ウォルターはよく手を繋いでこようとする。
それは隣にいるときだったり、キスした後だったり。
さりげなかったり、繋ぎたいオーラ満々だったり。
とにかく、頻繁ではあった。
その頻繁に繋ごうとする手を俺はいつも振り払っている。
別に手を繋ぐのが恥ずかしいというわけではないけどこの手で触れていいのか戸惑う。
汚いとかそういう話じゃなくて、いやそれもほんの少しはあるんだけど。
この手は人間の手じゃない、武器だ。
能力を制御はできるけどアイツを傷つけない保障はないそういうものだ。
手を繋いで、もし腐らせてしまったら?そう考えたら手なんか繋げない。
そんなことウォルター本人は知りはしないのだが。
「バジル、手」
「やだ」
そんなこんなで何度目かの応酬。今日はいつもよりしつこいらしい。
「いっつも思ってたけどなんで手繋ぐの嫌がんの」
「逆に聞くがなんでそんなに手を繋ぎたがる」
「だって恋人だろ?」
まったく。俺が気を使っているのにコイツは。
「あのな、俺の能力を覚えてるか?腐食。触れたものを腐らせるんだぞ。いくらコントロール出来るとはいえ絶対腐食しないとは言い切れないし、手繋いでるときにもし万が一能力が出て、そしたらお前の手は腐食して爛れるかもしれないんだぞ!」
力説。馬鹿なコイツでも理解出来るように。
俺なりに心配しているのだ。
しばらくの沈黙。
「わかってるさ」
唖然。
わかってる?何を?危険だということを?
「そりゃお前の能力を見ている以上安全とはいえないけど、でもやっぱ手繋ぎたいし」
「お前それで腐食とかしていいのかよ」
こちらの心配など知らん振りで軽く言ってくれる。
「正直恋人と手すら繋げないことの方が辛い」
「正気かよ」
「まあ、」
「腐っても男ですから」
心配なんてしてた俺が馬鹿だった。
所謂ひとつのアンビション
(ていうかつまりさ、)(あ?)(俺のこと心配してくれてたんだ?)(うるせえそうだよ)