「いい加減に吐けって……!」
びりびりと波紋を描きながら広がっていく。あまりに甘い痺れに、詰めた息を漏らしてしまう。
こんなもの、なんともない。
普段の私であったなら、痛くも痒くもないはず。
「あぁっあ、」
ひときわ強い一撃に身体がしなる。
「このっ……朱雀の犬がぁっ!!」
うるさい。それこそシドの箱庭の一部のくせに。
だれがいうもんか。
これでもかと下唇を噛むと、それを見留めた男が怒鳴りながら顔を思いきり蹴り上げた。
倒れ込んで咳き込むが、髪の毛を引かれて無理矢理顔を上げさせられる。
すぐそこにモンスターを象ったようなヘルメットがあって吐き気がした。
もう、舌をかんで自ら絶ってしまおうかと考えたところだった。

「もういい」

鈴の音のように凛とした、通る男の声だった。
男は掴んでいた髪の毛を離すと、私の身体を偉そうな男の方に向けた。
強引に向けられて、あちこちが痛んだ。
「おい、娘」
睨みつけると、憐れんだ瞳で見られた。それが、酷い侮蔑のように感じられた。
「お前は憐れだな」
「……うるさい」
「お前ひとり死んだところで些末な記憶が抜け落ちるだけだ。無駄死にもいいところだな」
わかっている。吼えるのもしんどくて睨む気力もなくなってきた。
本心は泥のように眠りたいだけなのだ。
「仲間が吐いた。だからお前はもう必要ない」
だから、男のその言葉に心底安堵してしまった。
「……よかった」
「手錠と鎖を取れ」
彼の口元が僅かに緩くだか、弧を描いたように見えた。
兵士達は、のろのろと私の自由を奪っていた手錠やらを外す。
反抗する力があるはずもなく、冷たい床に横になると、急に身体が浮き上がった。
驚いたが、目を開けているのも辛く目蓋が閉じていってしまう。
懐かしいような優しい香りがして、私は安心して目を閉じた。
手当てをしてやる、という硬い声と共に柔らかいものが目蓋に押し付けられた。



160108 ねお

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