忘年会終わり、ハメを外しすぎた職場、そして私はトイレを抱きかかえて撃沈。最悪なシチュエーションで年末の締めくくりを終えた私は、ひとしきり胃の中にあるもの全てを吐き切って、口をゆすいだ。

胃の中がかき回されているような気分悪さと、血行が良くなりすぎたのか、外との温度差でものすごく寒く感じる。身震いしながらの帰り道、タクシーに住所を告げて、座席にもたれかかった。

部屋につき、寝間着着に着替えた私は、手探りでポケットの中の携帯を取り出し、ついいつもの癖で、高校時代からの親友である不動に電話をかけた。只今の時刻はだいたい夜の12時くらい。寝てるかなぁ、コールが何度か続いて、もしもしと不動の低い声が聞こえてきた。

「不動ー聞いてよぉー」
「いつも俺に電話してくんのやめろよ」

飲み会帰りは決まって、不動に怒涛の電話をしてしまう。ほとんどが電話にでないけど、たまーに気が向いたときは相手にしてくれるそんな彼に甘えてしまう。不動と私の関係性を簡潔に述べるとするなら、高校からの部活仲間。そして会社の同期といったところ。会社が用意する寮に衣食住の食と住を委ねる私たちにとって、部屋の行き来は然程難しいことではなかった。

男子寮の進入に至っては。







夜の廊下は薄暗く、そして寒い。室内用のスリッパのせいで足音が長く続く廊下に響く。人目を気にしてそわそわと、不動の部屋に繋がる階段をのぼっていく。
言い訳のようにこっそりと忍ばせたいま流行りのCDも、いまやなんの役にもたたない。彼の部屋の前で少し立ちすくんだ。しかし、他の人の出入りの音が聞こえて、思わずドアをノックもせずに開けてしまう。自分が言い出したことに違いはないかもしれないけど、こんな夜遅くに男の子の部屋に一人で行くのはいかがなものだろう。緊張感が張り詰めた。

「ば、ばんわ〜」
「おいっす」

そう言ってベッドの上で私の気もしれず寛いでいる不動に思わずため息をついた。暗い部屋に目立って光るテレビは、私の部屋にあるものよりもふた回りほど大きかった。
不動は、ベッドの上からテレビを見ていた。私は、とりあえず床に座り込んで流れているテレビを眺めていた。

「なにこれ」
「録画した映画」
「ふぅん」

どことなく、自分の中で気まずい空気が流れる。とにかく、この酒臭い自分の口の中をどうにかしたくなり、彼の冷蔵庫から2リットルのペットボトルを取り出した。

「これコップとかは?」
「滝のみでよろしくドーゾ」
「え、えぇ〜」

いそいそとペットボトルを口に当てないように飲む。ゴクゴクと喉がなった。ペットボトルを冷蔵庫の中に直して、再び気まずいテレビ鑑賞に戻った。
秋とはいえ、夜は肌寒い。パーカー一枚とジャージだった私は、裸足で不動の部屋のカーペットにぺたりと足をつけているだけでは、決して温かいといえる格好ではなかった。

「寒い」
「ん」

不動から差し出されたのは敷き布団。まって。私はその敷き布団だけで寝ろってこと?ふざけんな、

「いやいやいやいや」
「あぁ?」
「いや、寒いから」
「知るかよ」

しばらく口論が続いて、私は不動のベッドの中にすっぽりと収まった。不動も私も、お互いベッドから退くつもりもないようで、観念した不動が呟く。

「まさかイノシシと共に寝る日がくるとは…」
「なっ、どうゆう意味よそれ」
「そのまんまだろ」

相変わらず不動は意地悪い。そんな言葉を言いながらも、なんだかんだ寒いと言う私に回された手はとても優しかった。正面から抱きしめられたせいで、体温が自分でもわかるほどあつい。

「お前、あったけぇな」

不動は呑気だ。わかってない。
私がどれだけドキドキしてたり、この状況をなんだかんだ楽しんでいたり、なによりも不動に対して恋愛感情を抱いていることをわかってなさすぎる。
いろいろとムカついて、私は不動の首に手を回し、思い切り抱きしめてやると、それに答えるように不動も私の体をぎゅうと抱きしめた。そして、まるで子供をあやすように髪を撫でながら、また一言余計なことを言う。

「お前、ペットみたい。なんか名前に抱きつかれても、犬にじゃれつかれてる感じだわ」
「ああそうですか、そうですか!」

不動もそうゆうことだ。ここは遠慮なく抱きついてやろうじゃないか。そう思い、お互いがお互いに抱きしめ合う。テレビで目にする添い寝フレンドみたいだなぁーなんて思いながら、不動のうなじに顔を埋めて匂いを堪能していると、少しだけタバコの匂いがした。

「不動タバコくさい」
「お、わりぃ。」
「べつにいいけど」

不動、タバコ吸ってるんだ。不動の呼吸する音が、もう耳のすぐそばで聞こえてくる。あったかいなぁ。そのまま微睡みにつきそうな私も、結局最後までベッドから私を出そうとせずに抱きしめたままだった不動も、お互いどちらも自分たちのこの距離感が壊れるのが怖い、臆病者なだけかもしれない。



知らんぷり
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