今日は土曜日。天気も良くって気温もちょうどいいお出かけ日和だ。
友達の誕生日プレゼントを買いに、私は一人で街に繰り出してきた。

お目当ての買い物を終えた後、喉が渇いたので喫茶店に入った。
ここの無料券を家族から貰ったのでアイスコーヒーに限りタダで飲む事が出来るんだけど、
…どうしようかな。やっぱりお金払って別のを頼もうかな。

ちょっとだけ悩んだもののやっぱりタダという印籠には勝てず、
橙色の小さな紙切れを手渡して店員さんにアイスコーヒーを頼んだ。


やってきてすぐのアイスコーヒーは、まだ少しだけぬるかった。
ぷくぷくと泡を吐き出しながら揺れるいくつもの氷は
液体の温度を維持させるためではなく、温かい液体を急冷させるために放り込まれたらしい。
その珈琲の海に浮かぶ穴の空いた四角い氷はそれなりの速度でその角を丸めていく。
ストローでぐるぐるとかき混ぜてその変化をさらに促す。早く冷たくなあれ。

一人で出かけると誰と話すわけでもないのにやたら喉が渇くよなあと思いながら
アイスコーヒーを飲み干そう、としてちょっとむせた。苦いよ、これは苦い。
失敗したなぁ、やっぱりお金出してジュースとか他のを頼めばよかったかもしれない。
小さく咳込みながらシロップとコーヒークリームに手を伸ばした。

淡い色合いに変わったコーヒーを横目に、先ほど買ってきた袋へと手を伸ばす。
これはさっきそこの雑貨屋さんで買ってきた、友達への誕生日プレゼントだ。
いつも髪をシュシュで結っている子なので、その子が好きそうなシュシュを選んでみた。
喜んでくれるかな。どきどきとニヤニヤがせめぎ合う。やばい、ニヤニヤが勝ちそう。
紙袋を覗き込みながらニヤニヤしてたら不審者って思われそうだ。
気を緩めるとにやける口元にグッと力を入れて、他へ意識を逸らそうと視線を外に向けた。


ガラス越しに見えるのは、多分、スポーツショップなのかな。
前からあったような気もするけど、どうだったかな。
自分とは無縁のお店だからかちょっと記憶がはっきりしない。

目を凝らすとお店の中にバスケットボールらしきオレンジ色の球体が見える。
バスケ用品も置いてるんだ。でもバスケ用品って他に何あるんだろう?全然わかんないや。
そうだ、ちょっと行ってみようかな。時間もある事だし。

そう思い立った私は溶けた氷と残った液体でうっすらとボーダーを成している
手元のグラスに視線を落とし、その中身を一気に飲み干して席を立った。


初めて入ったスポーツショップはちょっとした異世界だった。
運動部に入っているわけでもなく特にスポーツをしてるわけでもない
いたってノーマルな文化系の私にとって、こういうお店はなんだかとても新鮮だ。

きょろきょろとしながら店内を見ていると、とある一角が目に留まった。
なんとなく思うところがあってしばらくその場所をうろつき、そして小さな買い物をした。

レジで強面の店員さんから商品を受け取って何気なしに振り返ると、
壁際にバスケ用らしきシューズが何種類かかかっているのが見えた。
そう言えば、バスケのが気になって見に来たんだっけ。
もう会計しちゃったけどあっちの方も見に行ってみようかな。


壁の方に向かっていると、近くの棚に何かのユニフォームが置いてあることに気が付いた。
あ、これバスケの人が着るやつだ。ノースリーブだし素材もそれっぽいし。
アメリカの地名と背番号とあと人の名前が書いてあるけど、なにがなんだか分からない。
きっとどこか有名なチームのユニフォームなんだろうな。高尾辺りに聞いたら分かるかな。
ブルーとオレンジが鮮やかなユニフォームをするりと撫でて、そのまま壁際に視線を向けた。

壁にはいろいろなバッシュが所狭しとディスプレイされている。
これ何センチあるんだろう?すっごい大きい。そういや緑間もこれぐらいの履いてたっけ。

巨大な靴を手に取ってしげしげと見つめていると、
私のほかにもバッシュを物色しているお客さんがいた事に気が付いた。
私の横でしゃがみ込んでいるその男子に何気なく視線を落とし、
また手元のバッシュに視線を戻して、ふと何かを感じて、もう一度その男子に視線を向けた。


「…高尾?」


私がそう呟くと、しゃがんでいた男子は反射的に私の方を見上げ、
心底驚いた表情をしながら「えっ!はっ!?」と大きな声を上げた。


「えっ、何でお前こんなとこにいんの?」

「なんていうか…社会見学みたいな」

「ああそういう!?今マジで驚いたわ
…ってあれ、買い物?」

「うん、友達が月曜に誕生日でさ」

「いやもういっこの方の袋。この店のじゃん」

「ん?タオル買った」

「へー、つか一人?」

「そうだよ、高尾は?」

「オレはセンパイと一緒。今ちょっと本屋行ってっけど」

「なに、先輩パシらせてんの?」

「んっっなわけねえだろ!考えただけでも恐ろしいっての!!」

「ああ、あの先輩と一緒なんだ。……ん?」


なんか聞こえる。どこかでバイブが鳴ってる気がする。
近くから聞こえるので自分の鞄に手を伸ばそうとしたら、高尾が「あ、オレだわ」と呟いた。

高尾はポケットから取り出して「やばっ、着信」と慌てた様子でケータイを耳に当てた。
画面見た瞬間に背筋が伸びてたから、電話の相手はたぶん先輩だと思う。
高尾は「あーはい、了解でっす、今行きますんで」と短い会話をした後、
ケータイをポケットに突っ込んで、そして私を見据えた。


「用事終わったっぽいから、オレ行くわ」

「はーい」

「あ、来週の水曜は部活休みだから」

「了解、ありがとね」

「んじゃまた学校でなー」


そう言って手をヒラヒラさせながら店を出て行った高尾を見送る。
しばらくそのまま店舗の出入り口を見つめて、私も続いて店の外に出た。

さっきのユニフォームのこと聞けばよかったな、と思いながらぶらぶらと街を彷徨う。
今度学校で会ったら聞いてみようかな。でも校内で全然会わないんだよね。
たぶん緑間は水曜日の前後は居残りするだろうし、その時に高尾に聞いてみようかな。

そういや緑間って休みの日なにしてるんだろう。勉強?バスケ?
見当が付きそうで全く付かない。そもそもどういう人間なのかもふわふわとしか分からない。
この前の部活を見たせいでさらに複雑な方向にふわふわしてしまった気がする。

あの君臨っぷりを思い出し、何とも言えない気持ちになりながら二つのショップ袋を見下ろす。
喜んでくれるかなぁ、……喜んでくれるのか?
「でも買っちゃったしなぁ…」と少し渋い顔でぽつりと呟きながら、私はとぼとぼと帰路に着いた。


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