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お茶をどうぞ

Step.17 経験者は語る

「彼女は、間違いなく弓道は初心者ですよ?」

笑いかけながら、私は言った。今まで黙ってたから、まさか話に介入するとは思わなかったみたいで、驚きの反応をする皆さん。でも、綾小路警部は違って、何の反応も見せなかった。視線がいっきに集中して恥ずかしいような気持ちになったけど、研究報告に比べたら怖くない。それに、ここで彼女の無実を証明しないといけない気がした。

「何故、雫玖さんが?」
「私も弓道を嗜んでいるんです」
「そう、なんですか?」
「はい」

毛利さんは目をぱちくりして私を見た。シマリスちゃんの頭を撫でつつ、私は千賀鈴さんの矢枕を見つめて話を続けた。

「矢尻を怪我するのは初心者の証、というのは間違いないです。弓ってけっこう重たくて、矢を射る瞬間にいっきに重さが無くなって、腕が支えきれなくなるんです。それで、矢枕にのった矢が掠れちゃうんです。だから初心者だと尚更怪我をしやすいの」
「雫玖先輩、詳しいやん。…ああ、そういえば…」
「高校の全国大会で三年連続優勝されはったんやろ?」
「はい、そうなんです」

服部くんの言葉を遮って言った綾小路警部の言葉に、皆さんは目を丸くした。というか、わざわざ服部くんの言葉を取らなくていいんじゃないですか、綾小路警部…。
また何か気に入らない事でもあったのかな、と思ったけど、私の言葉もあって千賀鈴さんの犯人という推理は論破されたのだった。

「それに、殺害されたのなら、形見分け」

さらに、白鳥さんからも事件の動機についての指摘が。

「毛利はん!アンタ、本気でこの子を犯人やと思うたはるんですか?!」
「いやぁ、ですから…」
「冗談やおへん!舞子は芸事や御座敷で忙しいのどす!人を殺してる暇なんてあらしまへん!」

千賀鈴さんを犯人扱いされた事に怒る山倉さん。毛利さんは、慌てて弁解をしようとしたけど、山倉さんの気迫に敵わないみたいだ。それだけで終わらず、そっと歩み寄って来たコナンくんにも指摘される。

「ねぇねぇ」
「っなんだ!」
「シマリスだけど、あんな小さな身体じゃ短刀は運べないんじゃない?」
「うるせぇ!!だったら証拠を見してやるぁ!!」

もはや躍起になっている毛利さんは、私からシマリスちゃんを奪って、木魚を叩くスティックを短刀に見立てて、シマリスが短刀を背負っても動けるという証拠を立証し始めた。
嫌々、と身体を動かして逃げようとするシマリスちゃんに毛利さんは無理やり棒を縛りつけ、御池の近くに置いた。

「オラ!動けシマリス!!」

そう言って命令する毛利さん。シマリスちゃんは大人しくしているけれど、嫌がっているのは目に見えて分かった。綾小路警部も、その様子を見て「呆れてものもいえませんな」と、冷たく言っていた。
もはや居る意味などなくて、千賀鈴さんと山倉さんは退室された。

「(あれなのかな、眠らないと本領発揮しないのかな…)」

フォローする間もなく、毛利さんの推理は的外れという扱いになった。これ、依頼だったら多大な被害を自ら作ってるってなるよね…。本当に名探偵なのかすらも疑うほどに。

「オマエ、罪を逃れようとわざとシカトしてるな!?コラァ!!」

シマリスちゃんの頭をツンツンと突く毛利さん。そんな彼を見て数秒、シマリスちゃんはツーン、とそっぽを向いたのだった。なんて可愛いシマリスちゃん。そして可哀想。
もう諦めて、もう一回再調査されたほうがいいんじゃないかって思うほどだ。そろそろシマリスちゃんを解放してもいいでしょ、と思って彼らに歩み寄ろうと一歩踏みだしたと同時だった。

「やめて!!」
「可哀想じゃねぇか、おいおっちゃん!!」
「動物虐待ですよ!」
「なぁああ!!ガキャ黙ってろ!!」

毛利さんの傍で立証を見守っていた子供たちが、シマリスちゃんを救出してくれたのだった。女の子とそばかすの男の子が毛利さんを止めて、その間におにぎりの頭の男の子がシマリスちゃんを助けた。
いい子たちだなぁ、とシマリスちゃんも無事だったことに安心して、私は綾小路警部を見た。
気になった事が一つ、あったのだ。

