ありがとうございました!

何かあれば此方にどうぞ。





お礼小話

◎クラサメ






「おはよう、クラサメ」
彼は恐ろしい程の低血圧である。
いつも起きてくるのはギリギリであるし、朝食も二口が関の山である。
「あぁ」
今朝も不機嫌そうな顔をしている。
彼は、電気ケトルのお湯でインスタントのコーヒーを淹れると席に着いた。
その姿をバレないように見ながら、朝食を完成させる。
ふんわりと甘い香り。厚みがいい具合に美味しそうだ。
「おまたせ〜。はい」
「……」
「何、その反応」
「いや、別に……なんでもない」
目の前に置かれたフレンチトーストを前に彼が固まった。
「クラサメのは甘くないよ」
この間、引き出物で貰ったナイフとフォークを彼に差し出す。
小さく唸りながら、彼はナイフとフォークを持つと、小さなひとくちを作った。
「なんかね、クロックムッシュみたいにしたんだ」
野菜も食べてね、と付け加える。
「……あまくない」
「美味しい?」
「あぁ……美味い」
うふふ、と私はスタンダードな甘いフレンチトーストにかぶりつく。
今日はメープルシロップをかけてみた。
手で直接掴んで食べているから手が汚れてしまった。べとべとする。
「ん?どうしたの」
「……甘そうだな」
じっと私の右手を見つめて言うので、笑いながら手を振る。
「甘いのがフレンチトーストだよ」
そうか、と短く返事をして、彼は食事を再開した。

お、今日は全部食べてくれそう。
思わずにやけてしまう。
私は専業主婦なんて絶対になりたくなかったし、彼だって家庭を大事にするタイプには思えなかった。身内よりはより他数の未来を選びそう。
でも、クラサメのために料理を作って、家族のために仕事をして、誰かの波止場になるのもいいかな。

「ご馳走様」
はっ、と正面を見れば、綺麗になったお皿。
珍しく全て平らげたようだ。
ガタリ、と椅子を引いた音がして、私はいつも通りに「お粗末さま」そう言おうとした。
しかし、彼の行動によってそれは阻まれた。
右手を掴まれると、彼は私のべとべとの指を口に含んだ。リップ音がやたらにセクシーである。
驚いて彼を声もなく見つめていると、あの碧の綺麗な瞳と見つめ合った。
彼は、段々と眼差しを細め、きつく私の指を噛んだ。

「いっ……た!!」

何するの、と彼を睨む。痛い。
見れば、右手の小指にはバッチリと歯型がついている。
小指は汚れてなかったのに。
もしや、最初から噛む気だったな!?
クラサメ噛みグセあるもんね!!

「……クラサメのばーか」

目が潤んできた。いたい。
泣かないけど。泣かないけど、飄々とした面のクラサメを殴りたい。ふざけんな。

「なぁ」
「何?!」
むかついて、大きな声が出た。
しかし、彼は微塵も怯む様子がない。

「今週忙しい」
「あっ、そ!私も今週末は企画あるから!!」
「来週は時間取れるか?」
「……なんでよ」

「今度の休みに指輪買いに行こう」

………………は?
なに、ペアリングが欲しいってこと?
記念日じゃないし、なに?は???

「なに、私が出張行くのそんなに寂しいの?」
「結婚しよう」

クラサメは、驚いて目を丸くする私の唇と息を奪うと、いつも通りに出勤していった。
私はというと20分遅刻して出勤し、後輩に「にやけてますよ」と言われ、仕事も捗らず一時間残業する羽目になった。

.



back


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -