ズクリ、とまるでえぐられた様な痛みを感じて目覚めた。
しぱしぱと瞬きをして、ベッドの中を探る。
「ひぁ……っ」
伸ばした腕が、突っ張ったような痛みを知らせて思わず悲鳴が出た。
腕が痛いのも、昨夜にはあった筈の温もりが無いのも、どうしてなのか理解出来ずに、取り敢えず上体を起こした。

「かとる……?」

きょろきょろ、と部屋中を見まわして名前を呼んだ。しかし、返事は無い。

「かとる、は…じゅんしょおだから、いそがしーんだ。きっ、とそう……」

頷きながら、そう自分を納得させた。
そして、何気なく手のひらを見つめた時、ある不自然に気づいた。

「あれれ……?おててが、はんぶんしかみえない、よ」

元々大きな瞳を、より大きくして手を見つめる。そっと首を傾げると、ベッドから出て浴室に向かった。
浴室には備え付けの大きな鏡がある。自分の姿をはっきりと確認したいし、鏡を通して自分を見るのは大好きだった。
半分の視界の中、ふらふらと危険な足取りで、時間は掛かったものの浴室まで辿り着けた。


ピカピカと磨き上げられた鏡。
しかし、そこに映っているのは自分ではない。

「だあれ?」

そう尋ねたものの返事は勿論無い。
そこに映っているのは、自分が知らないだけで自分以外の誰でもないのだ。
首を傾げると、鏡も首を傾げた。
しかし、鏡はおかしい。自分はこんな“化け物”みたいな姿をしていない筈だ。
そこで、自分の顔に触れてみた。かさ、と指先が顔を覆っている物に触れたー…刹那。

「ぃ…いやぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!」

鏡に映っていたのは、顔の右半分をガーゼで覆い隠され、全身に包帯を巻かれた左腕の無い女だった。

「やだっ!ちがうちがう、こんなのちがうっ!!わたし、わたし…はちがう。やだやだやだやだやだやだやだやだやだぁっ!ちがっ……いやあああああああああああああああ!!」



*


音を立てて部屋に入るものの、反応がない。不思議に思い、ベッドを覗くもそこに人の姿は無かった。

「今度は何処に……」

そう呟いた時、恐ろしい悲鳴が我の鼓膜を揺らした。
手に持っていた食事をベッド脇のテーブルに置くと、悲鳴の聞こえた浴室の方へ急いだ。
もう、こんな事が日常茶飯事になってしまっていた。これは良くない事だ。
わかっている。

ガタンッ、と大仰な音を立てて、浴室の扉を開けた。其処には、泣き叫びながら自分の躰を抱きしめている彼女の姿があった。
と、彼女の右手が、顔を覆っているガーゼに伸ばされているのを捉えて、咄嗟に彼女を腕の中に捕らえた。

「ああああああ!!いや、いやっ!」

「落ち着け!大丈夫だ、もう少ししたら元に戻る。我は此処に居る」

「ああ、あ
かと、る……かとるかとるかとるかとるかとるかとるかとるかとるかとるかとるかとるかとるかとるかとるかとるかとるかとるかとるかとかとるかとかとるかとるかとる」

怪我をしない程度に気をつけて、それでも、強い力を込めて抱きしめれば、彼女は動きを止めた。
そして彼女は、まるで壊れた機械の様に、ただ我の名前を呼び続ける。





軋んだのは錆びた車輪





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