初めて出会ったとき 
彼はほんの少しだけ名の知れた弁護士で
わたしはごく普通の学生だった。

7年ぶりに再会したとき
彼は弁護士ではなくなっていて
わたしは学生を卒業して働いていた。

かっちりと着こなしたスーツと
胸元に光るバッチが印象的だった男は
スーツとバッチを失い職業をピアニストと名乗っていた。

若者らしい服装をして
ネクタイの構造すら知らなかった少女は
対照的にかっちりとスーツを着こなしていた。


「髭くらい剃ればいいのに」

「だって、剃っても生えてくるんだよ」

「…ニット帽、ぎざぎざ」

「ぼくの髪に反映してるんだから仕方ないだろ」

「サンダルにパーカー、…」

「楽なんだよ、別に今の僕は着飾る必要ないし」


「…おっさん」

「…なんとでも?」


「この7年間、どうだった?」

「別に、そんな気を使って7年間も
音信不通になってくれなくてもよかったのに」

「…気、使うよ普通」

「そうかな?」


あっはっは、と とても楽しそうに彼は笑った。
ああ、きっと彼はとっくの昔に吹っ切れていたんだな、と
7年前と変わらない、むしろ7年前以上に楽しそうな彼の表情を見て思った。


あの成歩堂龍一が法廷に復活した、と
風のうわさで聞いた時はまさかと思ったけれど。

そして7年ぶりに訪れた事務所では
成歩堂芸能事務所と書かれた看板が
成歩堂なんでも事務所と手書きで直されていたのを見たときは
よし帰ろうと思ったのだけれど、(法律はどこへ消えたんだ)

そしてそしてかわいらしい女の子が
お客さんですかと飛び出してきた時は
ああついにそっちに走ったのかと思ったのだけれど。


「こんな大きい子、いつの間にこしらえたのかと思った」

「女の子がこしらえたとか言うなよ」


「あのねわたし、ずっとずっとこの7年間で
知らないなるほどくんになったんだろうなって思ってた
…今日会いに来るのも、少しだけ怖かった」

「…何も変わってないよ」

「うん」

「そんな簡単に変わんないよ、人間なんて」

「…うん、」


彼はなにひとつ変わっていなかった。

7年もの月日が経って、互いに年を取って、
その7年間の経験でお互い少しだけ成長して、
互いの見た目だって変わるけれど、お互いが持つ空気は変わらない。

その人の根っこの部分なんてそう簡単に変わるはずなかった。
わたしは7年越しにその事実にようやく辿り着いた。7年間、わたし何してたんだろう。

なるほど君も、あの頃のわたしも、何一つ変わっていない。
変わっているのは、その人をとりまく何か、ただそれだけなのに、。

(どうしてこんなに大切で簡単なことに、気付けなかったんだろう)


本棚の中、マジックや手品の本に埋もれながら
一番取り出しやすい位置に並列されている
六法全書と目が合って、泣きそうになった。

ああ、わたし、
ばかだなあ。


「もっと、早く、会いに来ればよかった」

「もっと、早く、会いに来てくれれば、よかったのに」


「………」

「………」


「お帰りなさい、なるほどくん」

「…ただいま」


(そして、パーカーの男とスーツの女は微笑んだ)


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