みどりあかあおきいろ
ぽつりぽつりと散らばっている色を摘みながら鼻歌を歌う。
黄緑のガーベラが好きだ。
ガサリ、と大きな音がして、私は動きを止めた。
うそ、モンスター?結構大きな音だった。
人なんて滅多に来ないが、大型のモンスターはもっと来ない筈だ。
しかし、何があってもおかしくはない。
軽く手を閉じたり開いたりして確認する。大丈夫、ファイガくらいは打てる。
手を前に、振り向きざまに詠唱すると、掌から火の玉が飛び出した。
けれど、すぐに私の魔法は何かにぶつかったようにかき消えた。
「………候補生さんですか…?」
正面に見えた姿を確認する。短く髪を刈った男性は若く、制服のようなものを着ており水色のマントをしていた。
すぐに自分の行動を恥、私は慌てて彼に駆け寄った。
「すみませんでした……っ!……私、まさか人がこんな所にくると思わなくて、も……モンスターかと思って」
「……その判断は間違ってない」
当たっていないから大丈夫だと彼は笑う。どこをどう通ってきたのか、そこら中についた葉っぱを取りながら彼は言った。
「ここはどこだ?近くに村はあるか」
「えぇ、すぐ近くにあります」
「それはよかった。仲間とはぐれて道に迷ってしまったんだ……案内してくれるか?」
「はい。……こちらです」
花のはいった麻籠を抱え直し、小道を行く。
「……仕事の邪魔したな、すまない」
「い、いいえっ!もう終わりでしたから……候補生さんもこんなとこまで来るなんて大変でしたね」
ここら辺はどちらかと云えば青龍領に近く、森や花、小さなモンスターがいるような穏やかなところだ。
近頃は白虎との関係が緊迫しているというが、こんなところまで来てしまうとはなかなかにスパルタである。
しかし、そもそもアギト候補生というのは厳しいもので当然なのだろう。
彼はゆるゆると頭を振ると恥ずかしそうに言う。
「いや……単に俺に方向感覚がないだけで、」
「それでも疲れたでしょう?少しおやすみになっていって下さいな」
「ありがとう……だが、そうだな……まず仲間と連絡を取らなきゃならないな」
照れくさそうに頬をかいてはにかむ姿は、弟や隣の子ども達と変わらない。
失礼だが、かわいいと思った。
「君は」
「え、っとなんですか?」
ぼうっとしていた。彼の呼びかけに驚きながら聞き直す。
「君はその花を売るのが仕事なのか?」
「そうですね……でも、ちょっと普通の花売りとは違うんですよ、私」
少し得意になって後ろをついてくる彼に笑う。小首を傾げる彼が目に入って、気分はいい。
「プリザーブドフラワーっていって、萎れない花にするんです」
「萎れない?枯れないということか……?」
「水分を飛ばしちゃうんである意味枯れた花なんですけど……長い間綺麗なままの姿を保てるんです」素敵でしょう。
眼下に村が見えてきて、気持ち小走りに丘を下る。
「……彼女さんへプレゼントしたら喜びますよ」
「どうして女子どもは花が好きなんだろうな」
草に足が引っかかった私の手を、彼が引いてくれる。危ないだろうと言う彼の手はひんやり冷たかった。
候補生さんの逞しい背中を前にして、かっこいいと思った。抱きつきたい。
「そんなこと言っちゃだめですよ」
「……それでも、花が似合うのは女性のほうがいいだろう。とりわけ君みたいな……うん、そのほうが花だって嬉しいさ」
強くはない風が吹く。ふわふわとした甘そうな彼の髪を拐おうと必死に。
少し速くなった鼓動は彼のせいじゃない。
きっとこんなに天気がいいからだ。
そう言い聞かせて私は彼の手を強く握り返した。


これがきっと正しい行き方


160323 ねお

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