思えば、出逢うべくして出逢ったのかもしれない。
その日、我は任務中に怪我をした。そこまで深くはなかったが、脇腹をやられて、取り敢えず近くの町に寄った。
その町に寄ったところで、十分な治療を受けられる訳がなかったのだが、止血だけはしておきたかったのだ。


町の中に入れば、我を見た者が驚いて此方を見た。それもそうだろうな。
兎に角、我は、一番近くに居た女に、医者を呼ぶように言った。
女は、大袈裟な位頷くと駆けて行った。
それから、数分位で女は戻って来た。
何でも、この町で唯一医療に詳しい者は、今、手が離せないらしい。我は、女心に案内されてその者の所へ行った。
そこまで深くなかった傷からは未だ血が止まらず、ぼたぼたと地面に吸い込まれていった。


*

案内された家に行くと、我は単純に驚いた。この町で唯一医療に詳しい者は、まだ二十歳を少し過ぎた位で、車椅子に乗った女だった。
その女はその時、ぐったりとした子供を診ており、此方にはなかなか気づかなかった。

「ユリ……!!この人が、さっき言った軍人さんっ!!」
「あぁ、分かったわよ。そんな大きな声出さないで、今、診てるの」
ユリというその女は、此方をギロリと見ると、固まった。
しかし、すぐにまた子供に向き直ると、薬を出して渡した。子供と、付き添っていた母親を帰すと、ユリに手招きされた。

「服、脱いで」
近寄るなりそう言われ、我は素直に着ていたものを脱ぐ。そして、我を備え付けのベッドに座らせると、傷口を診られた。
そして、物凄く簡単そうに、
「んじゃ、縫っちゃおうか」
と彼女は言った。
そして、彼女は縫合用の針と糸を持ってくると、麻酔なんてしないままに縫い始めた。痛みはあったが、目を失った時に比べれば何でもなかった。
驚くべき速さで、傷口は縫い合わされた。
一応、と包帯を、ぐるぐると巻かれて終わった。

「…面倒をかけたな」
そう我が言うと、彼女はにんまりと笑った。

「いいよ。こんな珍しいお客さん、久し振りだったしね。まさか、カトル准将がこんな所に、逃げ込んでくるとは思わなかったし」

「……どこかで、会った事があるか?」
不意に、我はそう尋ねていた。見覚えがあったような気がしたのだ。
彼女は、くつくつと笑うと言った。
「覚えて貰えてたりしたのかな〜?私、元皇国の軍医」
ほう、と我はひとり納得した。
この腕前は大したものであり、町医者にしては立ち過ぎる。

「でも、足無くして、もう嫌になっちゃった」

へらり、と笑う彼女を、我はただ見つめた
。彼女は、まるで、足を隠すように掛けていたブランケットを捲って見せた。
両足とも、膝の辺りから無くなっており、履いていたズボンがぺこっとなっていた。

「カトル准将。貴方はさ、片目も失って嫌にならないの?…ましてや、貴方は准将になっても、未だに前線に出ているんでしょう?
なんで貴方はそんなに強いの??」

「……もう、我はただ進む事しか出来ない。戦う事しか、出来ないからだ。止められないんだ…。
我が愛国が、民が、望むものを手に入れる時までな。強さは、貴様らの希望だろう」

たぶん、我は自虐的に笑ったのだろう。
彼女は、泣かないでと言った。
泣く訳がない。もういい大人だ。
この位で泣く訳がない、そう言うと彼女は泣いてるよ、と言った。
まさか、と思って目尻に指先で触れた。
そこに涙はなかった。

「笑うと、貴方のこと好きになっちゃいそうだから、笑わないで」
彼女は、泣いていない我にそう言って笑った。
とても、嬉しそうに彼女は笑った。



笑わないで

実は、夢主ちゃんは准将の目玉摘出した人設定だったりした←←

130728      ねお


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