「私のこと、言わなくていいんですか?」

昨日の事件の事、服部くんを襲った事に関しても、私は関係しているはずなのに。お茶屋での事件だったら、ずっと綾小路警部と一緒にいたから、尚更だ。
そう思って言えば、綾小路警部はあからさまに面倒だ、という顔でため息を溢した。

「ややこしい事に巻き込むわけないやろ」
「…でも、仮に共犯者が綾小路警部なら、私の存在ってどうなったのか気になったもので…」
「雫玖の事は、あの大阪探偵坊主と、メガネの子供にしか見られとらん。加えて、雫玖が彼らに関わりを持ったんは、大阪探偵坊主が襲撃された時なんやからな」
「それは、そうですけど…」

確かに綾小路警部の言葉は一理ある。鴨川で一緒にいるところを、服部くんとコナンくんだけにしか見られてない。まぁ、ずっと一緒にいたから綾小路警部のアリバイにもなって、容疑者からすぐ外されると思うけどね。一人で納得していると、さっきよりも小さな声で「それに…」と綾小路警部は言っていたが、すぐに「なんでもあらへん」と言われてしまった。
気になる言い方だったけど、教えてくれないなら聞いても意味ない。しつこく訊かないで、「そうですか」と答えるだけにした。

「……、…雫玖」
「?」

でも、綾小路警部に呼ばれた。はい、と返事をして綾小路警部を見れば、少しだけ硬い表情。何か言いにくそうな様子で、私と視線を合わせてくれなかった。かと思えば、私を見た。それの繰り返しが数回あった。
どうかしたのかな…?
言いにくそうなら私から促そうと名前を呼んだら、綾小路警部はようやく言った。

「…その、…さっきは、堪忍な」
「!」

何に対しての謝罪か、とこれだけを聞いた人はそう思うだろう。でも、私は違う。綾小路警部が何に対して謝罪を言っているのか、見当はついていた。
どうやら、さっきの弓についての自分の発現を気にしていたようだ。恥ずかしそう、というよりも、気まずい様子で、小声で言う文麿さん。そこまで気にしてない…いや、やっぱり気にしてたんだけど、まさか謝られるとは思ってなくて驚いてしまった。
でも、嬉しかったから笑って言った。

「大丈夫です。あの時の状況はついそう言いたくなりますもの」
「…、…さよか」

ほっと、安心したようで、目尻を和らげた。そんなに気にされているとは思わなかったから、ふふ、と笑ってしまった。でも、綾小路警部は私が好きなものを貶したと思ってしまったから謝ったんだ。自分の勝手で私の好きな弓道を馬鹿にした事は、文麿さんにとっては気にすることだったみたいで、それが凄く嬉しく思えた。
私の気持ちも考えてくださっているって事になるんだから。

「この後、また大学のほうに戻られはりますか?」
「はい。サークルに行く予定です」

なっちゃんが待っていてくれているだろうし、私も弓を持ちたい。
そう伝えると、綾小路警部はにこっと笑って、ポケットから鍵を出して言った。

「ほな、また送るで。ええな」
「ありがとうございます」

お礼を言えば、綾小路警部は一つ頷いて未だに毛利さんの様子を見ていた白鳥さんに声を掛けていた。私は、その間にシマリスちゃんを返して貰おうと子供たちへ近寄った。

「君たち、可愛がってるところ申し訳ないんだけどシマリスちゃんを返してくれるかな」
「えー、もう帰るんですか?」
「歩美まだリスさんと遊びたーい」
「俺もだぞ」
「ゴメンね。また遊べると思うから、その時また可愛がって?」

そう言えば、子供達は素直に従ってくれた。うんうん、子供は素直が一番可愛いね。女の子、歩美ちゃん…でいいのかな?彼女からシマリスちゃんを受け取った。

「ありがとね」
「またリスさんと遊ばせてくださいね」
「うん。この子も、喜んでるから」

そう言うと、まるで同意してくれるかのように子どもたちに向けてシマリスも可愛らしく鳴いたのだった。