#9.
side.Conservation

しかしそのプログラムに支障があったのは予想外だった。私も、精神的に相当参っていたのか。
機械のディスプレイたちは真っ赤に染まり、前回以上のけたたましいサイレンは、きっと耳鳴りを避けられない。
鬼の形相で職員たちは私に詰め寄った。

「お前は俺たちの仕事を台無しにする気か!」

そして私は独房に閉じ込められた。私の世話は、あのモルモットと呼ばれる少年たちに任される。つまりそうゆうことだった。日頃から残虐な行為を強いられている彼らはきっと、私に対して容赦はしないだろう。弱者は弱者にしか攻撃的になれない。私の組織的立ち位置は落胆したということだ。私の命の尊厳は、この幼い少年らに託される。
つまり、同じことをされても私は文句が言えないし、対抗する戦力もなかった。
そして、自分たちが日頃虐げている者に世話をされるという環境こそが、私に課せられた罰なのだろう。あの人たちは、プライドが高い。私にも同じようにプライドがあると思っているだけましなのか。いやどうだろう。
なんにせよ、私の命はあの少年たち次第ということだけは確かだった。

「あーあ、なんでこんなことになっちゃったんだろう。」

二兎追う者は一兎も得ず、というか。モルモットを助けようと思えばこんな仕打ちだし、自分の地位を大切にしようと思えば、見殺しにしてしまうし。もうヤケになりそうだった。

喉が渇いたなぁ。


「ねぇ。」


いやに冷たい声だった。
けど、その冷たさは私たち組織の人間たちとは少しだけ違っていた。

「しんどいの?」

そう言って、私の顔をゆっくりと覗き込む、白皙の少年。この前、水槽の中に沈んでいた少年かもしれない。あまりにも不健康そうな風貌に私は眉を八の字にした。

「大丈夫です。ただ水が欲しいかも」
「ちよっと待ってて」

少年はとことことどこかへ行き、しばらくしてからコップ一杯に水を汲んでやってきた。

「どうもありがとう」

私は、そのコップを受け取り、ゴクゴクと喉を鳴らした。それは、本当にただの水道水だった。

「本当にただの水なんだね」

皮肉のようにそう呟くと、白皙の少年は頭をボリボリと掻いた。クビに掛かったナンバーは11だった。

「私たちはみんなあんたに少しだけ感謝している」

少年にそう告げられ、私は首を傾げた。よくわからないが、私は少年たちに感謝されているようだ。
素直にその疑問を彼に問いかけてみれば、以外と簡単に返事は返ってきた。

「お前があの装置に致命的なバグとエラーを、想定外でも起こしてくれたせいで、私たちの計画がスムーズに進む。なにより、今はあの装置の復旧作業で実験どころじゃない。」
「その計画ってところに引っかかるけど、そうなんだね。結果的に君たちが少しでも安息できたなら良かったかな」

少年は目を丸くした。私も私で、おかしなことを言っている自覚は少しだけあった。組織側の人間なのか、モルモット側の人間なのか。どっちつかずな発言をしている私は、とうとう頭のネジが数本外れたのだろう。今までの業務という言葉が、気泡になって頭から離れていくようだった。
それが果たして喜ばしいことなのかは分からないが、たぶん大きく世間一般としての普通の感覚が、今私に戻ってきつつあるのかもしれない。
どうせならあのまま洗脳され続けてくれたほうが、私には楽だったのに、と心の中で落胆をしていると、白皙の少年は複雑な笑みをこぼし、私に問いかけた。

「お前は結局どちら側の人間なんだ?」


そんなの私が一番知りたい。