「ねぇねぇ、エース」
ぺたぺた、と足音。
何時ものように、エースの腕に腕を絡めてホールを歩き、魔法陣をくぐって牧場まで来た。
「どうしたんだ?」
エースはそう言って、私に優しく微笑みかる。その、余りにも暖かな笑みに伝えられなくなる。
なんでもない、と笑えば、エースは頬を膨らませた。
*
本当は、なんでもなくなんてなかった。
でも、エースの優しい顔が見られたから、それだけで十分だと思えた。
元々、0組であるエースと9組の私じゃ違い過ぎるんだ。
皆の憧れである0組と、忌避されてやまない9組とは、同じ変人の集まりの類ではないんだ。
「……ねぇ、ナギ」
「ユリ、どうした?」
いきなり呼びかけたからだろう、少し緊張した様子でナギが応えた。
「…世界は、変わるかな……?」
「何だよ、それ。お前なぁ…“変わる”んじゃなくて、“変える”んだろ」
ナギは笑ってそう言った。
あんまりにも、清々しい笑顔。
「今、俺らがやってんのだって、朱雀の為だろ?汚れ仕事だって、誰かがやらなきゃなんねぇって……俺ら、必要とされてんだよ」
「…今回は、無茶過ぎるけどね」
苦笑いをして、私は動いたナギに続く。
パンッ、
と乾いた音が響いた。
どこか別の世界で起こっている事の様で、体が地面に着くまで被弾したことに気づかなかった。
どくどく、と脇腹から血が流れていく。
痛みなんて、状況が分からなくて感じなかった。ただ、どうなっているのか理解出来ない。
「……っユリ!!」
私が倒れた音に、ナギが振り返り近寄ってこようとする。
それを、私は鋭い声で止めた。
「来ないでっ!!私なら…大丈夫だから」
「そうは言ったって……!!」
「いいから!!早く行って!」
ナギは下唇を噛むと、私に背を向けて走った。
だんだんと、脇腹が痛くなってきた。
と、また乾いた音が響く。もう、放っておいても死ぬのに……。
「侵入者だ!!」と男が叫びながら近づいてくる。
「……す、えーす……っ」
ぽろぽろ、と粒のような涙がこぼれ落ちる。痛くない。痛くはないのだ。
大好きなエースの顔を思い浮かべて、口角が上がった。
私は忘れられてしまうけど、私はエースの事を忘れない。なんて幸せなんだろう。
エースは私との永遠を望んでくれたけど、やっぱり……穢れた私とじゃ無理だったんだよ。
これは罰。
あなたの記憶に残らなくてよかった。
叫ぶよ 君の名前を
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