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お茶をどうぞ

Step.9 急展開

私の言葉に驚きの表情になった文麿さん。嘘はついていない。本当の気持ちを口にした。ちょっとドキドキしたけど、文麿さんに告げる言葉は本心から出たもの。
数秒ほど驚いたままだったけど、心に余裕が出来たのか目を閉じてフッと笑った文麿さん。
もう大丈夫だと、なんとなく思った。

「…私からも言わせてもらうで、雫玖」
「?はい」

握られた手に力が入って、ちょっとだけ手の方に目を向けた時だった。

「私からも、一生そないな言葉言うつもりはないで」
「っ…」

耳元で囁かれて、思わず肩がビクついた。気付いているくせに、文麿さんは何も言わず、今度は悪戯心のある笑いを浮かべて、静かに離れていった。
ああもう、本当にズルい。
そんな意味深な事を言うと、私期待しちゃいますよ?

「…文麿さんの言葉、信じますからね」

あまりにも嬉しくて幸せになりそうな言葉に、照れ隠しでそんな事を言ってしまった。でも、文麿さんは私の言葉の裏に隠した意味を分かっているのか、ニコリと笑って「私も、雫玖の言葉を信じますで」というのだった。
互いの気持ちが思わぬ状況で改めて分かると、なんだか気恥ずかしいと思った。それは文麿さんも同じようで、微かに手の温もりが熱く感じたのだった。

「ほな、夜桜見物の続きといきましょか」
「…はい」

そっと手を離して、でもすぐに手を繋がれる。互いの温もりをたくさん感じれた。交錯する指から私の気持ちが伝わりそうで怖くなった。

「夜桜って、やっぱり京都で見るのが一番ですね」
「せやなぁ。それに今日は満月で朧月。風流どすなぁ」

川の向こうから風に乗ってやって来た桜の花びらを眺め、感傷に浸った。

「…」

こんな綺麗な景色を、文麿さんと見れるとは思わなかったなぁ。
そんな事を思っていると、文麿さんに名前を呼ばれた。今日はたくさん呼ばれる、なんて思いながら文麿さんに顔を向けた。すると、文麿さんは小さく笑って、そっと私に手を伸ばした。

「?」
「ついてはる」
「へ…?」

前髪に一瞬触れ、手が離れる。ついてる?何が?と首を傾げたけど、その疑問はすぐに分かった。
離れていった文麿さんの手を見れば、桜の花びらが。

「桜の花びらつけるなんて、可愛えなあ」
「そ、んなこと…」

どうやら風に吹かれて、私の頭に引っ掛かっちゃったみたいだった。恥ずかしくて、文麿さんの言葉にかぁ、と赤くした。その花びらを手から離さず、文麿さんは続けた。

「雫玖によう似合うてはったけどなぁ」
「…そう言われると、嬉しいです……」

謙遜もするけど、文麿さんの言葉に偽りだと思うはずもなく、口からそんな言葉が出た。文麿さんが桜が似合うって言ってくれるなら、似合うのだろう。私本人の気持ちじゃなくて、文麿さんの感想なのだから否定はしない。
引っ掛かった桜の花びらを、手のひらから風に乗せるようにして放った。風に舞い、みそぎ川のほうへと落ちて流れた花びらを見届けて、私たちは笑い合いまた歩き始めた。

「…」

こうして文麿さんと一緒に同じ時間を過ごしているけど、やっぱり会えない時間のほうが格段に多い。文麿さんは社会人で、警察。一方私は、今年卒業を控えた大学四年生。中身は違うけど、互いに忙しい身。特に文麿さんは、捜査一課だから事件があれば解決するまでずっと動いていないといけない。私の忙しいと、文麿さんの忙しいは、比べものにならない。
だからこそ、早くなりたいと思ってしまう。

