!暗い







蛍みたいに炎を炊いて、もくもくと煙は冬の空に消えた。カーキのマウンテンパーカー。好みじゃなかったけどあなたの好みに合わせて着る服の系統を変えてみた。

引き際を知ることも大事だと、期待しすぎても求めすぎても結局は手に溢れてこぼれ落ちてしまうものだ。
財布を長財布から折財布に変えた。ポケットに収まるサイズ。そうすればスッとお金を取り出せるから。

思えばあなたに合わせるように、どんどん私の生活そのものは色を変えた。そしてあなたが私から離れていっても、財布も、服も、そして煙草だってやめられずに、縋るように変われずにいる。きっと変わろうと思えばいつでも変わることはできるのに、続けていればいつかフラッと戻ってきてくれそうで。今の心の抜け穴を埋めるすべを待っている。
あなたに合わせていつのまにかやめられなくなった煙草はやっぱり何度吸おうと美味しくなくて。仄かな苦味が口の中いっぱいに広がる。
こんな寂しくて寒い冬の日は自傷するようにおもむろに火をつけてしまう。あなたのキスと同じ味。いつになれば私は忘れることができるのだろう。
そして思い出したかのようにときたま連絡を寄越しては、欲を吐き出すような関係。いつになれば私は割り切って終わらせることができるんだろう。

連絡を待つように、仕事が終わってからあなたが友人と飲んで帰る終電スレスレまで時間を潰すのも慣れてしまい、早く仕事が終わっても家に帰ることすら億劫になってしまった生活。今日は連絡がきた、今日は連絡がないから帰ろう。なんて他人中心の人生何が楽しいのだろう。
握った携帯電話が小さく震えた。ディスプレイの通知には「きたいならお好きにどうぞ」なんて素っ気ない通知。それでも期待してあなたの最寄りの駅まで向かってしまう自分の足が憎らしい。

どうせ行ったところでろくな対応じゃないことくらい分かってるくせに。それでも一緒にいたいという私のエゴが帰ることを拒絶する。
見慣れたあなたの最寄り駅。駅を出てすぐの自転車置き場で待ち合わせ。終電で帰ろうとするサラリーマンやカップルが駅に向かっているなか、私は目立たないように煙草に火をつけた。

そして外界を遮断するようにイヤホンをつけて音漏れすれすれの音量に。選曲は聞き飽きたような暗いバラードのプレイリスト。傷んだ私の心に寄り添うような優しい歌声が鼓膜を揺らす。
誰かが私の寄りかかるガードレールを蹴った。俯いた顔を上げれば、誰がいるかなんてわかりきったことだ。

「あきお」

無言で私の前を歩く明王の後ろを私も黙ってついていく。ネオンに沈む明王の背中をぼんやりと眺めて、自分の堕落していく未来に悲観するのも、もう慣れた。思えば最初から手に入ってなどいないんだ。煙草に依存したところで、吸い殻はゴミ箱に消えていくように、私の思いもいつかゴミ箱に消えていく運命なんだろう。

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