「…はじめ?」
「はい?」
「あ、やっぱりはじめだ」
「どなたです、気安く私の名前を……、っ貴女は!」
「久っしぶり!何年振りだろう?
あれ、もしかしてはじめも東京に引っ越して来たの?」
「…6年振りになりますね、僕は中学からこちらに引っ越してきましたが、
まさかこうして貴女と再会するとは…」
「えっ、じゃあ3年間は同じ東京にいたんだ!うわー、なんか不思議ー!」
「その制服は…青春学園ですか」
「そうだよ、はじめの制服は……どこ?」
「聖ルドルフ学院、新設校です」
「ほー…、そういえばテニスはまだやってるの?」
「そのテニスで実力が認められたので東京にやってきたんですよ」
「へえ!頑張ってたもんね、よかったね」
「ええ、当然の結果ですが」
「…はじめは昔のまんまだねえ、よしよし」
「や、やめなさい、こんな所で!」
「まぁ、しいて言えば…話し方が変わってるぐらいで」
「それは当たり前です、東京であの訛りは目立ちますし、
こちらの言ってることが理解できない人も多いですから」
「確かにね、私も最初は大変だったなー、
あ、その話し方のせいかすごく東京人っぽく見えるよ」
「そうですか?」
「でもあっちにいた時からちょっと都会っぽい雰囲気を出してたよね」
「んだげ…、………、そうでしたか?」
「うん、だからかなり馴染んでるよ」
「ほんて?そう言ってもらえると嬉しいですね、これでも最初は苦労しましたから」
「でもさ、さっきからチラッチラと山形弁戻ってるよね?」
「戻ってませんよ」
「んだべかー?」
「んだず」
「…今、言ったよね?」
「……言ってません」
「………」
「……貴女の、」
「…私の?」
「貴女の存在が、僕に地元の言葉を出させるんです…!」
「そんなこと言われても、…もう方言丸出しで喋っちゃえばいいのに」
「それはお互い様でしょう、貴女もすっかりこちらに馴染んだ口調になってしまって」
「そりゃ私は6年もこっちにいるんだから当たり前だよ」
「貴女は、……いえ、貴女も話し方以外変わっていませんね」
「それは褒め言葉?」
「自由に受け取ってもらって構いませんよ?」
「……あー、やっぱりこの話し方のはじめは違和感ある」
「僕だって貴女に違和感がありますよ」
「だよねぇ……って、ああー!私、買い出しの途中だったんだ!」
「おや奇遇ですね、僕もそうですよ」
「あああ、もう行かなきゃ、これっ、私の連絡先ね」
「どうも、後で連絡しますね」
「うん、またあっちの言葉で話そうね」
「…それは、遠慮します」
「遠慮しても出るくせに」
「しゃ…、知りません」
「ねえ今、しゃねって」
「言ってません」