「文麿さん…」
「何や?」
「私、頑張りますね」
「雫玖…?」

立ちどまって声を掛けた私。文麿さんは桜から私へと視線を変えた。でも、私は文麿さんの方を見ないでじっと桜を見つめて言った。

「警察学校に入って、京都府警察署に就いて…」

そこで私は文麿さんを見た。
キョトン、と話が分かっていなかった文麿さんだけど、私の言葉にだんだんと理解していったみたいだ。可愛い表情だったな、と思ったんだけど、やっぱり真面目な表情のほうが私は好きみたいだ。

「文麿さんに追いついてみせます」
「雫玖…」
「捜査一課に絶対行くから。文麿さんの補佐がしたいから」
「…」
「だから、待ってて…ね……?」

かならず追いついて、貴方の補佐をする。文麿さんのサポートができる人間になるように、頑張るから。
私の突然の意思表明に、文麿さんは真剣な顔で聞いてくれた。でも、私の言いたいことを汲み取ってくれたみたいで、一度目を閉じ、ふっと弧を描いた。再び開かれた眼は優しい色を帯びていた。
しかし、見え隠れする挑発的なものもあった。

「はよ来ぃ。雫玖がここまで来るんを、私は待つで」
「っ…はい!」

待ってくれる。でも、長い間待たせる気は私の中ではさらさら無い。
文麿さんの言葉が嬉しくて、思わず抱きついた。勢いよくで、衝撃が少し大きかったのか、文麿さんは少しだけよろめいたけどすぐに持ちなおして私を抱きとめてくれた。ふわり、と文麿さんの匂いが鼻を擽った。
人気の少ない場所まで歩いたから、私たちが無言になれば音は自然と消えた。耳に入るのは、川のせせらぎの音と風によって生まれる桜の揺れる音。そっと離れて、文麿さんと見つめ合った。
あ、キスする。
なんとなく、分かった。

「雫玖…」
「文麿、さん……」

文麿さんは私の名前を紡ぎ、そっ、と私の頬に手を添えた。あまり外でこういう雰囲気にならないから、緊張して、自分の唇がわずかに震えているのが分かる。頬を染め、伏し目がちになりながらも文麿さんを見つめる。文麿さんもじっと私から目を逸らさない。
ゆっくりと、どちらともから顔を近づけた。
あと1センチ……。

ヴーッ ヴーッ

「「………」」

全てが台無しになった。
誰だ、私と文麿さんのラブラブタイムを邪魔した奴は。ほんの、あと少しでキスしてイチャイチャできたのにぃぃぃ。
しかも文麿さんは文麿さんで、すぐに携帯に出ちゃったよ…。

「私や。…何やて!?」
「?」
「分かった。すぐ行く」
「……ふ、文麿さん…?まさか…」

電話に出て数秒も経たないうちに顔色を変えた文麿さん。話を聞いてるうちに、真剣な…仕事の顔つきになった文麿さんに私は嫌な汗が流れた。
震える声で声をかけると、電話を切った文麿さんは私を見て言った。

「すまん、事件が起きたみたいや。雫玖、遅うなるが、送るさかい車で待っとき」
「ぇ、あ…」

事件よ、お前のせいか!!今回は恨むぞ、事件起こした犯人!!
いい感じになった雰囲気をぶち壊されて、さらに文麿さんは仕事の顔になって、もうさっきまでのムードに戻れるはずがなかった。車で待っとけ、だなんて、事件の捜査がすぐに終わるはずないのに…。
言いたい事が山ほどあるのに、あれよあれよと私は文麿さんの車で待機するようになってしまった。

「あ、せや。雫玖」
「え?」
「すまんが、この子頼んます」
「……」
「ほな、大人しゅう待っときや」

嵐のように去って行った文麿さんに頼まれたのは、彼のペットのシマリスちゃんだった。
こんな時にでもシマリスちゃんですか、そうですか。私の気持ちを察してくれているシマリスちゃんは、オドオドしていて、ごめんね可愛い。それに気付かない文麿さんは急ぐように、現場へと向かって走って行った。

「…文麿さんの、バーカ」

嫌いになっても知らないぞ。
……嫌いになんかなれないけど。