朱雀領の小さな村に住んでいた私は、物心つく頃には既に両親はなく、更にその頃には、声すらも失っていた。
喋ることも出来ない私を、助けてくれる大人なんて数は限られていて。
唯一、私みたいな親の居ない子供を、自分の子供のように育てくれたおばさんが居た。そのおばさんも、私が6つの時には亡くなった。
そして、独りぼっちになった不自由な私は優しく笑んだマザーに拾われた。
喋ることが出来なくても、マザーは本当のお母さんのように笑ってくれた。
そして、マザーに連れて来られた所で、同じように親の居ない境遇の子逹と出会った。皆、それぞれ育った環境や、過去なんかは異なっていたけど、マザーに対する想いは同じだった。
最初こそは、仲良くなんて出来なかったけど、外局での厳しい訓練や生活の内に気づいたら仲良くなっていた。
私が喋ることが出来なくても、皆と意思の疎通が出来るようになっていた。
その中でも、いつも一緒だったのはエース。

“ 迷子の足音 消えた 代わりに祈りの唄を
そこで炎になるのだろう 続く者の灯火に”

いつだったか、マザーが唄ってくれた歌。
エースはその歌が気に入ってたけど、そこしか知らないんだったね。


「…ユリ……ユリ…」
ゆさゆさと揺さぶって名前を呼ばれる。
ゆっくりと瞼を開けた時に、目の前に広がっていたのはエースの顔。
エースはボロボロで、でも、私が起きたのを確認すると安心したように顔を誇ろばせた。
体を起こすと全身に響く痛み。
「ー…ッ!!」
「大丈夫…か??」
エースが優しく顔を覗き込んでくる。それはそれは心配そうに。
“終わったんだね”
「あぁ、終わったんだ。僕達が終わらせたんだ…」
エースの綺麗な白金の髪を梳く。
途端に悲しそうな顔をしたエースが、絞り出すような声音で言う。
「……僕達、死ぬのか」
“わからない。でも、死にたくなんてない。マザーの為ならいつ死んでもいいと思ってたけど、やっぱり…”
「死にたくない……ッ」
俯いたエースをそっと抱きしめた。
自然に頬を伝うのは涙。伝えたいことは言葉には出来ない。
でも、それでも……。
“でも、私達ひとりじゃないよ。みんな一緒なんだから…”
そっと背中に回された、エースの腕はとても心地よい暖かさで、想いがいっぱい溢れてくる。
それを伝えようと開いた口は、伝え方をしらなくて言葉にはならずに消えた。


それだけは貴方に伝えたかった

(エース、愛してる。ずっと、ずっと一緒)



120810        ねお

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