※特殊、注意





私のクラサメくんは甘えん坊だ。
傷つきやすくて透明無色。
アンドロイドの彼は、雇い主の性格から学習してそれぞれの性格を成形していくらしい。
サイスの彼はスパダリだし、ミワ先輩の彼はちょっと意地悪だけど器用。
ちなみにフェイスくんのカトルさんは兄貴!って感じ。
私って自分が知らないだけで年下好きなのかな。
私のクラサメくんはきりりと整った顔に似合わず子供のような振る舞いをする。
ひとりで着替えられないし、何時も私の背中にひっついている。まるで子育てだと苦笑してしまう。

「こ〜ら!グリンピース残しちゃダメだって」
オムライスの卵の下に隠された緑を、皿の隅に集めていた彼を叱る。
「……好きじゃない」
緑と私の顔を見比べて、彼は口を尖らせた。
「嫌いなものも食べなさい!」
スプーンですくい上げて、口元へ運ぶ。
流れのようにその口はスプーンを含み、躊躇うことなく咀嚼された。
「いつまで甘えん坊なのよ……」
彼に好き嫌いなど無いはずだ。
まだまだその機能は人間には程遠く、嗅覚や味覚は備わっていない。痛覚も然りである。
「いつになったらクラサメくんは理想の彼氏になるのかな〜」
頬杖をつきながら、オムライスを食べる彼を眺めた。
この子供のような彼に恋愛感情を抱くことはあるのだろうか。

「ユリ」
「おっ……と、危ないよー」
ジャガイモの皮を剥いていると、後ろから抱きしめられた。ぎゅっと。
彼の癖のある髪の毛が頬を擽った。
「ユリ……いい匂いがする」
「何作ってるかわかる?」
彼は私の質問には応えずに、顔を私の肩に押し付けた。重たい。
「クラサメくん、本当に重たいし危ないから離れて欲しいんだけど、」
「拒否する」
「……小麦粉とって」
緩慢な動作で彼が手渡してくれたのは片栗粉で、深いため息を吐いた。

「あー!またボタンかけ違えてる!」
ふわふわと夢に落ちかけている彼の頭を叩き、ボタンのかけ違いをなおさせた。
「これでいいだろう」
傲岸な態度だったのでもう一度頭を叩いた。
嬉しそうに微笑んだ彼に、何故か抉られるような痛み。心が内側から3回叩いた。
「一緒に寝よう」








苦しいかなしい逢いたい合えない痛い悼ましいさめざめあおあおからからざらざら血が流れている無駄な血だがんがんと頭が痛いあぁどうせまた忘れるすぐあっという間に何も無かったかのように毒針は巡る膿は溜まるとどまって気分は晴れない何も変わらない裏切ったのは誰だあいつだいやお前だいやいや自分じゃないかさみしいよ助けて泣きたいけど泣けないだってちっともかなしくないあぁこの人誰だっけ知らない知らないいらないなんでもない明るい暗い静か閑かなんにもいない何も無いまっしろさらさらあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁああぁ、










息苦しくなって夜中に目覚めた。
息を落ち着けながら隣を見ると、穏やかな寝顔。
なんだかほっとしてその滑らかな頬を指先で撫でた。
「火傷痕がないだけで柔らかく感じるね」
ふふ、と口元を緩めたところで固まった。驚愕と戦慄。
「……誰のことを言ってるの」
身じろいだ彼に怖くなって目を瞑った。





「大丈夫だ」

雪のような暖かさと、氷のような鋭さが心地よくて愛おしい。
あぁ、最後はきちんと×してくれる彼の冷たい手で。
最後まで私を愛して、来世は私を恨むだろう。
君に×されるのがこんなに幸せだなんて




「身体の痛みには慣れた。しかし、何度経験しても記憶の抜け落ちる感覚は慣れないな……虚しいものだ」

大丈夫よ。最後は私のだから。
それが終われば奇妙な感覚を感じることもなくなるわ。
くしゃり、彼の柔らかな髪を撫でた。
そっと寄り添って父親同然の大切なあの人のことを考えた。私に、春は来ない。
妹のような彼女を思って涙が出た。私は、あたたかな春を知らない。
兄のような上司を思って笑いがこぼれた。みんな、寂しい。






おはよう、と彼が挨拶をした。
私より早起きなんてはじめて。
珈琲を淹れてるんだ、と彼が言った。
自分から何かするなんてはじめてのこと。
よく見れば今までずっと着替えを手伝っていたのに、今日はもう着替えが済んでいる。
「どうした。何か……可笑しいか?」
奇妙だと見つめていれば、心配そうな瞳が私を見た。
宝石みたいな瞳。
「クラサメ……くん」
「あぁ」
「クラサメくん」
「そうだ」
「誰……?」
「……86回目も失敗か」
ため息吐いた彼は、少し悲しそうな疲れたような顔をした。
大きな冷たい手のひらが頬を包み込んだ。
「私が、違った」
「ユリにはまだ暖かさが足りないな」
「私、が、人じゃなかっ、た」
大丈夫だと彼はそっと私の目を瞑らせた。
「おやすみ、また逢おう」







170202 ねお

愛して裏切られて憎んで転生して転生したけど死んじゃったからアンドロイドを造ったクラサメさんの話。

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