01.鼓動

どくん、どくん、どくん、どくん。

(うるさい、うるさい)

壁に掛けられた暦に目をやると今はもう4月。入学して早一年が経とうとしている。そして昨年の私と同じように初々しい制服に身をまとった一年生が桜並木が立ち並ぶ門の間を潜り抜けている。今年は異常気象で桜が咲くのも散るのも早い。心のどこかが切なくてきゅうんってなる。ただ今、教室窓際後ろ座席から校門をなめ回すように見ている私だが、決して不審者なわけではない。前を向いていると隣から視線が感じる。右隣の席に座ってる奴の視線が痛い。怖くて横を向けない。

「おい」


低くドスの聞いた声が(おそらく)私に話しかけている。恐怖で横に振り向けない。というよりも今振り返ればヤられる。そんなわけのわからない妄想に私は悶々と取り付かれていた。


「・・・・・・」

「おいってば」

「・・・・・・・・・・」

「無視してんじゃねーよ」

「・・・・・・・。」

「…ちッ」


隣からスラっとした足が伸びてきて、私の椅子を思いっきりゲシゲシと蹴りはじめた。あれ、あれ、あれ、なんでこんなにどきどきするんだろう。まさか恋、恋なのか!?うそですごめんなさい恐怖で言葉が出ませんでした。蹴らないでください、私、もう我慢できません。あの、ほんとに…もう勘弁してください。
ラスト一発、今までとは違う大きな蹴りが椅子から私の背骨目掛けてビリビリと走る。


「ひぃっ」


体が硬直する。体が飛び跳ねて、そして隣で私の椅子を蹴った本人も私の行動にびっくりしたようで目を丸くしている。うわー、恥ずかしい。変な所見られちゃった。手に握り締めたシャーペンと一緒に指がカタカタ震えてみっともない。

「あ、悪い」
「え…?ふ、不動くんは悪くない…よ」
「・・・はぁ?」

また、大きな声を出す彼に凝りもせず私の体はビクついてしまう。全くお恥ずかしい話だ。中学二年生なのに大声で泣きそうになるなんて。やけに心臓がどくんどくんと脈を打ってこのまま心臓だけ跳ねて体から出て行ってしまいそうだ。彼がオイ、と第ニ声を出しかけたと同時に消しゴムが上へ大きく飛び上がり彼の机の下に落ちてしまった。あぁ、見えない見えない分からない分からない、消しゴムなんて知らない。

「落ちたぞ」

笑いを含んだ堪えるような声に安堵の溜め息をつく。よかった、怒ってない。彼がそのしなやかな指先で私の消しゴムを拾い上げるとその消しゴムを握り締め、握り締めた拳を「ん、」と私に押し付けてきた。私が出した手にその荒々しい行動とは対象的に丁寧に掌に置かれた消しゴムを見て私はしばらく動けなかった。

「おい、大丈夫か」
「へっ…!?あっ、ありがとっ」
「おう、」

以外な一面に跳ねていた心臓ももう絶頂を迎えているのかもしれない。体の中が窮屈で心臓の脈と同時に内臓も一緒に揺れている気がした。締め付けられて痛い。外は一年生で騒がしく、桜の花弁が教室に入ってきた。また、隣の視線が気になる。どくん、どくん。また心臓が騒がしくなってきたみたい。

(うるさい、うるさい)





春の風にまどろむ素振をしながらも、彼の存在が脳裏に焼きついてはなれない。あぁもう五月蝿い。早く席替えしたいなぁ。

0727