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お茶をどうぞ

Step.15 呼ばれた者達

綾小路警部に連れて来られた場所は、京都のとある通りにあるお寺、山能寺だった。繁華街から少し離れた通りで、閑散としているお寺。そういえば明日、此処に奉ってある秘仏の薬師如来さまを開帳されるっていうのを聞いた。なっちゃんは神社仏閣が好きだから、絶対に行きたいって言ってたなぁ。
お寺の近くの駐車場に車を止めて、私たちは境内に入った。

「このお寺に集まっているんですか…?」
「そや。ほな行きましょか」
「あ、はい」

お寺の受付へ行けば、山能寺の僧である竜円さんが広前へ案内してくれた。事情を教えてくれたんだけど、明日開帳される秘仏が八年前から盗まれて行方不明になっていて、それを探すために毛利探偵に依頼をしたとの事。その秘仏を盗んだのが“源氏蛍”で、今朝文麿さんが見せた絵は、その仏像の在り処を指し示す暗号だというのだ。
暗号を解読するの好きだから、後でもう一度見せてもらおうかなぁ、なんて思ってしまった。綺麗な庭園に、小さな御池もある山能寺は風情のいい場所だった。広間へと続く廊下を歩いていると、だんだんと聞こえた声。ふと前を見れば、廊下に立ち何か考えている様子の男性が立っていた。
誰?と思っている私とは違って、綾小路警部はその人に声を掛けた。

「毛利さん、お待たせしました」
「あぁ、お待ちしておりました。綾小路警部…と、…」
「ぁ、えっと、柳雫玖と申します」

私のほうに目を向けた男性に慌てて会釈した。
毛利さん、というとこの人があの“眠りの小五郎”さんということか。オールバックの髪型にちょび髭を生やしている男性。名探偵なんだろうけど、西日本だし、なんだろう有名人っていう雰囲気もないね。
顔を上げてもう一度毛利探偵を見れば、一瞬鼻の下を伸ばし、きりっと真剣な表情になった。
え?どうかされたの?

「初めまして。私は“名”探偵の毛利小五郎と申します」
「ぇ、あ、はい…」
「貴方のような美しく麗しい女性に会えるとは思いませんでした。以後、どうぞお見知りおきを」

あれ、口説かれてる?
手を差し出したから、応えるように手を出したんだけど、瞬間ガシッと強く握られてしまった。両手で包み込まれるような握り方に、ぞわっと寒気が。苦笑いを浮かべて、離してもらおうと思っても毛利さんは緩みきった笑顔で離してくれない。
どうしようかと思っていると…。

「毛利さん、強制わいせつ罪で逮捕しますで」

す…と、なんでもないような、不自然も違和感もない素振りで綾小路警部が離してくれた。警察がいる前だし、流石に逮捕されるのは勘弁してほしいのか、慌てた様子で「ぃ、いやぁ申し訳ない!」と平謝りをされた。あまりの豹変ぶりに私は許すよりも苦笑いしか浮かべなかった。

「まだ揃ってへんようやな」
「ええ。あと二人ほど」

病院で会った警部さんと綾小路警部は話し始めて、私は暫く待つ間どうしようかと悩んだ。お仕事中の綾小路警部の傍にいるわけにもいかないし、どこか部屋の隅で待っておこうかな。と思って、広間へ目を向けると、バチッと目が合った。

「雫玖先輩!?なんで此処におるんや?」
「あれ、服部くんだ。やっほー」
「どうも〜って、ちゃうがな!!」

おお、流石大阪の人!ノリツッコミのキレがいいねぇ。
久しぶりに感じたツッコまれる気持ちにじ〜んと胸を痛めつつ、私は服部くん達のところへ。服部くんの隣にはコナンくんもいて、彼にも挨拶をした。隣に座る私に服部くんは改めて「なんで此処に?」と尋ねられて、私は答えた。

「なんでも、今回の事件?で、私も関わってるっぽいから〜って理由で」
「ああ、昨日の夜の事かいな」
「そうそう。服部くんが怪我した件」

私が此処に来た理由に納得したようだけど、昨日の事を思い出させる言い方が嫌だったのか眉間に皺を寄せた。うわぁ、分かりやすい反応をどうもありがとう。って思いながら、つい昔の癖で服部くんのほっぺを抓った。
昔から服部くんのほっぺは伸びやすいから、こうして楽しんでたな。

