#6.
side.Guinea pig(no.10)

オレはあの時、どうしても自分を殺さないといけなかった。ヒロトが泣きながらオレたちの仲間を殺した時、このままじゃ身体より先に心が壊れてしまうと悟った。
ヒロトはもうすでに、心が壊れて始めていた。風介はあの水槽から出てくるのか分からない。

サイレンが鳴って、悪魔たちが人数がかりでヒロトを取り押さえている中、オレとなんら年の変わらない女が、作業服とマスクをして入ってきた。
ヒロトが壊したこの装置を修理しにきたらしい。

そしてオレは、都合悪く順番が回ってきて、オレのナンバーを呼ばれる。渋々部屋に行くと、女も付いてきた。一体なんだっていうんだと思いながら、診察を受けていれば、ヒロトのせいで機嫌が悪い悪魔が、オレの目を見て呟いた。

「目の色変えてみよっか」

訳が分からなかった。きっと、これは研究でもなんでもないんだと内心悟った。悪魔が持っている注射器に入っている液体が、何なのかは分からないが、確実に目の色を変えるような万能な薬でないことは一目瞭然だ。なにより、悪魔の後ろには塩酸まがいの薬物が転がっていた。俺なりに考えてみると、この悪魔たちの意図はやっぱり、オレたちの心を壊すことにあると思う。

女は相変わらず、オレのことを静観している。きっと、この女も心が壊れかけている。無理矢理開かれた眼球が乾いて、目に涙が溜まった。どんどん近づいてくる針の先端に、俺は叫んだ。くるはずのない助けを呼んだ。そうじゃないと、自分が自分でいられそうになかった。

プチュリ、と眼球に注射針が刺さって、視神経を伝って脳に指令が伝わる。眼球の中に異物が入りましたよーってなかんじで。最初は、きもちわりーなぁていどで済んだ。そんなの1コンマ程度の猶予をもって、オレの脳味噌はけたたましく軋む。
たまらずオレは叫んだ。激しい頭痛が、オレを襲うからだ。生理的に溢れる涙もまた、刺激物となってさらに痛みが襲いかかる。まるで眼球を鋭利なもので貫かれているような、死にたくなる痛みだった。叶うものなら、今すぐこの眼球を抉ってやりたい。手元に拳銃があるならば、いっそ楽になるのならと自分にあてがうだろう。眼球がどんどん膨張していっているのが分かる。
オレはただ、痛みという恐怖と戦っていた。口からは唾液がだらだらと溢れる。言葉なんて発することもできないほどの激痛に、体は痙攣する。


パチュン、と何かが弾けた。オレの右目だ。
右の鼻から異常なくらい、鼻水がでてくる。どろりとした感覚が頬を伝った。左目で懸命にそれを追えば、それはオレのどろどろに溶けた眼球だった。

言葉を失う。こんなにもあっけなくオレの右目の光は消えてしまった。悪魔はただ薄ら笑いを浮かべていた。とうとう俺は、自分の心を殺さないといけなくなった。

女は黙って俺のこの眼球が頬から流れ落ちていく様を見ていた。