「喉渇いた。腹減った。」
俺の押し掛け同居人の吸血鬼が言う。
「腹減った…血が足りない、くらくらする。」
こうなるとこいつはうるさい。仕方無く左腕の袖を捲ってヤツの前につきだす。
「うるさい。ほれ、さっさとしろ。」
だがしかし、折角俺が親切にも血液提供してやると言っているのにヤツはいらないとかほざきやがった。
いらないじゃねーよ、テメェがうるせーから言ってやってんだろが。迷惑なんだよブッ飛ばすぞコラ。
「だぁってアンタ、貧血気味じゃん。この前だって血、飲ませてくれたあと倒れてたしさー。」
「るっせ!何回も大量に血ィ抜かれてたらしかたねーだろうがバァカ!!」
つーか原因テメェだろ!ふざけてんのか!と叫ぶ、と同時にクラッときた。またか、最近目眩とか立ち眩みが多くて嫌になるぜ。
「だからこれでも抑えてるし、その上少しずつしか血採ってないし?」
つーかさ?とヤツは続ける。
「その辺のやつから血採るの許してくれりゃ、こっちは腹いっぱい、アンタも立ち眩みに悩まされなくて済むんだぜ?」
そっちのがお互いいーじゃん。なんでダメなんだよ?とヤツは言う。アホか
「ダメに決まってんだろ。自分のために関係無いやつに迷惑かけられっかよ。」
「アンタって口も素行も悪い癖にそういうとこはイイコちゃん…ってか頭固いよな。」
関係無いならいいじゃん、関係無いからいいじゃん。とヤツは呟く。
確かにそういう事を言うやつだっている。でもな、それっておかしいと思うんだ、俺は。
何で俺が、関係無いやつがやらかしたことを関係無いやつが引き受けなくちゃ、背負わなきゃならない?
俺はそんなん引き受けたくない、仮にそんなことがあったとしたら絶対許せない。自分の事は自分で片をつけるべきだ。
「そんなんじゃねぇよ、イイコなんじゃない。ただポリシーに反するだけだ。」
それに―
「それに、テメェに血ィ吸われたら、変なもんいっぱい見えるようになるじゃねぇか。」
例えば俺の部屋、例えば教室の隅、例えば人通りの少ない路地裏。
色んなとこに、今までは見えなかった“変なもん”がうじゃうじゃ見えるんだ。気持ち悪いし、見たくない。のに、見えるんだ。
こんな思いをするのは俺だけで十分だ。こんな気が狂いそうな思いをするやつを増やしたくないんだよ、俺は。
―だから、悪ィが
「我慢しろ、してくれ。」
そう言って頭を下げる。分かってくれよ。
「アンタはそんなこと言うけどさぁ!嫌なんだよ!こっちだって!!」
ヤツが叫ぶ。頭を上げてヤツの顔を見る。怒っているような、泣き出しそうな、そんな表情だった。
「嫌なんだよ、こっちだって…」
初めての、友達、なんだ。そう言うと我慢の限界がきたのか泣き出した。
「だから、だから…傷つけたくないんだよ!でも、そうしないと生きてけないんだ。だったら離れればいいって思った、思ったけど!けど、できなくて一緒に居たくて…」
と、そこまで言ってヤツは唇を噛んで俯いた。なんとなく、この後に続く言葉が分かるような、でもそれを聞きたくないような気が、した。何か声をかけた方がいいのか考えている間に、ヤツは顔を上げ、言った。
「一緒に、居たくて…居たい、けど。でもやっぱ、それ以上にアンタに負担かけたくないから。だから、」
「うるさい!俺が居ていいっつってんだから黙って居りゃいいんだよ!」
「…っ!ごめん。今までありがとな。」
そう言い残してヤツは消えた。
そう、消えたんだ。パッと散って、霧のように、幻のように俺の生活から居なくなった。

あれからもう5年、未だにヤツは戻って来ない。
戻って来いよ、もう貧血治ったんだ。まだテメェのもん捨ててねぇんだ。
だから、だから…戻って来いよ…。友達、なんだろ…?

哀しみと苦しみばかりを繰り返し



title:秋桜-コスモス-


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