「あれ…?」
ふと、本棚に目をやって首を傾げた。
本棚には、数冊の本が並んでいるが、何時も埋まっている筈のところが空いていた。
「…何処へ置いたかな」
呟いて辺りを探せば、ソファーに無造作に置いてあった。苦笑いをして、本を棚に戻そうと手を伸ばすと、自然に動きが止まった。
指先を見て、再び私は首を傾げた。
薬指には、シンプルなシルバーのリングが嵌められていた。

「これ…誰かから貰った気がするけど、誰だったかな…?」

取り敢えず、本を脇に挟んでリングをまじまじと見る。
薬指からリングを外すと、内側に何かが彫られている事に気付いた。
其処には、私の名前とー…

「ク、ラサメ…?」

“知らない人”の名前だった。
もしかしてー…と思ったその時、キッチンから吹きこぼれる音がした。急いでキッチンに行って、火を止める。
そして、鍋の蓋を開けて再び動きを止めた。

「わ、私…何で…ッ!?」

鍋の中身はクァールのシチューで、好きでもないクァールを煮込んでいた事に驚く。
驚いた拍子に、脇に挟んでいた本が落下した。
乾いた音がして、辺り一面に、本の中に挟まれていたらしい手紙が散らばった。
動揺で手先が震えた。躊躇いながらも、数ある中から一通を選んで手紙を手に取る。
手紙の宛名には私の名前で書かれていて、送り主は…

「クラサメ、」

リングに彫られている名前だった。
こくり、と喉が鳴った。
震える指先で中身を読む。かたかた、と肩が震えるのが抑えられなかった。
手紙の中に詰まっているのは、“クラサメ”からの愛だったから。
先程、脳裏に浮かんだ考えに、目尻から涙が静かに落ちてきた。


大好きだった君の事なんて

どんな…人だったのかなぁ?



想いが強い方がわすれるんじゃないかって話。

121228      ねお


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