「いでででで!!ひゃにひゅんねん!!」
「いやぁ、分かりやすい反応してくれたからつい…」
「ついやないっちゅーねん!!ったく…」

私の手を離して、ヒリヒリ痛む頬を擦る服部くん。隣に座るコナンくんが笑うのを必死で堪えているのが見えて、そんなに面白かったのかしら。と他人のように思った。他人事じゃないんだけどね。
すると、服部くんは何か思い出したかのように、自分達と机を挟んで座る女の子達に目を向けた。

「雫玖先輩、知らんねーちゃんばっかやろ。この際や、紹介してもらえへんか?」
「紹介?うん、いいよ」

私と服部くんの様子を気になっていたようで、女の子二人はうずうずとしていた。なんとも分かりやすくて、可愛らしい子たちなんだろう、とつい笑ってしまった。

「私は柳雫玖です。京都大学四年です。よろしくね」

自己紹介をしたら、緊張した様子で彼女達も名前を教えてくれた。
髪の長い女の子は毛利蘭ちゃん。探偵の毛利さんを父に持ち、空手で都大会優勝の経験を持つ女子高校生らしい。空手で優勝かぁ、強いんだなぁ。そういえば、あの子も格闘技全般で優勝した事あるんだっけ…。連絡交換してないから仕方ないけど、久しぶりに会いたいなぁ。と、つい違う子を思い出してしまった。
もう一人の、茶髪でカチューシャをつけたショートの女の子は鈴木園子ちゃん。鈴木財閥の令嬢なんだけど、そんな風には見えないくらい、イマドキの女の子って感じ。でもなんでだろう…。園子ちゃんからは、なっちゃんと同じ匂いがする。

「柳さんは、ずっと京都に?」
「ううん。生まれは大阪だよ」
「えぇ!?なのに、大阪弁を使ってないんですか?!」
「そうなの。不思議よねぇ、両親は使ってるんだけど、私は何故か使ってないんだよねぇ」
「へぇ…そんな事ってあるんですねぇ」
「そうなの、あるみたいなの」

ふふ、と笑って言うと、何故か二人は黙ってしまった。無反応、というわけでもなく、ぽぉっと頬を微かに染めていた。何か見惚れるような事は無かったと思うけど、どうかしたのかと声を掛けると、ハッと彼女達は我に帰って、次の質問を私にした。
それは服部くんとの関係。

「服部くんと和葉ちゃんは私の後輩なの。小さい頃に、服部くんのお父さんにある事件で助けてもらってね。それから剣道を教えてもらった事もあって、二人の事は小さい頃から知ってるの」
「そうだったんですか!」
「服部くんの初恋の相手じゃなかったのね…」
「ちょっと、園子!」
「初恋…?…ふふっ、服部くんは私のそんな想いなんて抱かないよ」

ぽつり、とこぼした園子ちゃんの言葉に私はつい笑ってしまった。
初恋、初恋ねぇ。
服部くんの初恋は誰なのか知らないけど、どうせ和葉ちゃんに決まってるわ。小学生の時から、和葉和葉〜ってうるさかったんだから。

「(それに…)」

私には文麿さんがいるから。
気付かれない程度にチラッと、文麿さんを盗み見した。

「東京の三人の遺留品から、何か分からはったんですか?」
「ええ。三人が身に着けていたものは、色も生地も素材も同じもの…。上司によれば、形見分けと見てもいいかと…」
「なるほどなぁ…、…ん?」
「!」

事件について話している文麿さんとバチッと目が合ってしまった。思わず目を逸らしちゃった。いやいや、まさかこっちに気付くなんて思いもしなかったから、今とっても心臓がバクバク鳴ってる。でも、それを顔に出すような事はなかったみたいで、蘭ちゃんや園子ちゃんから不審がられてはなかったようだった。
小さく息を吐いて周りを見た時に、ふと違和感が。

「(あれ…、和葉ちゃんがいない…?)」

いつも服部くんと行動している和葉ちゃんの姿がいないことに気付いた私は、周りをキョロキョロ見渡してしまった。服部くんと一緒にいる彼女が見当たらないのは、昔から見ていた私にとって違和感でしかない。
気になって、服部くんに声を掛けようとした時だった。

「毛利さん、皆さん来られましたよ」

竜円さんが二人の女性を引き連れたのだった。