敦也生きてる/士郎が盲目/SS集
1
僕は目が見えない。両目が白眼で生まれたらしくて、生まれたときから僕は光とは縁遠い存在だった。だから家族には必要以上に愛されたし、小学校の友達も、中学生の友達も、みんなみんな僕には優しかった。僕は目が見えなくてカワイソウだからだ。同情。それが僕には悲しい。
(可哀想だね、可哀想だね、私に、僕に、何かできることはない?)
そう言われるたび、僕はほんのちょっぴり泣きそうになる。僕は辛くないよ、幸せだよ。可哀想だなんて、言わないで。
2
人とは違う僕の瞳は真っ白で、それが友人達は少し怖いという。周りのみんなは茶色や黒だから、唯一白い僕の瞳が怖いのだという。けれど敦也がそれを見て兄ちゃんの目は雪と同じ色だね、綺麗だねと笑うから僕は自分の瞳がそこまで嫌いじゃなかった。ただ、ほんの少し恨めしいだけ。
兄ちゃんの目が羨ましいよ、俺、雪が好きだから、死ぬまで一緒にいれる兄ちゃんが羨ましい。兄ちゃんは綺麗だよ。
僕にはそんな敦也が羨ましくて仕方ないのに、弟に対して劣等感を感じてしまう僕が悔しい。でも優しい敦也が僕には必要で、だから僕は今日も君の手を握って泣くのだ。
3(大学生)
兄ちゃん、犬、欲しくない?
ある日敦也は僕にそう聞いた。盲導犬じゃなく、普通の小型犬だ。お父さんとお母さんは北海道にいるし、自分が大学に行ってる間の僕が寂しい思いをしているのではないかと、そう考えたらしかった。そんなことないんだけど、でも、でも飼うなら。
元気で、うるさい犬がいいなあ。
そう言えば敦也は疑問の声を上げて、でもすぐにそれに気付いてちょっと拗ねたような声に変わる。…そんなに俺ってうるさいかあ?とぼやく敦也は、自分がうるさいという自覚がないみたいだ。君の代わりなら、元気に吠えてもらわなくちゃ。僕は君が言うとおりの寂しがりだから、犬を飼うなんてのもいいかもしれないね。そしたらきっと犬に夢中になっちゃうな、なんて言えば、君はもっとうるさくなるだろうから、言わないけれど。
僕の世界には色が無いから、色は敦也が決めてよ。そういえば敦也は、じゃあ兄ちゃんの目と同じ白がいいな、と言う。僕の世界は真っ白なのに、白じゃどこにいるかわからないよ。
すると敦也は、その分兄ちゃんの名前を呼べばいいんだろ?って笑った。
真っ白な僕と真っ白な幸せ
111031