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お茶をどうぞ

Step.21 違和感

此処まで来た道はなんとなく覚えていたから、蘭ちゃんがいる場所までそう時間はかからなかった。蘭ちゃんの方に向かった人はいなかったはずだ。私の方に全員が追いかけてきたはずだから。でも、あの子を一人にしてしまった事を悔やんでしまった。

「(空手を習っているっていっても、相手は大人。しかも刀を持ってた。怪我をしたら危ない…!)」

急ごうと、走る速度を上げた時だった。

「わっ!」
「!」

玉龍寺への通り道の曲がり角。スピードを落とさずに走ったからか、誰かとぶつかった。幼い声を耳に。私が後ろへ倒れることはなかった。重たいものとぶつかった間隔はなかったもの。でも、相手は違う。
ドスン、と尻もちをついた音に、私は視線を下へ向けると…。

「君は、江戸川くん…!?」
「!雫玖さん…!?」
「なんできみが此処にいるの…!」

私とぶつかったのは、江戸川コナンくんだった。蘭ちゃんが心配していた当人。
どうして坊やが此処にいるのか分からない私は、驚愕を隠せない。こんな山奥に、しかも一人だ。危ないのは身をもって知っているから余計に、動揺した。さっきまでここに怪しい連中がうろちょろしていたんだ。子供一人で此処に居たら危ないに決まっている。一呼吸して、なんとか自分を落ち着かせる。でもいざ口を開ければ、早口になっていた。

「どうして子供の君が此処に居るの?」
「そ、それは…」
「今まで通った道で怪しい人に会った?」
「えっと…」
「蘭ちゃんを見かけた?」
「ら、蘭姉ちゃんなら近くの竹藪で…」
「見かけたの?なのにどうして一緒に行動していないの?」
「えっと、蘭姉ちゃん寝ちゃってて…」
「寝た?寝ている女の子を一人にしたの?君」
「っ……」

子供に対して容赦ないと思われるかもしれないけど、でも、男なら女の子を護るのが当たり前だ。子供でも、親しい人が、しかも親代わりでもある子がこんな危ないところで無防備ならなおさら護るべきだと思う。そういう気持ちがないという事なのかしら。
私の言葉に江戸川くんの顔が思い切り歪んだのに気付いて、流石に言い過ぎたかと反省。でも呆れた気持ちは出てしまったようで、ため息が零れた。

「…君を責めても埒が明かないわよね。江戸川くん、毛利さんのところへ戻るわよ。此処、何があるか分からないけど危険だわ」
「っ、玉龍寺に平次兄ちゃんと和葉姉ちゃんがいるんだ!」
「…え?」
「今回の事件の犯人と戦ってる!!」
「…」

子供らしからぬ表情と言葉使いに私はじっと江戸川くんを見た。子供じゃない。子供がこんな怖い表情をするはずがない。純粋とはいえない、大人びた表情。
この子はいったい、何者?
大人の前じゃ子供らしい態度なのに、こういう緊迫めいた時は言葉遣いもまるで違う。
服部くんといた時は、まるで服部くんと親友のような態度だった。

「…君は、服部くん達のもとへ行きたいの?」
「っ、…うん!」
「…そう」

その目は真実を解き明かしたいと言っている服部くんと同じものだった。
ここで駄目と言わない私は、いけない大人だわ。

「…怪しい人達はいないはずよ、私が撒いたから。今のうちに向かいなさい」
「雫玖さんはどうするの…!?」
「蘭ちゃんのもとへ向かうわ。無防備で寝ている女の子を一人のままにさせるわけにはいかないじゃない」
「うっ…(痛ぇところ突くな、この人…)」
「ほら、子供になにができるのか分からないけど、策があって行くんでしょ?…二人を早く助けなさい」

そう言い捨て、私は走り出す。後ろで江戸川くんがありがとう、と礼を言ったが無視。こんな事に礼なんて言うのはお門違いに思えた。そもそも、子供が何できるっていうのかしら。

「…あの子供、何者かしら」

気になる存在ね、江戸川コナン…。
気持ちを切り替えて、周りに怪しい人がいないかを警戒しつつ元来た道を戻る。蘭ちゃんは大丈夫かしら、何もされてないといい。焦る気持ちをなんとか抑え、玉龍寺の裏道にある階段付近まで行くと、ふと焦げ臭いにおいがした。

「!?」

振り返ってみれば、玉龍寺の一角が燃えていた。
あそこは廃寺になった寺。けれど、まだ取り壊しの期間じゃないはずだ。
驚くけれど、それよりも蘭ちゃんのほうが優先だ。この道の途中の大木のところ。そこで彼女と別れたはずだ。走っていると、見えた人影。
蘭ちゃん…!
けれど、その人影は複数に気付き、彼女の身が危ないと思った私は「蘭ちゃん!!」と声を上げてしまった。いざとなれば弓で物理攻撃を…。そう思ったけれど、それは杞憂で終わった。

「柳さん!?どうしてあんたが此処に…!?」
「!も、毛利さん…?」

彼女の傍に立っていたのは、毛利さんと警視庁の白鳥さん、それとふくよかな身体のお爺さんと女の子だった。どうして貴方達が此処に、と聞きたいのは私の方だった。でも、ハッと毛利さんの横を見れば、座り込んでいる蘭ちゃんが。

「蘭ちゃん!」
「そうだ、おい蘭!蘭!起きろ!!」
「う…ん…。……お父さん…?」

何度か肩を揺すり、毛利さんが蘭ちゃんを起こした。自分達がどうして此処に居るのか、と毛利さんが尋ねる前に、蘭ちゃんは逆に私たちに尋ねた。

「新一…新一は!?」
「あ?何寝ぼけてやがんだ?」
「(新一…?)」

夢か現実がまだ分かっていないのだろうか、と思うけれど蘭ちゃんは切羽詰まった様子で尋ねていた。つまり、蘭ちゃんは誰か知り合い…“新一”とやらに出会ったという事だろうか。おかしいな、私が今までの道で出会ったのはあの少年だけだというのに。

「(どういう事…?)」

疑問がさらに増えた。まぁ、でも蘭ちゃんが無事なようで安心した。のも束の間、白鳥さんが上を見上げて声を上げた。彼にならって、見上げて思い出す今の状況。

「玉龍寺が…!」

そうだった。玉龍寺の一角が燃えてたんだった。山火事か、と驚くけれど、すぐ警察に連絡をするように白鳥さんに言った毛利さんの後を追って、私たちは玉龍寺へと走った。
長い階段を駆け上り、門を跨げば、さっき見た鬼の面をつけた人達が。何かを見て逃げ惑う様子だったけど、駆けつけたあたし達によって倒された。

「女に刃物向けるんじゃないわ、よ!」
「ぐはっ!」

弓道だけだと思ったら大間違い。合気道技をお見舞いし、一人を捕まえたら、境内への入り口から聞こえた複数の足音。振り返ってみれば、遅れて駆けつけたのは文麿さん達京都府警だった。

「全員逮捕や!」
『はっ!』

文麿さんの指示に警察の人達は、今回の一連の事件の首謀者及び協力者を捕まえたのだった。動きがはやい京都府警さん達にお見事、と思っていたけど、視界の端に映った姿に体が勝手に動いた。

「服部くん!」

色々と私たちに心配を掛けてくれた後輩の元へ。