「パスタが食べたいです」

「…ぼくはパスタの気分じゃないんだけど」

「なるほどくんは何が食べたい気分?」

「…丼モノかな」

「うーん、丼か…」


近くもなく遠くもなく左右で一定の距離を保ちながら、
等間隔に植えられた街路樹の下、舗装されたコンクリートの上を歩くのは
おなかを空かせたなるほどくんと、同じくお腹をすかせたわたしだ。

この時間、お昼を食べるために彷徨う人たちで街は溢れ返っている。
そんなわたしたちも街を溢れ返す一因になりながら、
ぶらぶらと当ても無く、街を彷徨っている。

お財布を抱えたOLたちはカフェの前でメニューを見つめ、
サラリーマンはラーメン屋の前で行列を作り、
親子連れはレストランに吸い込まれていく。

そしてわたしたちはそんな波に流されながら、
当ても無く、見知らぬ人たちの目的地に向かってははじき出され
また新しい波に飲まれて、またどこかの目的に向かってははじき出され、を繰り返している。

それを繰り返すうちに いい加減限界だと自分のお腹が訴え始めた、ので
それでは自分達も目的地を決めようと、自分の意見を言ったところ
冒頭のようにやんわりと却下された次第である。


「…カルボナーラ」

「天丼」

「ペスカトーレ」

「カツ丼」

「ジェノヴェーゼ」

「牛丼」


「………」

「………」


「…百歩譲って、麺類で」

「百歩譲って、ご飯モノかな」


「…ねばるね」

「…そっちこそ」


人の波に吸い込まれて人の波に押されて、
赤になった信号機の下で、その白線の先に目的地があるわけでもないのに
その人ごみに紛れて、青を待つ。

ここまできたら、お互いの意志と尊厳のためにも
お昼ご飯論争の最終兵器 じゃんけん で決めるべきだろうか、と思案しながら
鉄の塊に踏まれ行く白線を見つめた。

そうして何気なしに顔を上げると、
信号機の先にある、とある物体がわたしの視界に飛び込んできて、わたしの脳を直撃した。


「「あ」」


思わず声を上げて、パッと彼の顔を見上げると、
どうやら同じ物を確認したらしい彼も
わたしと同時に声を上げて、パッとわたしを見下ろした。


「…わたしは、カルボナーラで」

「…ぼくは天丼かな」


お互いの希望と意志と尊厳を保てる場所を見つけたわたしたちは
互いに見つめ合い、そうしてコクン、と頷きあって
信号が青に変わると同時に、目的地に向かって歩き出した。


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