休日に自宅にいるのは好きじゃない。

不動がそう言って電話をかけてきたのはちょうど昼飯を食べ終わって食後に部屋を掃除していた最中だった。掃除機やら雑巾やらが置かれたままのリビングの黒いソファーに、不動は今我が物顔で寝転んでテレビを見ている。電話を切ったらすぐにチャイムが鳴ったから、多分家の近くまで来て連絡をいれてなかったことに気付いたんだろうなと思った。不動がこうして休日に突然家に来ることは特に珍しいことでもない。むしろ休日はいつもうちにいる。だからうちには不動のマグカップも歯ブラシも枕も置いてある。それが始めはむず痒いようななんともいえない気持ちにさせたが、今ではそれが当たり前になってしまっていて、互いのコーヒーにいくつ砂糖をいれるのかだとか、そういったことまですっかり把握していた。

いつもと同じように、不動のマグカップには角砂糖を3つ、俺のマグカップには角砂糖を1つ。不動が気に入って百均で買ったガラスのマドラーに先日入ってしまったひびを見つめながら、俺はそれらが溶けるのを待った。

リビングでじっと液晶を見つめる不動の目は、どことなく眠たそうに見えた。

「なあ源田」
「ん?」
「この女優、可愛いよな」
「そうだな」
「胸でっけえし」
「…胸かい」

けらけら笑う不動の前にマグカップを差し出せば、不動は気怠そうに体を起こしてそれを手に取った。女の見た目で大事なのはぁ、胸と、足と、目だよなぁ、なんて語り出したあたりほんとうに眠いらしい。熱いのが飲めない不動のために入れた氷をがりごりと噛み砕きながら、不動はこちらに視線を寄越した。

「源田は」
「ん」
「俺の見た目のどこがいい?」

不動はにやりと笑った。俺がそういったことを言うのが苦手とわかって言っているあたりたちが悪い。テレビを消されてしまって、嫌な沈黙が訪れる。

どこって、例えば顔とかか?でも指とかあと首とか足とか、あ、つまり全部好きなんだけど、それを言ったら負ける気がして俺はじっと考える。印象深いところを探せばいいんだ。

不動は相変わらずにやにやしながら、でもやっぱり眠たそうにこっちを見ていた。黙り込んだ俺を見ながら、不意に手を動かす。その白い手は俺の顔の輪郭を撫でて、耳たぶを摘んで、…引っ張った。

「っ…痛い!!」
「俺は、みんな好きだぜ」

無理矢理引き寄せられて近付いた顔のとろん、ととろけた視線は眠たそうに見える。けれど、どこか厭らしくも見えてしまって俺は顔を逸らす。その間も不動は俺の顔の上を蠢きながら、ここも、ここも、と呟いていた。するすると手が下りていって、俺の手を握る。その手を持ち上げて軽くキスを落とす不動は紳士的な顔など全くしていなくて、唖然とする俺にしたり顔を見せ付けながらそこを舐めた。あ、これは。

「…なんか…猫みたいなとこ」

不動が不思議そうに眉をひそめながらこっちを向いた。何を言ってるのかわからないといった顔だ。似てるよ、とつなげれば、不動はやっとわかったようにまたにやりと笑った。ふざけてにゃあ、と鳴いた不動の頭を撫でてやる。ふわふわした頭髪はメッシュの箇所だけが少し固かった。




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