようにもなった。

「もう、あの子らにそう会う事はないやろ」
「そうですね。服部くんは分かりませんけどね」
「せやなぁ」

今回の事件では色々と大変だったと思うことがあって、ついそんな事を言った。でも私も文麿さんも、笑って言っているから、心底嫌だったというわけでもない。

「さて、私らも帰りましょうか」
「はいっ。文麿さん、今からは…」
「今回の事件の報告書を書かなあかんから、暇やないで」
「……」

先手を打たれた私は何も言えなかった。事件が終わったから少し会える時間が増えるとか思ったのに…。やっぱり事件なんか起きなきゃよかった、なんて今更なことを思っているのが分かったのか文麿さんは笑った。

「雫玖」
「…なんですか」
「今日までは我慢しいや」

ハッと弾かれたように見上げれば、文麿さんは私を見ていた。
その瞳の奥に欲情の火が灯っていた。
それだけで、ズクリ、と身体が疼いたのが自分でも分かった。私の変化に気付いたのか、文麿さんはクスリ、と笑い目を細めた。

「今日の夜、たっぷりと可愛がる。それまでえぇこで待つんやで」

かすれ声で囁いた文麿さんに私はカッと赤くなって、黙って頷く事しか出来なかった。


劇場版名探偵コナン『迷宮の十字路』 終