試合は最後まで分からない
「おっ、黒子っちでてきたっスね」
「火神をいきなりぶんなぐった時はどーなるかと思ったけどな」
「……けど出てどうするのかしら?高尾がいる限り、黒子はもはや切り札ではない…それとも…何かあるのかしら?」
第4Qが始まって真剣な表情の黒子に何かあると思いながら試合を観戦。インターバル中に火神は冷静になれたようで、今までより顔つきが変わっていた。試合そうそう、リコに何か言われたのかな。なんて思っていると、試合はいきなり急展開。
「…なに、あの早い球は」
「あれは、中学の時の…!!」
柳生のレーザービーム並の速さの黒子のボール。黄瀬曰く、“キセキの世代”にしか取れなかったパス技。けど、何とかすれば幸男達も取れるかも。
「って!じゃなくてガス欠寸前で大丈夫なんスかアイツは!」
「まぁ…今のはムリしてダンクいく場面でもなかったって見方もあるな。ってかそもそもダンクってあんまイミねーし、つかれるワリに点数は同じ」
「派手好きなだけスよアイツは!」
「それは黄瀬もでしょ」
黄瀬の言葉にツッコんだ。うーん。やっぱり似とるな、黄瀬と火神は。
「…けどじゃあ全く必要ないかって言えばそれも違うんだよ。点数は同じでもやはりバスケの花形プレーだ。それで緑間をふっ飛ばした。今のダンクはチームに活力源を引き出す点数より遥かに価値のあるファインプレーだ」
そう。ダンクは派手だけど、時には流れを変える貴重なゴールでもある。それはどんな凄い技術であっても一瞬で変える。
だからダンクはバスケの中で人気になるんだ。小さく笑ってしまった。そのまま試合は…、
「…最後まで何が起こるかは、分からないものね」
「…そうだな」
誠凛が勝った。ほんの三秒くらい、その間に起きた出来事は選手達にとっては長く感じただろう。
「さて、と…。帰るか」
「外、雨みたいッスよ?」
「……マジか」
「ちょっと、何してんのよ」
夕飯は近くのお好み焼き屋で食べることになり、私達は移動した。
誠凛は次はリーグ戦。確か、東京にはもう一校、“キセキの世代”を獲得してた学校があったわよね。火神の脚の容態も気になるけど、誠凛はどう戦うのか見物ね。
「幸男、もんじゃいい感じ」
「おう」
鉄板でいい具合に焼けてるもんじゃを見て幸男に告げる。小さなヘラを使ってもんじゃを育てる幸男に、何枚目か分からないままお好み焼きを食べる黄瀬。
「明日も練習ッスねー…」
「みっちりな」
「みっちりね」
「ちょ、二人して言わないで下さいッスよ」
ぼやくように口にした黄瀬の言葉に、私と幸男は同じことを言った。だいたいIH出場決まってるからってのんびりするわけがない。これから練習がキツくなるんは当たり前だ。
「倒れたら介護してあげるから安心しなさい」
「楓先輩…!」
「水ぶっかけるだけだろ」
「あ、分かった?」
「ちょ、楓先輩ィ!!?」
幸男の言葉に黄瀬は疑うように私を見てきた。いや、どうせ黄瀬が倒れるなんて事はないでしょ。だるそうにしてる部員にはたしかに水をぶっかけたりしたけど、熱中症やぶっ倒れた奴にはちゃんと介抱したもの。
「それより、お前は自分の体調管理をしっかりしろ」
「…ちゃんとしてるし…」
「どの口が言ってんだ」
「え?楓先輩、身体弱いんスか?」
そんなふうには見えない、という黄瀬に幸男は呆れたように言った。
「こいつ、熱さが嫌いで長時間飲まず食わずを過ごしてぶっ倒れる」
「ハァ?!」
「酷いときは一週間水だけの生活をしやがった」
「一週間水ゥ?!」
幸男め、黄瀬に要らない情報を入れるな。言わなくていい、という意味で幸男の腕をぎゅう、と抓れば「いてーよ」と言われるだけ。
「だから部員は楓を見張ってるんだよ。夏の間は特にな。だから黄瀬、お前も楓をしっかり見とけよ」
「はいっス!」
「私は貴族かなにか?」
酷い言われようだ。けど否定できないのが悔しい。この話が嫌になり、私は二人に告げた。
「あ、そろそろいいんじゃない?もんじゃ」
「ん?ああ」
「それじゃ、いっただっきまーす!」
話を逸らしてお好み焼きに手をつける。時々幸男からもんじゃを貰ったり、お好み焼きをあげたりして交換する。そんなことをしていると…
「すいませーん」
「いらっしゃーい!あれお客さん、多いねー」
「?」
ちらり、と店主の声が耳に入って思わず入り口を見れば…
「お」
「あ」
「ん」
「黄瀬と笠松!?」
「呼び捨てかオイ!」
「ちっス」
誠凛バスケ部メンバーがやってきた。
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