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お茶をどうぞ

Step.14 嫌な予感

「文麿さん…」
「何や?」

文麿さんの気持ちを考えたら、自然と言葉が口から出た。

「心配かけて、ごめんなさい…」

私ってば、まだ子供だ。
こんな事で文麿さんに迷惑を掛けてたら、警察官になっても文麿さんの補佐なんて出来やしない。もっと迷惑をかけちゃいそうだ。
迷惑かけたのは私なのに、なんで泣きそうになるんだろう。

「…雫玖」
「っ」

静かな車内。赤だった信号が青になり、文麿さんはアクセルを踏んで発進した。座り心地が良くて、いつだったか、隣に人を座らせたことがない、て言ってた車。いつも綺麗な車は、一目見たら文麿さんのだって分かるほど見続けた。

「心配はいつもしてはる。だって、雫玖は私の大事な恋人なんやから」

淡々と言う文麿さんを見つめる。さっきまでのピリピリとした雰囲気は一切なく、大好きな優しい雰囲気をまとっていた。通い慣れた道を行き、文麿さんは京都大学の入り口まで私を送ってくれた。
停車しハザードを点けてから、文麿さんは私を見た。

「そやけどな、雫玖。勘違いをしたらあきません」
「勘違い…?」

文麿さんに対しての勘違い、かな?でも、何か勘違いするような事はないと思う。首を傾げる私に、文麿さんは目を細め微笑んだ。そして、優しく私の頭を撫でた。
私は、文麿さんの大きな手で撫でられるのが好き。

「迷惑はかけてへん」
「!」

ぴくり、と身体が動いた私をよそに、文麿さんは優しい声で続けた。

「心配はかけても、迷惑はかけてへん。せやから、その勘違いをしたらあかん」
「文麿さん…」
「気にする事やないんや。やから、そないな暗い顔をするんはもうやめてほしい」
「……うん…」

ゆるく笑うと、文麿さんも笑った。
なんだか気分が晴れて、後ろめたさがなくなった気がした。迷惑はかけてない、なんて文麿さんは本当に優しい。
普通だったら、もう愛想をつかれるのに。
なんて言うと、文麿さんは一瞬素っ頓狂な顔をして、そして笑って言った。

「私は雫玖に惚れ込んでるからなぁ」

身体中を駆け巡る血が沸騰しかけたよね。


**


「…あれ?」

無事に講義での発表が終わり、サークルに行こうと思っていた時。片付けとか、教授からアドバイスを受けたりして色々との作業にひと段落ついて、スマホを見て、声が出た。

「文麿さん…?」

数件ほど文麿さんからメールと着信がそれぞれ入っていた。二時間ほど前からの連絡。何か急ぎの用事でもあるのかな…。メールの内容も、今から時間はあるか、ってくらいで何もない。とりあえず掛け直しすべきか、と思っている時だった。

「雫玖ー、サークル行くー?」
「あ、ごめんなっちゃん!先に行っててくれない?」

ひょこり、と講義室に顔を覗かせたのは親友の高坂夏希。学部は違うけど、弓道サークルに所属してるとてもいい子。大好き。
なっちゃんは、首を傾げたものの、何かを察したのかにんまりと笑った。

「なになに〜?綾小路さんからデートのお誘いでもきたの〜?」
「うぇ!?な、ちょ、何言って…!!」
「はいはい、そんな真っ赤にならなくていいから」

相変わらず雫玖は可愛いねぇ、なんておかしなことを言ってニヤニヤするなっちゃんに、さっきの事もあってかかぁっと顔が赤くなるのが分かった。ちがう、いやいや、さっきの事をなっちゃんが知ってるわけないんだから。落ち着け、私…!

「っていうか、皆がまだ残ってるのにそんなこと言わないで!」
「あんたの声も大きいから」

あっさり言い返されて、ハッと思わず口に手を置いた。慌てて周りを見れば、ちらほらこっちを見ている人がいて、私と目が合うと微笑まれてなんだか居たたまれなくなった。
なっちゃんは講義室に入ってきて、よしよし、と子ども扱いをする。子どもじゃないんですけどね!!

「何か事情があるんだったらさっさと連絡しなよ」
「う、うん…」
「どうせ今日は自主練の日だし、そんな人はいないから。あたしは夕方までいるし、帰る時は連絡入れるよ」
「…うん、分かった。私も、参加できると思ったら連絡入れるね」
「うん、じゃあ連絡待ってるわ」

そう言ってなっちゃんは颯爽と去って行った。なんかあんまり言い返す事もできないままだった…。これだから揶揄われやすいのかなぁ、と自己嫌悪。でも、文麿さんの連絡が気になるから、私はスマホを見つめた。緊急の連絡かもしれないし。

「でも、なっちゃんに言われるがままってのがなぁ…」

そりゃあ、文麿さんの事を話すのはなっちゃんくらいしか居ないし、察するのも早いとは思うけど…。そこまで言ってないのに色々と私にアドバイスくれるなっちゃんて本当にすごいな…。
小さく呟いて、折り返しの電話をする。繋がって、何回かコール音がしたあと、文麿さんは出てくれた。

≪はい、綾小路です≫
「あ、文麿さん?雫玖ですけど、どうかされましたか?」
≪ああ、雫玖≫

おそるおそる尋ねたけど、文麿さんの声は特に変わらない様子。焦ってもないし、慌てていない様子。それなら、どうして連絡が数件もあるんだろう、と首を傾げて、文麿さんに尋ねた。

「何か用事でも…」
≪そや。詳しい事は後で言うさかい、今から少し付き合うてくれへんか≫
「え、はい。分かりました」

その言葉を最後に電話は切れた。ツー、ツー、と電子音を耳から遠ざけて、私はじっと画面を見た。昨日の事件で何か気になることでもあったのかな、と思いながら荷物を持って講義室を後にした。外で待つこと数分、見慣れた車が目に入った。
綾小路警部の車だった。

「雫玖」
「綾小路警部!」
「待たせてすまんな」

車から出て、謝る綾小路警部に私は大丈夫です、と答えた。文麿さんは一度車からでて、助手席のドアを開けてくれた。見事なエスコートをしてくれたんだけど、もうそれだけでも胸キュンなんですけど。
文麿さんは運転席へと戻って、エンジンを掛けて発進した。

「急ぎの用事みたいですけど、何かあったんですか?」
「召集を掛けられてなぁ」
「召集…?」

綾小路警部が言うには、今回の事件と関わったうちの一人が、かの有名な“眠りの小五郎”さんだそうで、その人が今回の事件の犯人が分かったとのこと。推理をしたいため、昨日の事件などで関わった人を来るようにと言われたそう。

「よくニュースで見る、名探偵さんですよね?」
「そうや。その毛利さんが、例の絵の事についても依頼があったようでな。盗賊団“源氏蛍”が盗んだ仏像を探しているそうや」
「へー…」

探偵とかにあまり興味がない私にとっては、そこまで騒ぐような人物ではない。でも、前まではその“眠りの小五郎”さんよりも、服部くんと同じく高校生探偵が有名だったのは覚えている。まぁ、そんな事は置いといて、それでも不思議に思うことはあった。

「それで、なんで私も召集を…?」
「大阪の探偵くんの件で関わったから、容疑者に入ったんや」
「あー…それなら仕方ないですね…」

疑われても仕方がないな。そう思って、ふと綾小路警部のポケットに目がいった。

「あれ?珍しくシマリスちゃんが居る…」
「ああ。連れて来いと頼まれたんや」
「……」

綾小路警部の言葉に思考が止まった。
え?凄く嫌な予感。